TOMIさんの湯布院映画祭レポート'04(第29回)

 8月−−。 ここ何年か、私にとっては『湯布院映画祭』の季節。 幸い今年も、昨年に続き参加できることになりました。 期間は25日(水)から29日(日)までの5日間。 初日は夜8時から≪前夜祭≫イベントとして、由布院駅前での野外上映会で「座頭市 海を渡る」が 無料上映されます。本作は今年の映画祭で特集される希代のシナリオ作家・新藤兼人氏(ゲストで来場されます)の 脚本作。 野外上映会にも似合っているような座頭市シリーズはどれも観たい作品ですし、その上”新藤脚本”との 組み合わせとくればより惹かれますが、そんなに何日も休みを取れませんし、宿泊代もかかりますから、 私の現地入りは今回も2日目の26日(木)夕方の予定。 いつかは一度、≪前夜祭≫にも参加してみたいものです。
 さて、昨年は女優ゲストが「ヴァイブレータ」の寺島しのぶさんだけでした。結果として、 各映画賞の主演女優賞を独占した03年を代表する女優をお迎えできた訳ですが、 映画祭の開幕前は正直”華やかさ”に欠けた感じを抱いていたものでした。 今年は【松坂慶子、永島敏行、秋吉久美子、萩原聖人、奥田瑛二監督、竹中直人監督】などの 顔ぶれが予定されており、なかなかの豪華版という印象。 竹中直人監督の新作は原田知世が主演で、 彼女もゲスト陣に加わってくれたなら言う事なしなのですが、それは贅沢というものかもしれません。
 ともあれ、映画祭の充実度は第一に上映作品の内容次第。 今年は新作の特別試写が1本増え、全部で6本の意欲作が全国からの参加者たちを待ってくれています。 昨年は試写作品5本の内4本までもが私にとって傑作レベルのものとなった、過去最高の映画祭でした。 その分、今年のハードルは高くなりそうですが、きっと負けず劣らずの収穫をもたらせてくれることでしょう。

おすそ分けしたいほど楽しませてもらえたなら(そうなりますように!)、土産話をお届けに伺いますので、 その際は宜しくお願いします。 そういえば、今年は台風の当たり年。映画祭の時期に、どうかやってきませんように。

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湯布院映画祭レポート'04(1)

 過去3回と同じく木曜日出発〜月曜日帰着の予定で出かけた、今年の『湯布院映画祭』。 結果は、帰着が火曜日にずれ込む5泊6日の長期滞在になってしまったのでした。 原因は、今年の目玉ゲストのお一人だった松坂慶子さんが開幕直前に不参加となった穴埋めをするかのように やって来た超大型ゲスト【台風16号】のせい。ファイナルパーティー終了後の日曜の夜半過ぎから大接近してきた 台風は、翌朝になって遂に九州に上陸。 ために、月曜日はゲストの方々や参加者の多くが丸一日宿に足止めを食らう事態に・・・。 パーティーの席上、挨拶された来賓のお一人が「きっと台風も、映画祭に来たかったのでしょう(笑)」と 上手い事をおっしゃってましたが、正にそんな感じでした。 今年の映画祭にキャッチコピーをつけるとしたら−−”台風も参加したかった!『第29回湯布院映画祭』”。
 まず、当HPの管理人さんへの感謝のひと言から始めさせてもらいます。 実は、昨年のレポートを専用コーナーで保存して下さったお陰で、今年の開幕直前ちょっとしたいきさつから 映画祭の実行委員にそれを発見してもらい、映画祭のHPで紹介されたのです。 多くの実行委員にも読んで頂けたようで、会場では今年初めてその中の何人かとお話することが出来ました。 今年のレポートがまとまり次第、映画祭のHPで告知してくれるようにとの嬉しいリクエストまで。
 祭りの終りは、いつも寂しいもの。 けれど私には、夢中になった思い出を脳裏に再現しながら、 こうして書き綴っていくという大きな楽しみが残されています。 私にとっての『湯布院映画祭』の本当の閉幕は、 このレポートが完成した時。−−まだまだ映画祭は始まったばかりみたいなものです。  ゲストの生の声を出来るだけ多くお伝えしたくて、勇気を振り絞ってたくさんの俳優や監督たちにも 話しかけてきました。その場の雰囲気が幾らかでも臨場感を伴って再現できるよう・・・、 ゲストの素顔を少しでも適確に描写できるよう・・・、キーボードを叩いていきます。 興味のある方、【『第29回湯布院映画祭』再現ツアー】にご参加下さい。

湯布院映画祭レポート'04(2)

 現地入りして最初に向かうのは、事務局を通じて予約したいつもの宿。 今夜は3人の相部屋です。たいていが常連さんばかり。 会場へは、6時少し前に到着しました。まずはパンフレットを購入。 今年は、特集で取り上げた新藤兼人氏のシナリオも掲載されており、例年以上に読み応え十分なようです (シナリオが掲載されるのは珍しく、確か今回で2度目だとか)。 遠方の知人や、台風の影響で来られなくなった東京の友人へ送付するため、合せて4冊買い求めたのでした。
  ≪特別試写作品「ラマン」・・・26日(木)18:15〜≫
 昨年の映画祭で上映され、寺島しのぶさんの主演女優賞を始め数々の賞に輝いた「ヴァイブレータ」の 廣木隆一監督の最新作です。実は後で、最新作ではないことが分るのですが・・・。平日の木曜日の夜にも 関わらず、場内は8割方埋まっています。昨年の1本目の試写より2〜3割多い感じです。「ヴァイブレータ」 効果でしょうか。
 まずは、上映前の舞台挨拶から。廣木監督は、「暑いですね〜。『ヴァイブレータ』とはテイストが違うので、 楽しんで観て下さい」。主演は、可愛い感じの美人女優・安藤希(のぞみ)さん−−「22才が17才の女子高生を 演じちゃいました。3人のおじさまの愛人役です。楽しんで観てもらえたら嬉しいです」。最後は プロデューサーの永田氏、「同じ九州の北九州市で今年の2月に撮影しました。宜しくお願いします」。 さて上映開始ですが、1本目の試写作品について解説する前にお断りを。 映画は出来るだけ余計な事前情報など抜きに観た方が楽しめます。 けれど、ある程度は内容を説明しておかなければ、後のシンポジウム等でなぜそういう発言や 質問がなされたか理解しにくいでしょう。 明日の「透光の樹」は東京では10月に上映予定ですが、 それ以外は全て来年の公開。 試写作品については、ここで少し詳しく触れても、読まれた方が数ヶ月先の 公開時まで覚えていることはほとんどないと思うので、重要なネタばれ等には留意した上で 内容を記述していくことをご了解下さい。
 【17才の女子高生・チカコは、3人の男たちに1年間”愛人”として飼われる契約をした。 日々、男たちからの性愛を通じ、彼らの哀しみと秘密を知る】−−(映画祭の資料より)。 背中に天使の羽のタトゥーを入れ、少女は自殺するようなつもりで中年男性3人の待つレトロな洋館に向かいます。 「嫌いなの、自分の名前」−−そう呟く彼女に、男たちは”ハナコ”という名前をつけ、彼らはA,B,Cと呼ばれることに。 ただの平凡な名前に思えた”ハナコ”には、実は男たちが少女を愛人にするきっかけとなったある理由が隠されていたのでした。 「ヴァイブレータ」で主演の寺島さんは大胆なヌードをも辞さぬ見事な演技で、 各映画賞の主演女優賞を独占しました。 その廣木監督の演出だからこそ、 今作の安藤さんも信頼して全てをさらけ出す覚悟で出演したのかと観始めたのですが・・・。 残念ながら、スクリーンに映し出されるのはセミヌードまで。 上映後のシンポジウムで監督は「毎回おっぱい出してばかりだと何なので、 今回は自分でも裸は出さないようにしようと思ったし、安藤さんとの話し合いもあってあんな風に撮り方に なりました」。ただ、こういう内容の作品で女優がヌードにならないのは、どう考えても不自然。 大人の女優に飛躍するきっかけに出来たと思える作品ですから、安藤さんにはスパッと思い切ってほしかったもの。 もっとも彼女はまだ十代の清純な役も十分いけますから、 そういうからみもあって、 まだヌードにはなれなかったのかもしれません。ともあれ、 私にとっては、彼女を観ているだけでもかなり楽しめた作品でした。
 中年男に扮するのは、大杉漣・田口トモロヲ・村上淳。 実力派助演男優3人の激突です! 失礼ながら一人ひとりには主役級の男優ほどの華はないかもしれませんが、3人が並んだ所を観ると実に豪華! 大杉さんの役は、男性の観客なら”分る、分る”。 けれど、女性ファンは少なからず幻滅してしまうかもしれません。 彼は最終日の試写作品「樹の海」にも出演されており、両作を観ると、演技の振り幅の大きさがよく分ります。
 ラストは、シンポジウムで「ちょっとじ〜んときた」という感想も出た終わり方。流される曲が、 じんわりと胸に染みてきます。上映後、スクリーンに拍手を送れるのも、映画祭の嬉しいところ。
 シンポジウムの会場は2階。安藤さんの顔がよく見える前の方の席が取れるよう、 少し急ぎ足で階段を上ります。

湯布院映画祭レポート'04(3)

   ≪シンポジウム(「ラマン」)・・・前半≫
 私は今年も、パーティーを含む全プログラムに参加できる全日券ですが、 それ以外の方はシンポ参加料として入口で300円を払います。紙コップに入った麦茶をもらい、 席へ。一番前の列の端の方の席を確保できました。間もなくゲストの皆さんが入場してこられ、 前の長机の向うへ着席されます。 近くで見る安藤さんは、ほんとに美形です。大人の女性になる一歩手前の チャーミングさ。 映画は92分と、最近の平均に比べて短め。その分、シンポにたっぷり時間が割り当てられて います。 シンポはほんとに楽しくて、映画を観た人の多くがこちらへも参加。ほぼ毎回、立ち見も出る盛況ぶり でした。
 監督の第一声は「(一杯の客席から)迫ってくるものがある。恐いなあ。何しろ、 映画よりシンポの方が長いんだもんね」。「映画以上の事を語ってもらわないとダメですよ」と 追い討ちをかけるのは、女性司会者(実行委員が担当します)のKさん。彼女は、昨年の映画祭で 最高に楽しかった!と評判になった、「ヴァイブレータ」のシンポで初めての司会役を務めた人。 次回も是非、と再登板を願っていただけに、期待が膨らみます。
 もう一人のプロデューサー:成田氏と、カメラマンの鈴木氏もこの場に出席。 「ヴァイブレータ」の成功を受けて、本作の製作が開始されたのかと思いきや−−。 「『ヴァイブレータ』の公開前に、製作はスタートしてました。これからもエロティック路線を続けていきます」と 成田氏。氏は元々は『日活』におられた方で、「嗚呼!!花の応援団」や「天使のはらわた」などの大ヒット作を 手がけられた実績が。3人の男の愛人という難しい役どころについて、安藤さんは。 「最初はAVじゃないかと・・・。自分で演じる姿が想像できなかった。無理、無理。原作の漫画を読んで−−、 やはり無理だと。監督と何度かお会いする内、『少女は、男たちの所に自殺しに行くんだよ』という話を聞いて、 とっかかりに。自分の17才の頃の心情と通じるものがあったので、初めて挑戦してみる気になりました」。 彼女は、本作の演技それ自体では高評価を受けないかもしれませんが、大人の映画ファンに顔と名前を しっかりと覚えてもらえるでしょうし、色んな映画関係者から今まで以上に注目されることになるでしょう。

