TOMIさんの舞台挨拶レポート5(カミュなんて知らない)

 7月1日(土)、『シネマ・クレール丸の内1』にて「カミュなんて知らない」が公開となり、 監督の柳町光男氏が来場され【舞台挨拶】と【囲む会】が実施されました。大変興味深いお話をたっぷりと 伺えましたので、皆さんにもご紹介したいと思います。本作の上映期間は2週間で、1週目は20時15分からのレイトショーでの 公開。『クレール』では6月より、朝オープンした時から当日全ての回の受付が可能になったので、 私は10時前に一度立ち寄りチケット購入を済ませ、入場開始時刻の20時に合わせて再度『クレール』へ 入館します。本作は海外の映画祭にも出品されていますし、昨秋の『東京国際映画祭<ある視点>部門』 では作品賞を受賞。一般公開は今年になってからなので、今年度の各映画賞でも様々な部門で候補となるでしょう。

 客席は4割程度の入り。もう少し埋まるかと予想していたのですが、夜になると早い時間から人通りが まばらになる岡山ですから、これぐらいでも仕方のない所でしょうか。それでも、舞台に登場される監督を お迎えする拍手の音はなかなかの大きさで、何とか格好はついたのでは。監督は、派手すぎない感じの白の ジャケットに黒ズボンといった出で立ちです。【舞台挨拶】は司会役の女性職員との質疑応答形式で進行。 マイクなしですが、大抵の監督は声が大きいので普通に喋ってもらえば最後列まで十分聞こえます━━こぢんまりした ミニシアターの利点の一つ。肉声なのがとても良いです。監督は朝から岡山入りし、取材を何本も受けておられたのだとか。 「今夜はサッカーワールドカップの試合もあるのに、こちらに来てくれて有り難いなあ。僕ならサッカー見ますけどね」(笑)。 本作をはじめ今まで撮ってこられた作品のイメージから、生真面目で堅い感じの人物を想像していたのですが、 実際の柳町監督は全然違い最初のひと言からユーモアに溢れており、場内の空気も一気に和みます。 映画も冒頭の掴みが大事ですからね。

tree_line.gif 41x506 2.06KB
「カミュなんて知らない」舞台挨拶レポート(続1)

 まず、製作のきっかけからお訊きします。監督は2003年までの3年間、 客員教授として早稲田大学で映像ワークショップを開講しておられました。 「週2回教えている内、ふっと大学を舞台にすれば面白いものが撮れるかも、と思うようになりまして。 大学のキャンパスを主な舞台にし、終始大学生たちをメインの登場人物にした日本映画は、 今まで有りそうで無かった筈。この歳(監督は1945年生れ)になったからこそ、私と同年輩の中高年が観ても面白い 青春映画が撮れるのでは、と考えたんですね」。映画は、2000年に愛知県で起こった男子高校生による 老婆刺殺事件を題材にしています。「人殺しを経験してみたかった」という動機が衝撃的だった、 あの事件です。その模様を、大学で映像ワークショップを受講する学生たちが映画にしようとしており、 本作はクランクイン直前の数日間と、ロケでの事件の再現を描いたもの。また、過去の有名な映画を引用したシーンが幾つも出てきます。「マニア以外の人にも楽しめるようにと思ったんですが、どうしてもマニアでなければ気付かないものが多くなってしまいました」。  登場人物の学生たちは実際の教え子たちをモデルにしているのか、との質問には。
「ああいう学生たちや教授、いそうでいませんよね。映画の登場人物として移し替えています。 いなさそうで、でも、いるかもと思われたら成功だと思う」。上映終了後、同じこの場所で 【囲む会】が行なわれるので、【舞台挨拶】は10分程度で切り上げられることに。 「観終って、率直な感想をもらえたら嬉しいです。賛否両論あるのは当然ですから」。

 [注記]上映後に行われた【囲む会】での監督からの解説や、観客との質疑応答の内容は、 ある程度映画のあらすじやシーンの説明をしておかなければちんぷんかんぷんになってしまいます。 必要最低限に抑えるつもりですが、これから本作を鑑賞予定の方は、レポートB以降の内容は、 映画を観た後で目を通して頂くのが望ましいでしょう(先に読んでいた方がより面白く観られる箇所も あるとは思うのですが)。また、特に鑑賞しようと考えておられない方が、もし拙レポートを読み、 観たくなって劇場に足を運んだが、事前に情報がインプットされていたため十分楽しめなかったという事態に なっても責任は負いかねますので、ご了解を。

tree_line.gif 41x506 2.06KB
「カミュなんて知らない」舞台挨拶レポート(続2)