湯布院映画祭レポート'04(4)

   ≪シンポジウム(「ラマン」)・・・後半≫
 参加者から安藤さんへの質問で面白かったのは「A,B,C3人の男の中で個人的に好みなのは誰ですか?」。 −−答えにくそうです。ちなみに、Aは田口さん・Bは村上さん・Cは大杉さん。 司会のKさんが「湯布院だから大丈夫。東京までは届きませんから(笑)」とプッシュ。 安藤さんが口を開きます−−「Aかな。だって、優しいんだもの。誰か関係者に会っても内緒ですよ」。
 初参加の人から、まず「ヴァイブレータ」への賛辞に続いて、「ラマン」の感想が。 「いかがわしい内容に期待し、”はちきれんばかり”の思いで観たが、はぐらかされました」。 場内は爆笑です。この点は私も同意見。続いて、「ラストが生きていない。詳しくは後のパーティーで、 ひとつじっくりと」。監督は、尻込みポーズ。 この方は確か全てのシンポジウムで発言され、 初参加にして早くも名物論客の一人になられたようです。
 カメラマンの鈴木氏へも、別の人から「本作では『ヴァイブレータ』の時と打って変わってカメラを 固定しているが、どういう意図でそうしたんでしょう」と質問が。 無機質な感じを出すため、 平面的にしようとしたのだそう。廣木監督とは「ヴァイブレータ」以前から長くコンビが続いており、 今や完全に廣木組の一員といった感じ。監督からの補足は、「作品に寄り添って撮ってくれるので、 信頼しています」。
 2人のハナコか出てきて、やや混乱を招きやすい描き方になっているということもあり、 「ラマン」は「ヴァイブレータ」ほどには『湯布院』で受け入れられませんでした。 Kさんの司会ぶりも、苦戦気味。それでも、最初は感心しないという意見が多数でしたが、 後半になるにしたがって支持派の発言も増えてきたシンポでした。
 最後に、成田プロデューサーからは「劇場で製作費を回収するつもりで公開します。最初からビデオ化権などを 当てにせずに」と決意表明が。 作品の好き嫌いは別にして、こういう姿勢は絶対に応援したいもの。大きな拍手が送られます。 そして、最近すごく順調に作品を撮り続けられている廣木監督。「ラマン」は来年1月に東京で公開の予定ですが、 何とそれより早く、先日完成したばかりの本当の最新作「ガールフレンド」が11月に公開されるのだそうです −−「公開中の『機関車先生』も観て下さい」。「機関車先生」は岡山でも9月中旬からの公開。 同作のロケ地・お向かいの香川県では全国に先駆け5月下旬から先行上映が実施され、私は8年ぶりで 高松市の劇場まで出かけて行き、既に鑑賞済み。この後のパーティーで監督にお訊きしたのですが、 子供たちの出演シーンはやはり順撮りされたのだそう。全員がなかなかの好演。先生を見送るラストシーンの 涙はとても自然で、こちらもほろりとさせられたものでした。
 会場の客席には、「ガールフレンド」の主演に抜擢された山田キヌヲさんという若手女優が偶然来られており、 立ち上がって紹介されました。実家が宮崎で、帰省の途中に立ち寄ってくれたのだとか。 パーティーにも参加してくれました。 安藤さんは、年末にかけて映画が公開ラッシュ。 ますます売れっ子になっていくのでは。「シンポジウムは初めてで緊張しました」。 そんな感じに見せなかった所は、さすが女優さんですね。 もう一人の永田プロデューサーからは、 「最終日の『樹の海』という作品もプロデュースしておりまして、日曜日にまたお目にかかります」。 新作が2本も上映されるというのは、なかなかすごい事です。「来年また。この3人タッグ(廣木・成田・永田)で のエッチ路線の新作で呼んで頂きたいと思います」。
こういう褒め方をしては関係者に怒られるかもしれませんが、映画以上に盛り上がったシンポでした。

湯布院映画祭レポート'04(5)

   ≪パーティー(26日 夜)22:00〜≫
 パーティー会場へは、マイクロバスで移動します。 日替わりで地元の観光施設を使用。今夜は、庭園での立食形式のガーデンパーティーになります。

明日の試写作品:根岸吉太郎監督の「透光の樹」の主演男優・永島敏行さんが、 先乗りして参加して下さっています。同作は当初、他の男優でクランクインしたのですが、ある事情で降板となり、 永島さんが急遽出演する事に−−。根岸監督とのコンビは81年の傑作「遠雷」以来。公開時、 大阪まで遠征して観たその年の私のベスト1作品なので、主演の変更は大歓迎です。 出演依頼が来た当時の状況についてお話を伺いました−−「ちょうど舞台をやっている時で、映画とは発声法が 違うため、元に戻すのが大変でしたね」。永島さんは、本映画祭は今回で3回目か4回目のご参加。 今年のゲストはほとんど、何回も『湯布院』を体験されている方ばかり。廣木監督・竹中直人監督は4回目。 澤井信一郎監督・根岸監督・奥田瑛二監督などは5回以上になります。
 20年以上ぶりの根岸監督の演出はどうでした?−−「あの人は天才ですね」。 その意味する所はニュアンスで何となく分ったつもりになったのですが、具体的に理解できたのは翌日のシンポの席でした。どういう事かは、その項で。「遠雷」の脚本は、「ヴァイブレータ」でキネマ旬報賞を始め数々の脚本賞に輝いた荒井晴彦氏の作。今年は自身の脚本作が上映作品の中に入っていないため、ゲスト一覧にお名前が載っていませんでしたが、その荒井氏のお姿がこの会場に。招待ゲストでない年も自費で参加して下さっているようです。「荒井さんも来られてましたよ」。「あの人には頭が上らないんで」−−本当かどうか、ちょっと煙たそうにしておられた永島さんでした。
 パーティーが中盤に差し掛かる頃、本日のゲストの方々がこの場でも紹介され、 ひと言ご挨拶を頂きます。その後は、再び歓談タイム。「ガールフレンド」を 完成させたばかりの廣木監督は、11月に早くも次作のクランクインを控えています。 あの”ゴールデンコンビ”が再結集しての新作だとか。(具体的な内容は一応、伏せさせてもらいます) 「ガールフレンド」の主演女優:山田キヌヲさんは映画初出演。失礼ながら、まだ全国的には無名の女優さんなので 親近感が湧き近寄りやすいのか、若い女性参加者たちも積極的に話しかけていました。 私は芸名の由来について質問−−「亡くなった祖母の名前をもらったんです」。初めての映画はどうでした? −−「廣木監督は、まず自分の思ったように演じさせてくれ、自由な現場でとてもやりやすかったです」。
 常に参加者に囲まれていた安藤さんへは、「いっぺんにファンになりました。 これから応援していきますので」と短くひと言だけ声を。 もっと話せる状況ではあったのですが、若くて綺麗な女優さんを前にするとどうも照れてしまい、 なかなか長くは話せません。 実行委員の皆さん、来年も安藤さんのような女優ゲストを招待して下さい。 そうすれば、慣れてきてもっとたっぷり会話できると思いますので。

夜中の12時前にお開きとなり、宿が同じ方向にある者10人あまりで、川沿いの田舎道を歩いて帰ります。 今日の映画の感想や、ゲストの皆さんの話題を口にしながら・・・。

湯布院映画祭レポート'04(6)

2日目。会場ホールの壁には、前日のイベントをまとめた1ページの速報【express(エキスプレス)】が貼り出されています。デジカメ写真がプリントされ、手書きの記事が添えられたもので、毎日これを見るのが楽しみでした。
   ≪シナリオ作家・新藤兼人の世界U≫
 今年の特集は、監督としても50本近い作品を世に送り出した新藤兼人氏。 それ以上に、ご自身の監督作以外で177本もの映画化脚本を書き上げた希代のシナリオ作家として、 氏は映画史に名を刻まれています。今映画祭では”シナリオ作家”としての新藤氏にスポットが当てられ、 監督兼任の1作品を含む合計9作品が上映されます。
 一昨日、水曜日の前夜祭では、由布院駅前広場の野外上映会にて「座頭市 海を渡る」(66年)が。 それから昨日は、≪シナリオ作家・新藤兼人の世界T≫として「安城家の舞踏会」(47年)、 「斬る」(62年)、「ハチ公物語」(87年)、「才女気質」(59年)の4作品が一挙上映されました。 本日の『U』では、「しとやかな獣」(62年)、「昭和枯れすすき」(75年)、 「軍旗はためく下に」(72年)の3作品がプログラムされています。

「昭和枯れすすき」は、本日の試写作品「透光の樹」の主演女優・秋吉久美子さんが 二十歳の頃に出演された、刑事の兄(高橋英樹)とその妹のドラマ。本作は公開時に観ていましたが、 他の2作は未見。 共に見応えがありました。特に「しとやかな獣」は40年以上前の作品でありながら、 古さを感じさせません。あの時代に、こんなぶっ飛んだ登場人物を創作していたとは・・・! 後のシンポジウムで、この作品に触れて頂きたいもの。 客席の中央後方、ゲスト用のお席には 永島敏行さんのお姿があります。午前からずっと観られていたようです。なお、最後の1本・唯一の監督兼任作 「愛妻物語」(51年)は、明日の午前中に上映されることになっています。

   ≪シンポジウム(新藤兼人の世界)・・・前半≫
 客席がざわつきだしたので、氏が入ってこられたのがすぐ分りました。ゆっくりとした歩みで席につかれます。 同行され、隣の席につかれたのは、ご子息の映画プロデューサー:新藤次郎氏。次郎氏は、 兼人監督の作品も製作しておられますし、今映画祭のクロージング作・竹中直人監督の「サヨナラCOLOR」の プロデュースもしておられます。
 お歳のことをことさら大きく取り上げると、心外だと言われてしまいそうですが、氏は92歳のご高齢。遠方のこの地へおいで下さっただけでも有り難い事なのです。夜遅いパーティーへのご参加は無理なので、質問等はしっかりとこの場でしてくれるようにとの説明が冒頭でなされました。氏はきれいな白髪をしておられます。現在もかなりの健啖家でいらっしゃるとか。今年「ふくろう」という最新の監督作も公開されましたし、体力勝負の映画監督を長年やってこられた氏を、並の92歳と思ったらいけないのでしょうね。 司会は本映画祭ではお馴染みの映画評論家:野村正昭氏。
「記憶に残っている作品は?」との問いに−−「まあ、みな気に入ってますけど」(笑)と言いながら、 今回上映された「安城家の舞踏会」の題名を挙げられました。 1週間で書き上げたら、監督の吉村公三郎氏に びっくりされたのだそうです。 本作には語り継がれている名場面があるのですが、「あれは監督のセンス。 シナリオにはなかった演出ですから」。 期待通り、「しとやかな獣」にも触れられました。 氏は常に手元に書き上げた脚本を数本抱えていらっしゃるそうなのですが、 ご自分で監督するつもりだった本シナリオを川島雄三監督に見つけられ、「俺が撮るから」と 持っていかれたのだとか。 自分とは別の監督が撮ると、どんな作品になるのか興味もあったので、 あきらめたのだそう。 これだけの作品の仕上ったのですから、文句はないでしょう。
 口調もスピーディーで力強く、言葉に詰まることもなく、また昔の作品のご記憶も確か。 現役の映画監督を続けられているからなのでしょうね。「別の人が監督する作品のシナリオの 方が時間がかかります。自分が監督するものは撮影しながらでも直していけるけど、 脚本だけ担当する場合はしっかりしたものにして渡さなければなりませんから」。

次郎氏にも話が振られます。 兼人氏のシナリオは、読んでいてそのシーンの意図がよく分るのだそう。「他のライターのホンは、 なぜそのシーンがあるのか理解できないことが少なくないんですよね」。 監督とプロデューサーというのは、対立構造にあるのが普通。 (監督はもっとお金をかけて良い映画にしたいし、 プロデューサーは少しでも製作費を抑えようとしがちなものですから) 「血縁(親子)なので、最終的には監督の味方でいられるのが、このコンビのいい所でしょう」。 その映画(企画)がどれくらいの評価を受けそうかは大体わかるが・・・、 「ヒットするかどうかは読めないんですよね」(笑)。 兼人氏が1950年に設立した『近代映画協会』は、独立プロの走り。 監督であると共に、常にプロデューサー的な視点も要求されていました。脚本家であり、監督であり、 プロデューサーでもある−−「新藤は”総合的(オールマイティ)な映画人”と 言っていいんじゃないでしょうか」。 全くその通りだと思います。

湯布院映画祭レポート'04(7)

    ≪シンポジウム(新藤兼人の世界)・・・後半≫
 かたい話ばかりではありません。「女性は性的魅力がなければ、だめですね。 女優が持っている力は大きいです」。氏が話されると、全然いやらしくなく、素直に耳に入ってきます。
「シナリオの技術には自信を持っています。芸術家であるには、まず技術家であらねばなりません。 表現するための技術が重要なんです。”創造に携わる資格は、技術があること”」 −−さすがに説得力があります。 老人だからもう書けないんじゃないかと思われがちだけど、 と口調が少し愚痴っぼくなります。92年生きてきた間には、多くの挫折もあった。若い人はエネルギーはあっても、 本当の挫折の経験がない。老人だから、と卑下する必要はなく、逆に老人だから上手く書ける自信が、 たっぷりと。「なんで、もっとシナリオの注文が来ないのか。 もっともっと書けるのに」−−客席から大拍手です。
 氏は近年、舞台演出も手がけられています。 司会の野村氏から「新藤兼人の限界はないんですかね」と の感嘆の声。 「身の丈以上の事をやってみたい癖がある。映画は立体的な映像を積み重ねていくけれど、 舞台はフラット(平面的)。映画の演出の参考にもなる」−−来年も3回目の舞台演出を担当されるご予定だそう。
 世界にはまだ氏より高齢、確か93歳のオリヴェイラという現役の映画監督が存在しています。 「(彼の歳を)超えられたら、いいね」−−きっと大丈夫です。 とはいえ、新作が撮りにくい状況にあるのは隠しようもない事実。「最新作の『ふくろう』のDVDが 発売されるので、皆さんぜひ観て下さい」。
 あっという間に終了時間が近づいてきます。次郎氏は「最近は監督のことを『ウチの天皇がね』と 呼んでるんですけど」と兼人監督を苦笑いさせた後、折衝中の企画はあるが、実現までの道のりはなかなか 困難だと率直に語って下さいました。 続いて、兼人氏から−−。「締めの言葉は難しい・・・。 私は自分のことを作家と自負しています。心と格闘して、答えを求め続けているのです。 92歳にもなると、望みが少なくなりました・・・。あと10年も生きる筈はありませんから。 50〜60歳の頃はまだまだ生きると思ってたけど、限界が近づいています。車イスでは、演出は出来ません。 もし老人性痴呆症にでもなったら、原稿用紙とエンピツを与えて、放っておいてほしい。訳の分らないものを 書きながら、人生を終わりたいもんです」。−−会場のみんなと大笑いしながら、心の奥底が震えてくるのを 抑えられませんでした。何という生き様なのでしょう。
場内からは割れんばかりの拍手! 私はスタンディング・オーペーションをしたかったのですが、 膝の上にメモを広げていたし、立ち上がると後ろの人から新藤さんを隠してしまうので思い止まり、 その代り強く手を叩きながら、心の中では起立して拍手を送っていました。わざわざおいで下さった事への 感謝の気持ちに満ち溢れ、また周りの中高年の参加者からの敬意がひしひしと伝わってきた、 1時間半の至福のひと時でした。”今映画祭最大のイベント”だったかもしれません。 氏をお迎えできた事で、映画祭の財産がまた一つ増えたのではないでしょうか。
 昨年も、東映の社長を務められていた伝説的な人物【岡田茂】氏をゲストにお迎えできました。 今年は【新藤兼人】氏。 来年の30周年には、一体どんなビッグゲストが訪れて下さるのでしょう?!

湯布院映画祭レポート'04(8)

    ≪特別試写作品「透光の樹」・・・27日(金)18:15〜≫
 主演の永島敏行さん・秋吉久美子さんがゲストでいらっしゃっている事もあってか、ほぼ満席状態です。 前夜のパーティーの項でも触れましたが、本作は81年の傑作「遠雷」以来の根岸吉太郎監督と永島さんの コンビ作(「遠雷」で永島さんは各映画賞の主演男優賞を受賞)。 そして根岸監督にとっては、98年の「絆」から6年ぶりの新作となります。映画祭のパンフレットの記事で 初めて知ったのですが、この作品は何度も製作中止の瀬戸際まで行ったのだとか。 具体的に動き出してから5年が かりで、ようやくここまで辿り着いたのだそうです。
 ゲストの方々の登場−−。秋吉さんは紺の浴衣姿! 今夜の彼女は二十代といっても十分通用します。 いつまでも少女みたいな方ですね。 映画祭は常連の根岸監督、前回からかなり間が空いたこともあり感慨深げに 挨拶されます。「湯布院で最初に上映(一般観客向けには)されることになり、嬉しく思っています。 『遠雷』もここが初めてでした。『透光の樹』のロケ地は、ここと同じような山あいの小さな町。それだけに、 湯布院で上映されるのが余計嬉しく感じられます」。”待ち兼ねたぞ!”という拍手が送られます。 続いては、スクリプターの白鳥あかねさん。この方は業界ではかなり有名な方で、 組みたがる監督さんも多いのだそうです。彼女はこの仕事を始めて、今年で50周年。 これから表彰ラッシュが待っています。「50年という節目に、根岸監督と仕事が出来て誇りに思います。 監督のデビュー作でも一緒でしたから」。そして白鳥さんの初めての現場が、新藤兼人監督の作品だったのです。 永島氏は「遠雷」の時には都合で不参加。「今日は根岸監督と一緒に来られて、嬉しいです。50歳が近くなって、 映画で裸になるとは思いませんでした。油断しちゃいけません。お尻が大きすぎると言われてしまいましたが、 気持ちよく脱いでます」。
最後に秋吉さん。「映画祭が始まった頃から声をかけて頂いてたんですけど、 ようやく初めて来る事が出来ました。若そうに見えるれど、歳くってます。本日はとても光栄に思います。 普通の愛の映画ではなく、男女の切なさが燃え上って、透明な心に達していく様を観て下さい。現場では、 気難しそうな監督の顔色を窺いながら演じました。今日は監督の晴れ晴れとした顔を見られて嬉しいです。 あ・・・、それから永島さんのお尻は大きすぎません。ちょうどいいです」。
 本作は東京では10月に公開予定のため、正式なポスターが貼り出されていますが、他の作品はいずれも 来年公開のためまだポスター等は未作成。 他作品の上映時には、入口脇にスチール写真等を拡大プリントした 手作りポスターが掲示されていました。それはそれで、いい味が出ています。ところで、降板した男優は誰か というと−−萩原健一氏。 東京でのマスコミ向け試写会での舞台挨拶で、 監督の応援に花束を持って駆けつけた津川雅彦さんがリップサービスでバラしたことから、 ワイドショーの芸能コーナーで取り上げられ、知ることの出来た情報です。結果的には、交代劇があったお陰で 根岸監督との23年ぶりのコンビ作が実現したという個人的な喜びを抜きにしても、永島さんはなかなか適役で あったと思います。
【北陸の地で静かに深く燃え上がる男女の性愛をじっくりと描いた、大人のラブストーリー。 ラストで、思い出の樹に刻んだ相手へのメッセージが、泣き笑いをもたらしてくれます】−−東京での公開が近い こともあって、あらすじはこの程度にしておきましょう。 シンポジウムでのやりとりや私の感想で、 なぜそういう内容になるのか分りづらい箇所も出てくるでしょうが、想像力を働かせてカバーして 頂けますよう・・・。濃厚なベッドシーンは、「失楽園」以上。 中途半端でない迫真の濡れ場は、 たいへん勉強(?)になりました。 秋吉さんが、東京の永島さんの仕事場を訪ねてくるシーンがあります。 「来てしもた」−−こういう言い方をされると、男ならぐっときます。「来ちゃった」だと 引いてしまうかもしれませんが。 「俺たちは同じ船に乗った漕ぎ手だ。一人が倒れたからといって、 漕ぐ手をとめるのか!?」−−ちょっと臭いセリフも、そのシチュエーションと永島さんの自然な演技で、 素直に耳に入ってきます。 私が一番印象的だったのは、永島さんが仕事のスタッフたちとカラオケに行き、 ”最後の「マイ・ウェイ」”を唄うシーン。適度に下手なのがいいです。だからこそ、泣けてきそうにも・・・。 実は「遠雷」のクライマックスにも、永島さんが花嫁の石田えりと『わたしの青い鳥』をデュエットする名場面が あり、それを思い出してしまったのです。上達していない所が嬉しい、永島さんの熱唱でした。

好き嫌いの分かれる映画でしょうか。私は、ラストの思い出の樹に刻まれたメッセージに心を温かくつかまれて しまったので、満足ラインに到達した作品となりました。 本作は何年もかかって難産の末に完成しましたが、 時間がかかったことで最終的には監督ゆかりのスタッフたちが集結する結果に・・・。 エンドクレジットに出てくるそういう人たちの名前を見ながら、”為るべくして、こういう形になったのだ。 この映画は、時が満ち最高の形で完成されるのを待っていたのだ”−−と、ちょっと感傷的なことを思ったり したのでした。

湯布院映画祭レポート'04(9)