映画は、2時間弱。上映終了後、短い休憩を挟んで【囲む会】がスタートします。 ほとんどの観客が残って、こちらにも参加された模様。
 監督は、今度は舞台上ではなく客席最前列前の床に立ち、舞台に軽く背をもたせかけた姿勢をとられます。 進行役の浜田館長からは「この時間は、皆さんと監督とで自由にお話し下さい」と水を向けられますが、 口火は切りにくく誰からも挙手がないので、とっかかりとして館長がキャスティング全般に関して質問し、 答えて頂きます。「提携を取るためテレビ局などに話を持っていくと、 まず妻夫木くんや柴咲コウの名前が出るんです。結局テレビ局が手を引いたので、 キャスティングは自由に行なえました。かなりオーディションもやりましたが、 主役の吉川ひなのと柏原収史は会わずに決めました。ひなのは昔から女優として好きでしたし、 柏原くんは『スリ』(4月に亡くなられた黒木和雄監督の2000年の作品)での演技がすごく 良くて記憶に残っていたので」。学生たちの撮る映画で殺人を犯す高校生役を演じた中泉英雄は、 撮影時は27歳。「歳を食いすぎているけど、会うだけ会ったら、良かった」。 自薦他薦を元にキャスティングしたり、最近2〜3年の青春映画をレンタルで 数十本観てイメージに合う俳優を探したりしたとの事。撮影は立教大学のキャンパスで、 夏休み時期に行なわれました。

 客席からの最初の質問は、チラシ等で主役の2人に次ぐ3番目に名前が掲載されている前田愛ファンの男性より、 「彼女の出番がすごく多くて、まるで主役のように思えました。何か彼女に関するエピソードがあれば、 お聞かせ下さい」。監督からは、「泣かせました。そういうつもりじゃなかったんですが。 一番出番が多い役ですよ。田中麗奈とかが演じると、主役として最初に名前が載るような役。 出演者の中で、愛だけが現役の大学生だったんですね。彼女はシナリオを読んで、すぐ役を 理解しました。けれど、今までの主な役柄をみてもお嬢さん俳優なんですな。今回の ようなインパクトの強い芝居は上手くなかったので、NGが多かった。頭では分っているくせに、 演技で表現できず...。何度もNGを出し、そして泣き出す。現場だけでなく、 控え室でも泣いてたようです。でも、そういう後の演技がいいんですな。本人に適確な演技プランが ない場合でも、泣いたことにより役を表現することが出来た。俳優によっては、泣かした方が良かったり、 怒らせた方がいい人とか色々います」。

tree_line.gif 41x506 2.06KB
「カミュなんて知らない」舞台挨拶レポート(続3)

 クライマックスで観客は、映画の迷宮に放り込まれます。 学生たちが撮る映画のロケが郊外の民家を借りて行われるのですが、問題が起こるのは男子高校生が老婆に 襲いかかり殺害に及ぼうとするシーン。途中でカットの声がかかり、スタッフは次のカットの準備に移る中、 中泉英雄演じる高校生役の学生は完全に役に入り込み、老婆役を相手に”最後まで”演技を続けてしまうのです。 それは撮影なのか・・・、撮影現場に舞い降りた”魔”によって本当に犯してしまった殺人なのか...。 「クライマックスの殺人シーンは錯覚する人が出るだろうとは思った。シナリオを書いている時も、編集している時も」。 ただ、観客を錯覚させる大きな要因となるその映像面での仕掛けは、当初から狙ったものではなかったのだそう。 「監督を任された学生がカットの声をかけているのに、家の中では老婆を殺そうとする演技が続いている。 あれはおかしいですよね。リハーサルでああいう状況になり、後で訊いてみると、演じる2人は私(柳町監督)の カットの声がなかったので演技を止めなかった、と言うんです。”あっ、面白いな”と感じて、 それを取り入れて、ああいう撮り方になりました。意図していない面白さ。映画は、現実と虚構の間を揺れ動いて いるものだから」。2日半というきついスケジュールで撮ったクライマックスシーンには、 ハリウッド大作映画の物量作戦に対抗するため何らかのヒネリを入れる必要性を感じておられたのだとか。 「緊迫感のある、迫真のシーンになってくれたのでは。人間って恐いよね、ということを実感してもらいたい」。