    ≪シンポジウム(「透光の樹」≫
 昨夜の「ラマン」女優ゲストの安藤さんはまだ22歳。参加者たちも遠慮して、 あまりストレートに彼女の”艶技”に突っ込むことはありませんでしたが、今夜の秋吉さんには手加減無用。 のっけから、過激な発言が飛び出します−−「やらしい体です、臆面もなく言いますけど」。 秋吉さんも大笑い。関係者にとって最高の褒め言葉だったのでは。私も2番目に挙手してしまいました。 発言したのは、もちろんあの熱唱シーンについて。言い方が失礼にならなければいいなとドキドキしながら 喋ったのですが、場内からも賛同の爆笑をもらい、ひと安心。永島さんも苦笑で頭をかきながら、 「言われるんじゃないかと思ってました」。「でも、だからこそ胸にぐっときたいいシーンでした」と すかさずフォローさせてもらいました。また根岸監督へは「新作のニュースがなかなか発表されず、 何をしているんだとちょっと恨みに思ったりした事もあったのですが、こんなに苦労なさってたとは 知りませんでした。恨んだ事をお詫びすると共に、完成に漕ぎつけられた事を心からお祝いしたいと思います」と お伝え。発言しようかどうしようか悩んでいるとシンポが楽しめませんが、これですっきりしました。 外国の女性も参加しておられ、流暢な日本語で「光のきれいな映画でした」と感想を。

根岸監督が完成までの紆余曲折についての質問に答えます。「6年といえば小学校に入学してから卒業する迄です からね」。何度も製作中止になりかけた具体的理由は語られませんでしたが、脚本の田中陽造氏と必ず 年2回お酒を呑んだのだとか。春、動きだしそうになり脚本の部分直しの打合せを兼ねて。暮れ、 流れたクランクインを追悼して。「陽造さんの脚本はなかなか映画にならないんですよね。 『俺が救うから』って言って、書き上げてもらったんだけど・・・」。後で白鳥さんが「監督は口にこそ 出しませんでしたが、絶対作るんだという強い気持ちが伝わってきました」と打ち明けられました。 監督、田中氏との約束を見事に果たされましたね。 秋吉さんも饒舌に話されます。その一部だけ−−「役の千桐(ちぎり)は実際の女性とは違う、 あくまでも監督の中の女。私は基本的にはいやらしくないです」。永島さんは、秋吉さんについて「純な人です。 『昭和枯れすすき』の頃と変ってません。よ〜い、スタート!ですぐ役になり切ってました」。 監督については「本番へ行くタイミングがどんぴしゃ。よく役者を見ていてくれる、空気の読める監督です」。 白鳥さんは「主演の2人は全面的に息が合ってました。監督は”あ、うん”の呼吸を掬い取っていくのが絶妙。 天才的です」。永島さんと白鳥さんの発言を聞いて、昨夜のパーティーで永島さんが「あの人は天才ですね」と 監督を評した理由が分りました。

映画を観ながら気になっていた点が、参加者から指摘されます。時々セリフ以外で、 小物を取り出す際の音などが雑音に近い割れたような感じになっていたのです。 実行委員から回答が−−「すいません。先にこちらからお詫びするつもりだったのですが、 感想発表や質問がずっと続いてたもので」。 実は本作は音響がドルビー仕様になっているのですが、 この会場の映写設備が対応できていなかったため、あんな状況になったのだそう。 音にこだわって撮った映画だけに、監督は無念そうでした。 暗い話はこれぐらいなもので、ほとんどが掛け合い漫才風のやりとりで進められ、 たっぷり笑わせてもらったシンポでした。 昨年の「ヴァイプレータ」のそれに肉迫する面白さ だったのではないでしょうか。

湯布院映画祭レポート'04(10)

   ≪パーティー(27日 夜)22:00〜≫
 この日もマイクロバスでの移動。 同じく野外でのガーデンパーティーです。 始まってしばらくは飲み食いに専念。 お腹が落ち着いてから、 ゲストの皆さんの近くへ擦り寄っていくことに・・・。 今夜は早めに、ゲストの方々からの挨拶が行われます。まずは根岸監督、 「『プロジェクトX』のような映画です。”監督はあきらめなかった・・・!”(笑)。この映画に関わっている 5年の間に、助監督仲間だった相米(慎二監督)が亡くなり、追悼の意味でも絶対撮ってやると思って やってきました」−−じ〜んとしました。秋吉さんからは、「初めて映画祭というものに参加しました。 ”映画祭バージン”は『湯布院』で破られました」。 秋吉さんは洋服に着替えられての参加です。パーティーも半ばを過ぎた頃、 何かひと言お話をと彼女の姿を探したのですが、見つかりませんでした。女優にとって夜中の飲食や 睡眠不足は美容の大敵ですから、どうやら早めに宿へ引き上げられたみたいです。昨夜もお話した永島さんへは、 シンポで歌唱力に関する失礼な発言をした事をお詫び。監督へは改めて「おめでとうございます」と 映画完成のお祝いを述べさせてもらいました。

さて−−。「竜二」という1本の伝説的な映画があります。 脚本・主演の金子正次が自主制作に近い形で完成させたこの作品は、出来上がりのあまりの良さに 東映系で公開される事になります。しかし、ガンに侵されていた彼は、映画の公開に合わせたかのように あの世に旅立ってしまったのでした。そして映画は、大ヒット・・・。  秋に公開される前、いち早く「竜二」に注目して上映し、彼をゲストに招いたのが、 ここ『湯布院』。その年の映画祭は、現在でも語り草になるぐらいの盛り上がりをみせたと聞いています。 「竜二」には確か、当時2〜3才ぐらいだった金子氏の愛娘モモちゃんも出演していたのですが、 大きくなった彼女が何と今夜この会場に来てくれているというのです! 思わず伸び上がって、舞台の辺りを 見やります。 「ご紹介したいのはやまやまなのですが、ご本人が辞退されているので、参加して下さっている事だけ お知らせしておきます。この中にいらっしゃるのは確実ですから、探してみて下さい」。 一応、捜索(?)したのですが、見つけられませんでした。

正式ゲストだった昨年も含め何故か今まで話しかけられずにいたのが、脚本家の荒井晴彦さん。 今夜は、勢いでご挨拶を−−。 本映画祭には岡山からもう一人・Oさんという、たぶん軽く10回以上は 参加されている常連の方も来られているのですが、彼は荒井氏とかなり懇意にされているのです。 何しろ、氏の初監督作「身も心も」を岡山のミニシアターで1週間、レイトショー枠を借り切って公開した メンバーの一人なのですから。「Oさんの知り合いの者で、『身も心も』は初日に立ち見で拝見しました」と 話しかけると、柔和な表情とソフトな話し方で応じて下さいました。 色んな企画が進行中なのだそうです。 ちょうど1本書き上げてから、こちらへ来られたのだとか−−最近は主にコメディーで活躍されている 男優:N田さんを主役に想定した犯罪もの。荒井脚本とその男優とは、異色の組み合わせなのではないでしょうか。 観たいです! ご自分の監督2作目もそろそろ・・・。 来年は、脚本作か監督作を引っ提げて正式ゲストでいらっしゃって下さい。話しかけて、良かった!

昨年の当映画祭のクロージングで監督デビュー作の「油断大敵」が上映された成島監督のお姿を発見! 同作は、私にとって過去3回の映画祭でのベストムービーであり、今年の個人ベストテンの有力な1位候補。 脚本家出身の監督は、明日の試写作品・奥田監督の「るにん」の脚本を執筆されているのですが、 現在「フライ、ダディ、フライ」(「GO」の原作者:金城一紀氏の小説の映画化)というV6の岡田くんと 堤真一さん主演の監督第2作にかかっている最中なので、 ゲスト予定者リストにはお名前が載っていなかったのです。昨年の映画祭で一度お話していたので、 ためらいなく話しかける事が出来ました。「2作目は、もう完成されたのですか?」 −−仕上げ作業の途中で抜けてこられたのだそう。成島監督は先頃、【藤本賞】という主にプロデューサーを 表彰する賞において、「油断大敵」の演出に対して”新人賞”を受賞されています。 そのお祝いも述べさせて頂きました。同作は演出もそうですが、役所広司・柄本明両氏の名演も演技賞の 有力候補に挙げられるのではないでしょうか。

締めの挨拶でゲストが再び壇上に。根岸監督は、 「『透光の樹』は理想とする本格的な映画作りが出来た作品でした。けれど、毎回そんな作り方をすると、 ここへ来るのにまた5〜6年かかってしまいます。今度は”こんなの作っちゃったんですけど” という映画を持って、なるべく早くやってきたいです」。また、どなたからかは忘れましたが、 「毎回、ボランティアスタッフのもてなしにとても感謝している」との挨拶がありました。  映画それ自体より、監督や役者の方が目立つのは望ましい事ではないかもしれませんが、 「透光の樹」がらみで一番印象的だったのは、根岸監督の挨拶の言葉でした。 2日目、濃い一日が終っていきます−−。

湯布院映画祭レポート'04(11)

3日目は朝から曇天。宿から歩いて会場へ向かう途中、小雨がパラついてきました。 台風の接近を実感します。今日の1本目は新藤兼人特集の最後の作品「愛妻物語」。 2本目の「ロケーション」(84年)は、午後に開催される≪日本映画職人講座≫に合わせた、 ピンク映画の【助監督】を主人公にした作品です。主演は西田敏行、最終日のゲスト・竹中直人氏も 出演されています。公開時に観ている筈ですが、内容をきれいに忘れており、 まるで新作のように楽しめました。

    ≪日本映画職人講座【助監督編】 28日(土)14:00〜16:00 ・・・前半≫
 過去、【衣裳】【技斗師】【映画音楽】【編集】の4講座が実施され、今回スポットが当てられるのは、 知ってるようで良くは知らない【助監督】の世界。 堅苦しいことは全然なく、”ぶっちゃけトーク”全開の2時間でした。 シンポジウムと同じ会場です。 ゲストはまず、東映で長く助監督を務められ、 81年に松田聖子主演の「野菊の墓」で監督デビューされた澤井信一郎氏。(代表作は、 私の大好きな「Wの悲劇」他多数) 他は、皆さんフリーの助監督をやっておられる方で、 杉山泰一氏(森田芳光監督とは半分以上の作品でコンビを組む)、田村浩太朗氏(10月公開の「デビルマン」等につく)、小原直樹氏(「ウルトラマン」の円谷プロ作品で監督作も持つ)の3氏。  小原氏は実は『湯布院映画祭』の実行委員でもあり、同メンバーの会報的なフリーペーパー 『メイムプレス』という月刊の冊子に以前、[助監督漂流記]という業界の内幕を暴露した爆笑連載を 持っておられた方。 そこに書かれているエピソードはどこまでが真実か分りませんが、 業界の知識を得る恰好の手がかりとなるため、連載をまとめた冊子が当会場の販売コーナーに200円で 並べられています。「講座の資料としても役立ちますから、是非お買い求め下さ〜い」−−コンビニを経営して おられる常連参加者の男性が、場内で売り子を務め、販売に協力しておられます。 一部購入して後でじっくり目を通しましたが、本レポートより余程おもしろく、 そっくり転載してお見せしたいほどでした。

 連載が冊子にされ販売された事について、小原氏は苦笑で「同業者の目に触れる事はないと思って書い たんですけど・・・」。 杉山氏は、現在製作中の森田監督の「海猫」の仕上げ作業を抜けて、 参加して下さったそう。 この講座の話を貰うも、「海猫」完成前のため森田監督に相談した所、 「いい映画祭なので、ぜひ行って来い」と即答されたそう。「その代り、『海猫』の宣伝をして くるように言われました」(笑)。 森田監督も当然、本映画祭は体験済み。 本講座では、助監督が”どう生きて、どんな風に働いているのか”を探っていきます。 澤井監督が東映に入社されたのは1961年、まだ映画界が景気のいい頃でした。 助監督は、チーフ・セカンド・サードと3人いるのが普通。まずは監督から、 ご自身が助監督であった当時の東映でのそれぞれの役割について説明して頂きます。
  ○サード ・・・ カチンコ叩き,小道具係り(本当の小道具係りがよくさぼっていたため、 作業を代行)等
  ○セカンド・・・ 衣裳チェック(前シーンとつながっているか),翌日のスケジュール作り, エキストラを動かす 等
  ○チーフ ・・・ 全体を見ている(実際は何もしない?),予告編作り 等
おおまかには、上記のような分担になります。 現在は、昔と違ってチーフが一番忙しいのだそう。

杉山氏が持参された香盤表(こうばんひょう・・・その場所でシーンの何番と何番を撮り、 俳優は誰が出るのか等を把握するための一覧表)の実物を、客席に回覧して頂きました。 「最近はパソコンで作っており、基になるデータを入力しておけば、ロケ場所を基準にしたもの・衣裳を 基準にしたもの・持ち物を基準にしたもの・・・等、いろんな香盤表が並べ替え機能で簡単に作れるので、 とても便利になりました」。 司会者が「澤井監督、羨ましいでしょう?」とお訊きすると−−「俺、 香盤表なんか作らされたことないもの」(笑)。 昔は、助監督は監督になるための修業の時代との色あいが 今より濃かったため演出に関係する作業に集中できていたそうです。 現在ハリウッドなどでは、 【助監督】が一つの職業として成立して存在しているようです。(監督になるための足がかりとしてでなく) 日本でもフリーの助監督は、幾らかはそれに近い形になりかけているようですが、 作品毎の契約であり各種保険等もついていないのが実状で、まだまだ成立しているとは言えない状態みたいです。 澤井監督が助監督だった頃は、ずっと続けていればいつかは監督に昇進するものだと考えられていた時代。 「助監督にとって、シナリオを読み込むのは重要なこと。このシーンはこの衣裳でいいか、この小道具でいいか? ロケハンで、ここがロケ場所にふさわしいかどうか・・・」。 最近のロケハン(ロケーション・ハンティング)のやり方は?−−「まず、助監督と製作主任が下見をし、 それから監督と一緒に出かけるのが一般的ですね」と助監督のお一人が。 「昔は先行して下見をすることなどなく、『監督の好みのウナギ屋が近くにあるから、あそこにしておこう』 なんて決め方してたな」−−これは、もちろん澤井監督。

湯布院映画祭レポート'04(12)

    ≪日本映画職人講座【助監督編】・・・後半≫
 チーフは翌日の準備にかかることが多いので、現場を離れがち。 「”次のカット”を考えるのはサード、”次のシーン”はセカンド、”翌日のシーン”はチーフ」−−名言が 飛び出したので、司会も黒板に書き止めます。チーフはキャスティングにも関与。撮影で俳優を拘束できる期間が 少なくても適役なら、やはり作品重視で「この人でいきましょうと監督に言っちゃうんですよね。 後で、スケジュールを調整する自分の首を締める結果になっちゃうんですけど」。 撮影スケジュールを組んでいく内、離れた2つのシーンを一緒にした方が良くなるのでは、と気づく事も。 「荒井(晴彦)さんクラスのシナリオだと、直しをなかなか言えませんが、森田組はたいてい監督が脚本も 書いているので、提案し易い。やりやすい立場にいると言えますね」−−杉山氏。
 予告編の製作について−−。現在は専門の会社に発注する事が多いそうです。助監督が作る事もあり、 基本的な作り方やコツを披露してくれました。予告編に使う映像は主に、 NGになったフィルムの中から使えそうなものをピックアップするのですが、 NGをあまり出さない監督の現場だと、予告編用にもう一度本番をやってもらうのだそう。 いい方を本編用に。本番一発で撮影しなければならない大爆破シーンなどは、 やむなくOKフィルムを複写(費用が高くつきます)して用います。材料が集まったら、 選別です−−「はっとするようなカットがあったら、絶対使え!」。本編には出てこない、 ”予告編だけのカット”が使われる事もあります。予告編はだいたい3分以内。 惹句(じゃっく・・・キャッチコピーのようなもの)をひねって、3分間のストーリーを考え、 それに合った映像を当て嵌めます。「昔は1本、2万円ぐらい貰ったっけ。”予告編作りが上手いと、 監督になるのが早い”とか言われてるようだけど、東映ではそんな事なかったな」と澤井監督。
 「近年は助監督修業が全くなしで、異業種から突然、映画監督デビューする人がかなりいます。 そういう人は撮影時、どんな事にまごついたりするのでしょう? またそういう人に助監督としてついた場合、 どんな苦労をするものなんでしょう?」との質問には、村上龍氏のケースで回答されました−−「どう撮るか、 役者にどうイメージを伝えるか、意思の伝達に苦労してたようです。 また一般的に、映画で出来る事と出来ない事がつかめてないから、 難題を出されるケースもありました」。
「【監督になるための助走期間としての助監督時代】における修業法のようなものは?」−−昨年の クロージング作「油断大敵」でデビューした成島監督は、一人の監督には1作品しか助監督として付き ませんでした。その監督の色がつきすぎて、監督になった時そういうイメージで見られたくなかったから、 なのだそう。「助監督時代から、具体的な戦略を立てていたんですよね〜」。澤井監督は、 マキノ組の名物助監督でした。「マキノさんとは映画に対する考え方や思想が合った。 勉強になると思ったし、自分の触媒になってくれる監督だと気づけた。 目標の監督を見つける事が重要。僕はめぐり逢えてラッキーだった」。
 後ろの方の席におられた本映画祭顧問の中谷氏も、1950〜60年代に東宝で助監督経験が おありになるので、指名されて当時の苦労話などを巧みな話術で語って下さいました。

仕事を見つけるのは、人脈で。「ある日突然、仕事の電話が入ってきたりするんです」。 「監督になるための勉強としての助監督の修業期間は何年ぐらいが適当なんでしょう?」−− 「チーフになった後は、創造性のある仕事よりも、対プロダクションとか予算管理とかの雑事が 多いんですよね。修業として役立つのは主にチーフになる前までの期間です。ただ、その期間も なければないで大丈夫かと思います。技術スタッフを経験豊かなプロで固めれば、素人監督でも 十分撮れます」。澤井監督からは「助監督時代、1〜2シーンぐらいは任されてよく撮っていたけど、 監督になって全編を通して演出してみると全く様子が違った。部分、部分を撮った経験など ほとんど役に立たなかったね」。
 「エキストラをやる場合の心得は?」との質問をされた方は、近々ピンク映画にちょっとだけ 出演するのだとか。注意事項は−−「色々待たされても文句を言わない、素直に演じる、 途中で帰らない」(笑)。「フリーの助監督の場合、 その作品に関係するのはどこからどこ迄なんでしょうか?」−− 「ロケハン等の準備から始まって、最後は編集や音を入れていく仕上げ(0号完成)までですね」。 ちゃんとした映画だと、半年ぐらいの仕事になるのだそうです。

とても興味深く聞け、勉強にもなった2時間でした。”有能なフリーの助監督は、色んな組が競合し、 取り合いになる”と聞いた事がありますが、なるほどと深く頷けました。

湯布院映画祭レポート'04(13)

    ≪特別試写作品「るにん」・・・28日(土)17:30〜≫
 さすがの満席です。通路に座る人も・・・。台風の接近で、 東京からのゲストの到着が心配されましたが、大丈夫でした。ただ残念なのは、 主演の松坂慶子さんがテレビドラマ収録の都合で、開幕の3日ぐらい前に急遽ゲスト参加がだめに なったと本映画祭のHPで発表された事。
奥田瑛二監督、女性プロデューサーの松本氏、そして異色の出演者4名が舞台上に並びます。 主演男優の西島千博(かずひろ)さんは世界的なバレエダンサー、その世界では超有名人らしいです。 男性に使っていい表現かどうか分りませんが、美形です。また玄海竜二さんは大衆演劇界の有名座長、 舞台慣れしておられます。ファッションモデルばりの抜群のプロポーションで背筋をピンと伸ばして立っている 若い女性は、麻里也さん。問題は最後の1人−−、ひかるさん(たぶん二十代)。一応は男性に見えます。 落ち着いた和服姿はいいのですが、なよなよっとした感じは、もしや・・・。観客の多くは” 何だ、こいつ?”と少し嫌悪感さえ抱いていたかもしれません、映画が始まるまでは。
まずは監督から「台風も近づいてきている中おいで下さり、ありがとうございます。 自分は監督デビューが遅かったので、目標のレベルに近づくには足枷をきつくしてやっていかなければと思い、 2作目はあえて時代劇を選びました」。松本氏からは「観た事のない映画を体験して下さい」。 ドレッシーな黒ジャケットの西島さんにはフラッシュの嵐!−−「バレエでは舞台挨拶をする事はありませんから、 緊張しています。皆さんは映画を楽しんで下さい」。麻里也さん、ひかるさん、玄海さんは、短く普通の挨拶を。 最後に再び監督が、舞台上の顔ぶれを見回し「一体どんな映画なんだろうと思いますよね」(笑)。

 舞台から退場されたゲストの方々は、中央の客席後方に用意されたゲスト席に座り、 観客と一緒に映画を鑑賞します。  作品の時代は、天保の頃。”鳥も通わぬ流刑地”の八丈島が舞台です。 冒頭部分を始め、島の景観や大自然を捉えた映像には目を奪われました。 のっけから、その自然を利用した”ぶっころがし”という凄い処刑が執り行なわれ、 観客の度肝を抜きます。松坂さんは、15歳で流されてきた元・遊女の豊菊役。 彼女が、久しぶりに映画にのめり込んで演じています! このまま島で果てたくないとの一念で、 島の男たちの慰み者になりながらも、文字通り体を張って生き残ってきた彼女の前に、喜三郎(西島千博)と いう新顔の流人が現われ・・・。 ひかるさんの役は、男とも女ともつかぬような不思議な存在。 豊菊が心を許せる数少ない人間の一人として、多くの出番を与えられています。麻里也さんも、 物語を動かしていく大事な役どころ。後のシンポで、撮影時はまだ16歳だったと聞いてぶったまげたのですが、 体当りで難役を演じきりました。監督一作目の「少女」に主演した小沢まゆさんも出演しています。 「少女」の彼女も凄かったし、今作でのゲスト参加者の皆さんの演技も見事−−奥田監督の、 新しい才能を発掘する眼力と、磨き上げる才能は大したものですね。ご自身も、決して好感は 持たれないような役で出演しておられます。
 豊菊と喜三郎は、いつしか歳の差を超え、引かれ合うようになります。 沖の海流の研究を何ヶ月も続けた喜三郎は、ある事件をきっかけに豊菊と島抜けを決行することに・・・。