 先日、殺人事件を取材した原作のノンフィクションを読み直していて監督はある事に気づきます。 「犯行はだいたい10分ぐらいの短時間で行なわれたらしいんですね。映画で描いたのも、 ちょうどそれぐらいの時間。原作にそう書かれていたのは意識しておらず、実際の事件を想像しながら撮って いき編集してみたら、ちょうど10分ぐらいになっていたという事なんです。 劇中の犯行手順や犯人の行動は、実際に近いものだった可能性が高いですね」。 犯人役を演じた中泉くんは、当日は朝からイッちゃってたそう。 「あっちの世界に入り込んでましたね。後でインタビューに答えて、” あの日の撮影には、人を殺すつもりで臨みました”と喋ってましたから」。 「じゃあ、テイクは少なかったんでしょうか」と観客が質問を挟みます。 「少なかったですね。NGにすると、彼をこっちの世界に戻してしまうので」(笑)。
 クライマックスの後、スクリーンに映し出されるのは、畳に大量に流れた血糊を学生のスタッフたちが総出で 拭きとろうとするシーン。その行為の意味がよく理解できなかったという質問も━━「昔ちょっとだけ、 血糊を使った撮影現場を経験したのですが、あれだけ激しく畳を汚してしまうと、もう使い物にならないのだから、 雑巾で拭いたりせず棄ててしまうものなのでは?」。監督の解説は、「かなり丁寧に拭き取ってますよねえ。 あれは、シンボリックな記号として描こうとしました。学生たちが撮影現場の後始末をしている事を示そうとして」。

tree_line.gif 41x506 2.06KB
「カミュなんて知らない」舞台挨拶レポート(続4)

 まだまだ色んな話をお聴きしたのですが、主だった内容はご紹介できたのではないかと思っています。 約40分間に渡って行なわれた【囲む会】は、23時過ぎに終了。退場される監督に、大きな拍手を送ります。 座席から立ち上がりながら、一つ疑問に感じていた事を思い出しました。前田愛演じる女子学生は社会人の恋人に、 彼が仕事で遠方へ出かけていた数日の間に、「別々の男と2回キスしてしまった」と告白します。が、実際は3回なのです。
 監督はまだロビーにいらっしゃったので、質問させてもらいました。「あれは3回だったんですよねえ」。 その点について指摘した事は喜んで下さったようですが、後に続ける私の訊き方が間抜けでした━━「あれは、 どういう事だったんですか?」。「さあ、どういう事なんでしょう」、案の定、監督には悪戯っぽく 笑われてしまいました。私は「黙っていられなくて一応告白はするものの、肝心の部分は秘密のままにするのが 女なんでしょうね」と、”独りボケ突っ込み”ならぬ”独り質問回答”を展開し自己解決してしまいましたが、 柔らかい雰囲気の監督なので恥ずかしい思いをせずに済みました。わざわざおいで下さったお礼を簡単に述べ、 言葉を交わせた喜びを噛み締めながら、館を後にしたのでした。

 それにしても、ああいう楽しい監督とは思いませんでした。話し方も、とても味があるし。 昔、映画雑誌等で監督のお写真を拝見した筈ですが覚えておらず、どんな方なのか登場されるまで少なからず ドキドキしていました。実は1月に都内で本作が公開された際、東京の友人が【舞台挨拶】が行なわれた初日に 駆けつけ、顔を見知っていた監督にロビーで「前田愛は女優として素晴らしいですね」と話し掛けた所、 「君はあんなのが好きなのか」と意外な答えを返されたという事があったのです。”解釈に困った”と 彼からメールで伝えられていたため、恐い監督のようなイメージを抱いていたという次第。 今夜の【囲む会】に出て、1月に監督がどうしてそういう発言をされたのか分った気がします。 NGを多発する、手のかかる女優━━。が、撮影が終った時には、身内のような可愛さを感じる ようになっている事が多いもの。身内を褒められると、必要以上に謙遜しがち。だから、 つい自虐的な言い方になってしまったのではないでしょうか。
 本日は1日なので、イベント付きの本作にも千円で入場できました。 サービス料金でこんなに楽しませてもらい、何だか申し訳ない気がします。ふと思ったのが...、 せっかく監督に来館して頂くのだから【舞台挨拶】に1人でも多くの観客に入ってほしくて『クレール』は 採算面は重視せず本作の初日を敢えて7月1日に設定したのではないかという事。真偽の程はともかく、 遠路おいで頂き、楽しく興味深いお話をたっぷりして下さった柳町監督と、そして開催してくれた 『クレール』に大きな感謝を! (終)