前記の「少女」は01年の本映画祭での私のベストムービーであり、 今回の一番の期待作がこの「るにん」だったのです。正直、「少女」の時ほどの衝撃は感じませんでしたが、 見応え十分の”観たことのない”時代劇でした。来年の公開時どのような評価を受けるにせよ、 監督2作目でまたしてもこういう困難な題材に挑んだ姿勢は、買い。これからも伴走していきたい監督です。 クライマックスは、喜三郎と捕り方との大立ち回り。西島さんが本領を発揮します。語呂合わせではありませんが、 武闘シーンがあたかも”舞踏”シーンのようにも見えてきます。監督が彼を起用したのには、 立ち回りをこんな風に撮りたかったという理由もあったのかもしれません。 2時間半の力作−−。表面上は悲劇なのに、映画は松坂さんの幸せそうな、透明感のある微笑で終わります。 全体の出来映えには賛否あるかもしれませんが、ラストのこの表情の素晴らしさにケチをつける人は、 まずいないのではないでしょうか。

湯布院映画祭レポート'04(14)

   ≪シンポジウム(「るにん」)≫
 立ち見の大盛況。確か舞台挨拶には出られなかった(と思うのですが)成島氏もゲスト席に座っておられます。 早速に感想から−−。どちらかといえば否定的な意見の方が多い滑り出しでした。その中の一つは、 「八丈島の距離感が出ていない」。監督からの回答は明確、「指摘されたような点は認識していたが、 それらまで描くと上映時間がもっと長くなってしまう。それに−−」。描きたいのは”愛の姿”なのだそう。 「不要と思ったものは、これからも断固カットしていきます!」(口調はソフトです)。脚本の成島氏も同意見、 「他の監督からの発注なら、全体のバランスを考えますが、奥田組なので監督の描きたいものだけポイントを 絞って書きました」。監督から発表が、「実はつい1週間前に編集をやり直しまして。 これが最終版になります」。
出演の感想を訊かれ、西島さんは「クラシックバレエをやってるんですが、 日本のクラシックといえば”時代劇”。この映画に出られて、感謝しています」。 麻里也さんは現在17才。監督から「(女優)秋川リサさんの娘さんなんです」と紹介され、 場内からどよめきが。「監督自ら見本の演技をしてみせてくれるので、やりやすかったです」。 玄海さんと監督とは何年も前からの付き合い。「流人たちの兄貴分として出演してもらい、 殺陣や所作も指導してもらいました」と監督。ラストの大立ち回りの殺陣も任され、 2日間徹夜してやり遂げたのだとか。「子や孫たちにまで自慢できる作品に参加させてもらいました!」。
 俳優・奥田瑛二と松坂慶子さんとは昔、「五番町夕霧楼」という映画で共演。 その後、彼女を深作欣二監督の作品に持っていかれたという寂しさがあったそう。 彼女は最近ほのぼのCMに出演しているが、そういうのとは全く違う松坂慶子を見たかったので、 出演を依頼する事に。また監督が仕事で京都に行った時、クラブで飲みながら準備中の 「るにん」の話をすると、 ママからも主役にぴったりなのは松坂さんだと言われたのだとか。 松坂さんの演技については好意的な意見が大多数。「映画女優・松坂慶子が甦った!」との絶賛の声も。 こういう言葉を直接聞いてもらえないのは、本当に残念な事。−−来て頂きたかったなぁ!
ひかるさんは、祇園の店にお勤め。監督は以前から”彼”の事は知っており、飲みながら、 八丈島にはこういう人間が絶対いた筈だと確信し、義太夫のお師匠さんにも了解を取って、 出てもらう事に。「奥田はんは酔っている時しかお会いした事がありませんでした」−− マイクを持つ手も小指がしっかりと立っていたひかるさんです。「映画ああいう感じ だったんですけど、いかがでしたでしょうか?」−−もちろん大拍手です。 ひかるさんを見る観客たちの目が、上映前とは完全に変っています。”誰がやってるんだろう?”、 最初はひかるさんが演じているとは気づかなかったあの役は、主役の2人に迫るほどの印象度でした!
「1作目は意外に平然としてたんだけど、 2作目だと逆にちょっとびびるね。3作目は、もっとびびっちゃうかも」と言う監督に、参加者より 「2作目でこういう難しい題材の映画を撮りきる事が出来たのですから、 これからも自信を持って撮っていってほしい」という激励の声。 それに応えて「10年で5本撮ります、 きっと。使命だと思っている。信じて、ついてきてほしい!」。 来年3月頃の公開予定。「製作費の回収はかなり困難だと覚悟してます。 俳優も勿論やっていきますが、これからは監督に命を賭けていきたい。 この先、生きて行く道が見つかって良かった」、 言葉通り充実した表情をしておられた奥田監督です。

盛り上がったシンポでした。評価できないという意見も、監督の姿勢を認めた上での温かい視線を 持ったものが多かったように感じられました。 終了後、会場から出て行く時は、参加者とゲストが ぞろぞろと一緒に退場します。シンポを1時間半ぐらいみっちりやると、全員がちょっと知り合いに なったみたいな気が・・・。今夜のパーティー会場へは徒歩での移動。外の天候は、 どうなっているのでしょう。

湯布院映画祭レポート'04(15)

    ≪パーティー(28日 夜)22:00〜≫
 外は意外に、小雨程度。昨日までの会場は野外で、今夜は建物の中の大広間、いいめぐり合わせです。 奥田監督は挨拶の中で、3作目の構想も語って下さいました。来年6月にクランクイン予定で、内容は” 老人のハードボイルド”。緒形拳さんが主演です。「歳を重ねてきた名優たちが冷遇されているので、 彼らを使って撮ろうと思ってます!」。西島さんは、幅広い年齢層の女性客に囲まれています。 包囲網が少し緩んだのに気づき、お話させてもらいました。余りにもいい男なので、横に並びたくないほど。 「立ち回り、堪能しました。バレエの動きに見えてきた瞬間もあり、監督が西島さんを起用した理由が 分った気がしました。これからも、どんどん映画に出て下さい」。 ひかるさんも、女性客を中心に 周りを二重に囲まれて、大人気。すぐには近寄れません。
私にとってゲスト監督の目玉は、昨夜の根岸監督と、もうお一方は澤井信一郎監督。最近では98年に 「時雨の記」でゲスト参加されています。その後はアイドル映画の「仔犬ダンの物語」と 「17才・旅立ちのふたり」の2作品があるだけ。新作の準備が進みつつある事を他の ゲストからお聞きしていましたから、「98年以来の本格的な映画作りが早くスタートすればいいですね」 と話しかけた所、監督は近作について、「俺、あの2本嫌いじゃないよ」。 そういえば、デビュー作の「野菊の墓」(松田聖子)もアイドル映画でしたし (出来映えは単なるアイドル映画以上)、続く「Wの悲劇」(薬師丸ひろ子)・早春物語(原田知世)も ジャンルとしては一応アイドル映画。近作が不本意なメガホンでなかったのなら、 ファンとしてひと安心です。けれど、やはりもっと監督の演出力が発揮される大人の作品が観たいもの。 早く、準備中の作品の製作発表が行なわれますように!

そう高くない舞台の端に腰かけ、お酒も入った奥田監督は周りを取り囲む女の子たちと軽い冗談で じゃれ合っています。彼女たちが別の所へ流れていくのを待って監督に話し掛けます。最初は、 腰かけた監督に前かがみになってお喋りしていたのですが、映画の話題になると立ち上がって、 真剣に応じて下さいます。「『少女』はその年の映画祭での私のベストムービーで、 主演の小沢まゆちゃんもすごく良かったです。『るにん』の彼女も印象的な役でした。 彼女をもっとスクリーンで観たいのですが、監督の3作目にも起用されるのでしょうか?」 −−残念ながら、彼女に合う役がないのだとか。「それにしても、新しい俳優を発掘するのがすごく お上手ですよね。3作目では、どんなフレッシュな役者と出会えるのか楽しみにしています」。
 原田眞人監督のHPで知り合った東京在住の実行委員・Aさんとも、じっくりお話できました。 Aさんは「るにん」のシンポの司会を担当。その作品に惚れ込んだ人が、司会を務めるようです。 原田監督の新作は、岡山県出身の小説家・岩井志麻子氏の原作を映像化したものになる予定。 映画祭での試写作品の選定に関する裏話も教えてもらいました。今の時点で、 もう来年の試写作品の選定作業は始まっているそうなのです。業界や映画ファンの間では 名の通った『湯布院映画祭』ですから、5〜6月頃、完成作品を観てくれと頼まれ、 受け身で作品選定するケースがほとんどかと思いきや、配給会社が映画を買い付けるように、 企画書やシナリオに目を通し、映画祭側からもアプローチしているんですね−− 「映画祭同士での作品の奪い合いもありますから」。だからこそ、クオリティーの高い新作を集める事が 可能なのでしょう。 今回初めて、実行委員の何人かとお話でき、舞台裏の大変さの一端が分りました。 そして、ますます本映画祭を応援していきたい気持ちが強くなりました!

ひかるさんとは、パーティーの閉会が宣せられてから、退場の途中で少しだけお話を。大人気すぎてずっと お客に囲まれていた彼は料理を口にする時間が全くなく、いま初めてお皿を手にされたようです。 お邪魔をしてはいけないので短く、「すごくいい演技で印象に残りました」。ひかるさんは、 まるで来店したお客を見送る時のように丁寧に手を揃えて、離れて行く私に「お気をつけて」と 声をかけてくれたのでした。ひかるさん、最高っス!
 表の路上は濡れ、道路の端には水溜りも出来ていますが、雨はほとんど降っていません。 最終日のゲストの到着も、きっと大丈夫! さあ、残るはあと一日です−−。

湯布院映画祭レポート'04(16)

    ≪特別試写作品「樹の海」・・・29日(日)10:00〜≫
 まずは舞台挨拶ですが、俳優ゲストの萩原聖人さんは台風と戦いながら現在こちらへ向かわれている途中−− 「上映終了後、萩原さんからご挨拶を頂きますので」。台風接近の中、客席は9割方埋まっています。ゲストは、 これが初メガホンの瀧本智行監督と、青島・永田プロデューサーの3名。青島氏は連合赤軍事件を初めて 本格的に描いた映画「光の雨」の製作とシナリオを手がけられた方で、今作でも脚本を監督と共作されています。 また「ヴァイブレータ」も共同プロデュース。「それら2本は『湯布院』で初上映され、まずまずの 興行成績を残す事が出来ました。今作も、験のいい当映画祭で上映されるのがとても嬉しいです。 ただ・・・、朝10時から観るような映画かな?」−−”自殺”をテーマにした作品なのです。永田氏は、 「ラマン」に続いて2度目の登場。「また出て参りました。この『樹の海』は、昨年ここへ来た時に青島さん から話をもらった作品です。シンポを楽しみにしています」。最後に監督から、「一般の観客に観てもらうのは 初めてです。まだ生れたばかり。赤ん坊を温かく見守って下さい」。

映画のオープニングからタイトルが出る迄の数分で傑作かどうかを直感できる事があります。本作は、 タイトル画面の構図の良さに、まず心ときめきました。話も暗そうだし、余り多くを期待していなかった 作品ですが、”もしかして・・・”と思い始めたのはこの時から。「樹の海」とは、富士山の”樹海”の意味。 本作の企画の発端は、青島プロデューサーが友人を自殺で亡くされた事でした。悲しみと共に、 自殺という行為に対する怒りが湧いてきて、”人は自ら死を選択してはいけない”という映画を作ろうと決意。 そして、数々の作品を共に作り上げてきた瀧本氏に声をかけたのでした。
 映画は、樹海で睡眠薬を飲んだ担当客を追って、サラ金業者のタツヤ(池内博之)がやって来る所から 始まります。4話のオムニバスですが、各々は相互に関連しており、ある人物が別の話に登場したりもします。 萩原さんは、ぼろぼろに痛めつけられ樹海の奥深くに棄てられる男の役。息を吹き返し、森をさ迷う内、 首吊り自殺を図ろうとしている中年男性と遭遇します。 大手企業のサラリーマン山田(津田寛治)は、 樹海で自殺した若い女性が彼と2人の写真を持っていたため、中年の新米探偵に訪ねてこられます。 郊外の駅売店に勤める映子(井川遙)には、恋愛トラブルで前の会社を辞めたという過去が。ある日、 彼女もまた樹海へと・・・。

遂に、今映画祭で初めて心から満足のいく作品が現われてくれました! 暗くて重いテーマを扱いながら、 心を冬の日の焚き火のような暖かさで包んでくれる傑作です。デビュー作に、こういう内容の作品を選んだ勇気。 初メガホンとは思えぬ落ち着いた演出力。満を持してデビューした助監督等の経験豊富な新人監督は、 いきなりこれ程の力量を示してくれるんですね。瀧本監督は、「半落ち」の佐々部監督の弟分。同監督の 「チルソクの夏」でも助監督を務められています。一番涙腺を刺激されたのは、井川遙のエピソード。 彼女がすごくいいのです。女優開眼と言っていい好演! 「ラマン」でも触れましたが大杉漣さんはここで登場、ある事情から駅売店でネクタイを買うサラリーマン役です。 短い出番ながら”やっぱりいい役者さんだな〜”と痛感させてくれます。映子が通勤電車の車中の名前も知らぬ 彼に気づき、ホームから見つめる場面では、2人が交わす視線の温かさに、頬が気持ち良く濡れていったのでした。  萩原さんはほとんどが一人芝居。自殺した中年男性が家族に宛てた遺書には、これからの事は自分の 保険金で何とかなるからと書かれています。けれど死体が発見されなければ、保険金が下りる筈もありません。 死ぬつもりだった萩原さんですが、自殺を明らかにするため、樹海を出ていこうとあがき始めます。が、 簡単に脱出できる訳もなく・・・。そんな彼の足元に風が運んできたのは、冒頭でサラ金業者のタツヤが 道端に落としたサラ金のチラシだったのです。 売り方の難しい映画だと分かっていながら、 敢えて作った勇気を−−、使命感を讃えたい作品です!

上映後、予定通り到着された萩原さんが舞台に。帽子(野球帽のようなキャップ)をかぶり、 アーミージャケット風の服を着ておられます。「人前に出るのは好きではないんですが・・・。 映画を観終ったお客さんの前だと余計に恥ずかしいですね。観てくれてありがとうございました。 また、この後のシンポでお会いしましょう」。

湯布院映画祭レポート'04(17)

    ≪シンポジウム(「樹の海」)≫
 最前列の端の方の席を確保。 入って来て着席された萩原さんは、キャップを取られます。 お仕事の関係でしょうか、頭は丸刈り状態。だから、のキャップでもあったのでしょう。 女優は顔が小さいとよく言われますが、実物の彼もびっくりするぐらい顔が小さいです。 スクリーンでは特に感じませんでしたが。
 参加者の感想からスタートします。私も最初の頃に挙手−−「泣かされるとは思いませんでした。 一番良かったのは井川遙のエピソード。ちょっとだけ心温まる終わり方で、その加減が絶妙でした。 大杉さんが短い出番ながら、すごく良くて...。それから、利用者を自殺に追い込む事の多いサラ金業者の チラシが、まるで罪滅ぼしをするかのように萩原さんを助ける結末は、皮肉が効いていて脚本の 上手さに唸りました。こういう地味だけど凄く意味のある映画を製作する姿勢は断固支持したいし、 毎年こういう作品をこそ選定してくれる『湯布院映画祭』にも感謝したいです。一般の観客として 初めて本作を鑑賞できた事を大変嬉しく思います」。どうしても発言せずにはいられないぐらいの 感動を貰ったのです。その余韻が醒めやらぬ内だからこそ、挙手できたのでした。 感想は活発に続きますが、 そのほとんどが新人監督とは思えぬ演出力や、製作側の姿勢を褒める内容のものばかり。
 ただ、オムニバスにせずに普通の1本の映画でじっくり描いた方が良かったのでは、 という意見が複数の人から。監督は「私もオムニバスは好きではなかったのですが、樹海が主人公なので、 こういう描き方がいいかなと思うようになりました。各々のエピソードが勝手に発酵して くれそうな気がして・・・」。青島氏からも「死ぬ理由は描かない。世の中の仕組みも描かない。 樹海から還ってくる人を描きたい。”還ってきてほしい!”というメッセージを押し付けがましくなく、 そっと描きたいのでオムニバス形式にしました」。

ゲストの皆さんにも喋って頂きます。永田氏は「昨年は史上最多の3万5千人近くが自殺をしたそうです。 今だからこそ作られるべき映画だと思ってます」。萩原さんは何回もシナリオを読み込まれたそう。 「だいぶ前に受け取ったので、クランクインが実現するまで読み続けようと思って。結果として、 すごい回数読み返す事になりました。本番前のテストは好きじゃないけど、 この役なら何回やったっていいかな、と思えるぐらい遣り甲斐のある作品でした」。 映画を一人でも多くの人に観てもらうためゲリラ作戦さえ考えているというプロデューサーのお二人に、 参加者から「是非とも、真面目で誠実な映画として売ってほしい」という強い要望が。「監督には、 人を見る目の確かさと温かさがありますよね」。 永田氏が感激したように漏らされました−− 「『ラマン』とは打って変わって、こんなに好意的な意見ばかり貰えるなんて・・・!」。 公開は、来年春頃を予定。
 そろそろ締めの時間です。まずは萩原さん、「シンポジウムというものは初めてだったんですが、 参加して胸が熱くなりました。自分たちが作った映画をこんなにも真剣に観てくれる人がいるんだなと気づいて。 また明日から精進しようと思います!」。目と鼻の先にいらっしゃる萩原さんから、 まるで映画の本番のように・・・、けれど幾分たどたどしい感じでこんな言葉を言われると、 こちらの方こそ胸の奥が熱くなってきて困ります。たくさんのゲストから色々感動的な言葉を聞きましたが、 今映画祭で私が最も心を打たれたのは、萩原さんのこの言葉なのでした。 最後は監督から、 「萩原さんの役は、かつての私自信を投影させたもの。彼は、そういう気持ちを知っているかのように 演じてくれました。その彼と一緒にここへ来る事が出来て、大変うれしく思います」。

シンポも映画に負けないほど素晴らしいものでした。もし井川さんにも参加して頂いていたら−−。 (主演映画を撮影されていた模様) こんな欲張りな気持ちになるのも、本作に惚れ込んでしまった 証拠なのでしょう。

湯布院映画祭レポート'04(18)

    ≪特別試写作品「愛してよ」...29日(日)14:00〜≫
 台風接近のため昼頃からは、全日券で参加の常連客の中にも予定を繰り上げ帰路につく人もいたようです。 場内は、7〜8割の入り。 監督は、キャリアは長いが、R指定のつかない映画としては本作が確か2本目と なる福岡芳穂氏。主演は西田尚美さん。【地方都市・新潟。子供を売れっ子モデルに仕立てる事が生きがいの 母親・美由紀と、微妙に違和感を感じている繊細な10才の息子・ケイジ。2人を取り巻く人間関係を、 新鮮な映像で描いた家族映画】(映画祭の資料より)−−です。俳優のゲストは、美由紀の恋人役で ご出演の野村祐人さん。 舞台挨拶で監督は「呼んでもらって光栄です。子供の映画を撮りたいと思ってました。 歳とって、彼らが遠い存在になってしまったので...。対峙して、 何か子供たちの世界が見えないかなと思って撮った作品です」。野村さんは、 主演した廣木監督の「800」が試写上映された年以来、2度目の『湯布院』。 「あれから何年も経ち、32歳になりました。子供の心、親の心、考えてほしいなと思います」。

タイトルの「愛してよ」というのは少年の気持ち、ケイジの願いです。演出はしっかりしているし、 子供たちの演技も悪くありませんが、率直に言って、お話自体に乗れませんでした・・・。あくまでも、 私の好みの問題で。 西田さんは、ここ2〜3年はかなりお気に入りの女優さん。残念ながら、 役とキャラクターが合っていない感じで、彼女らしい演技とは思えませんでした。勿論”らしくない名演技”と いうものもありますが。−−意欲作ではあります。

    ≪シンポジウム(「愛してよ」)≫
 撮影の興味深い裏話を聞けました。主役の少年には台本を渡さず、 周りの大人の役者の演技に対する少年の自然なリアクションを、フィルムに収めていったのだそうです。 「自分たちの演技には、いつも以上の繊細さが必要とされました」−−と野村さん。 「母親役の西田さんとラブシーンを演じながら、ケイジを傷つけちゃうんだろうな、 と思った事も。監督とケイジが並んで歩いてる所を見ると、親子みたいに思えました」。 監督は、子供たちには誠実に接して演じてもらったのだとか。「親の死を告白させるような きつい芝居をしてもらったりもしましたから」。こういう舞台裏を事前に知っておれば、映画をもっと 面白く観られたかもしれません。「とてものめり込んだ」「涙が出た」と賞賛する人もおられます。 少年と同じ年頃の子供を持つ親が観ると、心をつかまれてしまう確率が高いみたいです。  中には、「野村さんは、西田さんと誠実に付き合っていたが、2枚目すぎて他にも女が いるような感じがした」というユニークな感想も、思わず立ち上がって、「すいません」と 頭を下げる野村さんです。「そんなの言われた事ないですけどね」(笑)。 監督はちょっと強面ですが、生真面目すぎるほど真っ直ぐな方でした。 「映画の捉え方は一つに限定されるものではありません。すぐに理解してしまえるものでもない筈。 持ち帰って、より深く理解して頂きたい。なまけないで、真剣にスクリーンと向き合ってほしいのです」。 観客に向かってこんなにきっぱりと言い切れるのは、それだけ真摯に撮り上げたればこそなのでしょう。

とにかく、子供について真面目に考えているのだという製作者側の姿勢がよく伝わってくるシンポでした。 監督の、映画に取り組む頑固すぎるくらいの姿勢は、応援したい好ましさ。今作は、きわどいコースを 狙いすぎたため四球を出す結果になったかもしれませんが、いつかは大ホームランをかっ飛ばす可能性を 秘めた人かもしれません。

湯布院映画祭レポート'04(19)

    ≪特別試写作品「サヨナラCOLOR」...29日(日)18:15〜≫
 いよいよクロージング作。満席で、通路に座る人も。 ゲストの竹中直人監督も無事ご到着。 舞台挨拶はまず新藤プロデューサーから、「台風がやってきている中、よくおいで下さいました。 どうか無事にお帰り下さい」。竹中さんがマイクに近寄ると、フラッシュの集中砲火! 「一生懸命作りましたので、優しく見守って下さいね」。女性客からの人気がすごく、 ひょうきんなポーズをサービスして下さいます。
 【かつて高校の同級生であった男と女。20年ぶりの再会は、ガンの入院患者と担当医師としてだった】 −−マドンナ役に原田知世を迎えて撮った竹中監督の5作目は”ラブストーリー”です。そして、 コメディーです(え!?)。コメディーと悲恋とが、違和感なく共存しているという不思議・・・。 この映画の魅力は、文字では表現不可能。実際に観てもらうしかありません。5本の監督作の中での最高作。 おかしくて、いとおしい作品です。主演も、監督ご自身。

主人公の正平(竹中)は、ナースのお尻を普通にさわる医者。高校時代は、 マドンナとその他大勢という関係だった未知子(原田)の病室に入る前には、 呼吸を整えなければなりません。その様はまるで出産に備えて妊婦が『ラマーズ法』の呼吸の仕方を練習 しているかのよう。それ程の存在なのに、未知子は正平の事を覚えていないのです。
 他の監督の作品ではサービス精神からかオーバーアクト気味の竹中さんですが、本作では絶妙のさじ加減。 苦笑に近いギャグではなく、快いくすくす笑いとなって、観客を”竹中ワールド”へと誘(いざな)います。 引きずり込まれたら、もう観客の負け。空気感からして可笑しくて、口元はゆるみっ放しです。 女子高生から明るく援助交際を申し込まれるシーンは、こんな感じ−−「おじさん、火星人みたい」 「地球で最初に見破ったのは、君だ」「援コウしない?」。飛び切り魅力的なこの女子高生役は 「スウィングガールズ」にも出演した水田芙美子ちゃん。ゲスト出演陣も豪華。 中島みゆきや忌野清志郎等のミュージシャンから、「ラマン」の廣木監督まで多彩な面々が、 楽しそうに竹中ワールドへ遊びに来ています。

未知子は、正平による献身的な治療を受ける内、高校時代の彼を徐々に思い出していきます。 元気になった彼女は、正平と海へ。2人並んで、海に向かってした事とは? −−これも一種の、 すごいラブシーンでしょう。 「わたし、先生がいないと生きていけなくなりました。不思議です、 こんな気持ち」。不思議なのは、観客も同じ。真面目なラブストーリーとしてのセリフもすんなり耳に入るし、 その後すぐナンセンスギャグが繰り広げられても当り前のように笑えるのですから。 竹中監督にしか撮れない映画です! 題名は、監督の好きなあるバンドの同名曲から付けられたもの。 淀川長治さんが生きていらっしゃったら、感想をお聞きしてみたい作品です。 「樹の海」と並ぶ傑作に出会えました!

湯布院映画祭レポート'04(20)

    ≪シンポジウム(「サヨナラCOLOR」)≫
 この映画の製作のきっかけは、大ベテランの脚本家・馬場当氏(79年のベスト1作品 「復讐するは我にあり」でキネマ旬報脚本賞を受賞)から、「このホン、 主人公は竹中くんでいけるんじゃない?」と新藤氏がオリジナルシナリオを渡された事でした。 竹中さんは当時、準備中だった企画がだめになり、落ち込んでいた所だったのですが、 一発でそのシナリオを気に入り、監督自身が登場人物のキャラクターをふくらませたり、 エピソードを書き加えたりしてクランクインの運びに。 さあ、感想コーナーです。実は・・・、 またまた発言してしまったのです。出すぎでしょうか? いえいえ、ほとんどのシンポで発言されている方が 何人もおられますので、私などはまだまだ。それに、映画祭に作品を持ってきて下さった監督たちへの 一番のお礼は、1人でも多くの観客から映画の感想をお伝えする事ですから。「すごく良かったです。 監督にしか撮れない”竹中ワールド”全開の映画。『不思議なタッチの、いとおしいラブストーリー』 とでも言ったらいいでしょうか。余裕しゃくしゃくで撮り上げられたように見えますが、恋愛映画に あんなにギャグを詰め込むという、一歩踏み外せば大失敗作になりそうな冒険に挑んだ作品ですから、 かなりびくびくしながら撮影しておられたのでは? 結果は、監督としても主演としても素晴らしい 成果を収められたと思います」。

軽く見せているが、凄い野心作です。失敗と紙一重の所を危うく綱渡りしながら、 独自の世界へ見事に着地した会心作! が、監督の発言は肩の力の抜けたもの。 「自分の企画ではないので、結構無責任にやれました。僕の高校時代のエピソードも入れちゃったりして」。 映画に対する客席の反応には−−「狙い通り笑ってもらい、泣いてもらえた。見事にはまって頂いて」。 自分が監督しているのに、こんないい役を演じちゃダメだろうと文句をつけたくなる程。 でも竹中さんしか演じられないので、仕方ありませんけど。今映画祭の各シンポで非常に少なかった女性からの 発言が、今回は活発です。「台風が接近中なのに家族の反対を押し切ってまてやって来て、とてもいい 映画だったので、勇気を出して発言してみる気になりました」という若い女性からの声も。観終って、 誰かと話したくなる映画なんでしょうね。
 竹中さんの心配とは?−−「自分と原田さんとでは絶対、同級生に見えないだろうなって事」(笑)。 一番楽しいのは撮影している時。「監督は贅沢です。役者の芝居をずっと見ていられるし、 映画が出来上がっていく過程に全て立ち会えるのが最高!」。出演せずに、演出に専念する作品が あっていいのでは?−−「実は、来年撮れそうな新作はそうする予定なんです。無事クランクインまで 辿り着ければいいんだけど」。

小学生の女の子からも手が上がります。司会者がすかさず指名、「史上最年少の発言者かもしれませんね」。 質問は「小さい頃はどんな子供でしたか?」。「明るい子じゃなかった。変な子供でしたね」、 優しく応える竹中さんです。 「初めてお芝居に出るんですが、演じる事について何かアドバイスを 頂けますでしょうか」−−「落ち込んだりしても、自分を許してあげるって事ですかね」。 もう、監督から締めの言葉を頂く時間です。「どんな感想を言われるのか・・・。台風が来てるから、 映画祭に行けないなら行けないでいいかな、なんて。今日は温かく受け入れてくれて、嬉しかった。 一杯褒めてもらったので、もう十分。−−公開はこれからなんだけど。いい小屋(公開館)が見つかればいいな。 もし帰りの飛行機が落ちても、これが遺作ならいいや」。
 和やかムードのリラックスしたシンポでした。だからこそ、小学生からの質問も出てきたのでしょう。 映画祭のパンフで原田知世さんは、本作を『私の宝物です』と書かれています。「サヨナラCOLOR」は 本映画祭の宝物になりました。来年公開されてからは、05年の宝物のような作品になるに違いありません。

湯布院映画祭レポート'04(21)

    ≪パーティー(29日 夜)22:00〜≫
 今夜の会場は、昨夜と同じ施設に変更。雨風とも、まだそんなには強くなっていませんが…。 最終日という事で、乾杯の前に来賓の挨拶です。「台風がかなり接近しています。 きっと台風も映画祭に来たかったんでしょう」――上手い表現に大拍手! 乾杯が終ってから、ゲストの皆さんに順次お言葉を頂きます。今日まで残って下さっていた澤井監督からは 「古い友達に会ったように寛がせてもらいました」。「Wの悲劇」で脚本を共作された荒井晴彦氏は 「今度は、映画には脚本がいかに大事か分る作品を持ってきます」。 いつの日か名コンビの作品をもう一度観たいもの。「樹の海」組の挨拶――。 瀧本監督は「上映前の舞台挨拶では足が震えました」と、 今はもうリラックスムードで挨拶。萩原さんは「とにかく多くの人に観てもらえる映画に出たいです。 生の声が聞けて良かった。また呼んで下さい」。「愛してよ」組の野村さんは「また近い内に来られたら…、 また来ますんで!」。

「サヨナラ〜」組のお2人。新藤プロデューサーから「思わぬ好評で心配になる程。 皆さんが地元に帰られたら、口コミで広めて下さい。TVスポットを流すような予算はないので」。 竹中さんはハイテンション気味に「皆さん酔っ払うと本音が出てくるのか、 ここでは厳しい意見も聞かされてますけど(笑)。映画が大好きで優しい人ばかりだな〜。 みんな一生懸命生きていきましょうね。映画祭、万歳!」。最後に”笑いながら怒る人”も披露して下さいました。 後でお話できた時に「最初から成算があって、あれだけ笑いを入れられたんですか?」と 質問をぶつけてみた所−−「現場の空気を読みながら...、 スタッフの反応を窺いながら入れていったんですよね」。 「樹の海」のお2人もしっかりとキャッチして、 お話を。瀧本監督へは、「井川遙が樹海へ持っていくのが、 大杉さんが買い求めたのと同じネクタイというのがすごく効いてました。 青島プロデューサーとのコンビ作で、きっとまた来て下さい」。俳優仲間の野村さんと談笑されていた 萩原さんへ話し掛けると、彼はすかさずキャップを取って正面から向き合ってくれます。 「シンポジウムの最後の挨拶やさっきのお言葉は、観客の胸にぐっときました。初めての『湯布院映画祭』を 気に入って下さったようなので、これから何度でもいらして下さい」。「そのためにも、いい作品に 出演しなければなりませんからね」−−力まず、さり気なく、でもしっかりとした萩原さんの決意表明でした。 言葉を交わすと、一遍にファンになってしまいます。「どんどん出て下さい!」。

パーティーの...、そして映画祭のラストは、実行委員全員が舞台の周りに集められ、紹介されます。 締めくくりの実行委員長からの挨拶の中で、継続中の大記録(?)が明らかにされました。 これまで台風による交通機関の乱れ等の理由で来られなかったゲストは、1人もいないそうなのです (台風シーズンど真ん中の開催ですから、これは奇跡的な事)。今年も紙一重の所で、記録の継続に成功! 最終日のゲストの皆さんは、来る事が出来ても、帰れないかもしれないのに...。 「また、今年も自費で来て下さったゲストの方が何人もいらっしゃいます。 映画祭の方から交通費を出せるのは、1作品3人までですから。来年は30周年、 どういう形でお迎えできるか分りませんが、またお会いしましょう!」。 言葉を交わす事の出来た実行委員の方と握手でお別れ。来年参加できたなら、 また握手で再会を喜び合いたいものです。

映画祭が終るのを待っていてくれたかのように、夜半過ぎから大型台風が大接近。翌月曜日に丸一日宿で足止めを 食ったのもある意味、楽しい思い出の一つ。参加のたびレポートしたい土産話が激増しており、 嬉しい悲鳴がなかなか止まりません。ほんとに困りもの...。来年は記念の【30周年】。 今まで以上に”困った映画祭”になってくれる事でしょう。
 上映作品そのものの魅力は映画祭にとってもちろん一番重要な事ですが、 私にとってはシンポやパーティー等の楽しさの占める割合が年々高くなってきているのを実感します。 万一、上映作品の多くがそれほど好みでなくても、そちらで十分楽しめるようになったのです。 つまりは、全体的にみれば外れなし! だから、常連の人は毎年参加し続けているのでしょう。 とうとうこのレポートも終りに...、私にとっての”もう一つの映画祭”も閉幕です。 今日は9月21日−−ということは、来年の映画祭の開幕まで【あと337日】。こんな風に指を 折ってしまう事が常連になる条件なら、私もそろそろ常連入りの資格を身につけられたのかもしれません。