TOMIさんの湯布院映画祭レポート05(第30回)

 8月も半ばを過ぎました。ということは、間もなく”例の季節”がやって来ます。 小・中学生の頃、夏休みを待ち兼ねていたように、ここ数年”大人の夏休み”として 『湯布院映画祭』行きがすっかり恒例行事に。日本で最も歴史ある映画祭は、 今夏でとうとう30回目を迎えます。開催期間は24日(水)から28日(日)迄で、 私の到着は例年通り2日目の25日(木)夕方近くの予定。初日の『前夜祭』では毎年、 由布院駅前広場で古い日本映画の野外上映会が行なわれていますが、 このイベントは残念ながら未体験なのです。今回は少々無理してでも初めて 1日目から参加しようと準備しかけたものの、全てを体験してしまうと少し熱が 醒めそうな気がしたり、野外上映作がどうしても観たいというほどではなかったため、 見送ることに。
 昨年は台風の当たり年で、本映画祭も最後になって被害を受けました。 最終日の夜半過ぎに大接近してきた台風16号が翌早朝ついに九州へ上陸。 参加者やゲストの多くが丸一日宿に閉じ込められてしまいましたが、 会期中に襲来されるよりは余程まし。最終日のゲストの皆さんが、 予定通りに帰京できなくなるのを覚悟の上で来場して下さった事にも感謝です。 台風シーズン真っ盛りの開催でありながら、今までその影響で参加不能に なったゲストが1人もいないのは奇跡的な巡り合せでしょう。 今年はスカッと夏空が広がってほしいもの。
 今回のテーマは”笑う湯布院映画祭”。ポスターは和田誠さんが描いて下さいました。 記念回だからといってかしこまることなく、 笑って30年の道のりをお祝いしましょうとの姿勢(私の勝手な解釈ですが)は、 映画祭の自由でオープンな雰囲気が反映されているようで、懐の深ささえ感じました。 新作の特別試写は6本。内3本は初めて題名を聞いたぐらい、 ほんとに出来たてほやほやのホットな作品ばかりが選定されたみたいです。 ここ2〜3年、日本映画の充実ぶりはかなりのものがありますが、 きっと今回の6本もそれを裏付ける水準の高さを示してくれる事でしょう。 どんな傑作が...、ゲストの映画人たちとのどんな交流が、 待っていてくれるのでしょうか。開幕まで、あと3日!

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湯布院映画祭レポート05(1)

 昨年、閉幕直後に上陸した台風が、 今年は開幕直前に日本列島へ接近してきてかなり心配させられましたが、 東へ東へと逸れながら絶妙のタイミングで進んでくれたため、出発当日の25日(木)は 中国・九州地方への影響は全くなくなりましたし、東京方面からのゲストや 一般参加者も飛行機で無事やって来ることが出来たようです。過去、台風の影響で 来場できなかったゲストがゼロという”不敗神話”は、今年も生きていました。
 そして、30回を迎えた本映画祭の存在も、神話のように...というのは大げさですが、 映画業界ではすごく大きなものになっているのを実感できた今年の湯布院行きでした。 多くのゲストの方が、記念回に招待された誇りと喜びを口にされていましたし、 「名前だけは知っていましたが、こんなに温かく迎えてもらえるとは思ってもいませんでした。 絶対また来ます!」と誓う方が何人も。また、初めてシンポジウムの洗礼を受けた 『湯布院』初登場のゲストの方々は「手厳しいと有名なのでビクビクしていましたが、 たくさんの率直な意見が聞けて本当に参考になりました」と、終了時にはもっとシンポ を続けたそうな言葉を・・・。そういう、監督・俳優・スタッフ・プロデューサーたちに とっても或る種あこがれにさえなっている歴史ある映画祭の場に今年も立ち会えた幸福感は、 何ものにも代え難いものがあります。
 昨年に比べ俳優ゲストの人数が少なく、寂しく感じていたら、 開幕直前になって富司純子さんと田口トモロヲさんが追加発表され、 一気に充実! 試写作品は、新鋭や初メガホンなど例年以上にフレッシュな監督の 作品が選定され、”日本映画を応援する”という本映画祭の精神が改めて 鮮明に打ち出されたラインアップでした。珍しくドキュメンタリー作品も含まれています。 そういえば、映画祭も”起承転結”のある1本の映画のようなものかもしれません。 それを記録として残そうとする行為は、フィルムの代りに文字でドキュメンタリー映画を 撮っていくようなものなのかも。書き上げた後で全体を読み返せば、トーンが 統一していなかったり、書き直したい所や書き漏らしたエピソードがあったり、 自己満足の記述になっていたり...と編集をやり直したい箇所が幾つも見つかるでしょうが、 私の力不足を補って余りあるほど、素材としての本映画祭の魅力が抜群なので、 どんな方にもそれなりに楽しんで頂けるのではないでしょうか。 途中入場は全然構いません。どうか途中退場されず、エンドマークまで” 第30回『湯布院映画祭』ドキュメント”にお付き合い下さいますよう。間もなく開映です。

湯布院映画祭レポート05(2)

 木曜から土曜の昼間は、今年の映画祭のテーマ”笑う湯布院映画祭”に沿った作品が 上映されます。本日25日(木)は10時から「花と嵐とギャング」(1961年作品)、 11時40分から「吹けば飛ぶよな男だが」(1968年)。そして、上映後にゲストトークが 予定されている森崎東監督の昨年の秀作、「キネマ旬報」「映画芸術」両誌の日本映画 ベスト・テンに選出された「ニワトリはハダシだ」が13時30分より。私が、 大分駅からの特急で由布院駅に着いたのは15時45分頃。ちょうど監督のトークが 始まる時間なので、荷物を下げたまま、映画祭の会場である歩いて2〜3分の [湯布院町中央公民館]へ急ぎます。私のように映画祭をたっぷり楽しむ参加者が 利用するチケットは、毎夜行なわれるパーティーを含む全プログラムに入場できる全日券であり、 個人名入りのパス形式になったそれを忘れず首から下げておきます。 公民館の玄関を入ると、正面に受付があり、顔なじみの実行委員の方が。 「いま到着しました」と簡単にご挨拶してから、トーク会場である2階会議室に向かいます。

■25日(木)■ ≪森崎東監督のトーク・・・15:45より≫
 こういうトークイベントや、試写作品の上映後に行われるシンポジウムは、 定刻の1〜2分前から始められる事が多く、本イベントも既にスタートしているので、 ドアをそっと開け静かに入場します。最後列の席(折り畳みイス)に着席したのは、 定刻の約5分過ぎ。平日の昼間なので、席の2〜3割は空いています。 参加者は60〜70名ぐらいでしょうか。シンポジウムもこの場所で行われるのですが、 多い日は200名以上が参加し、立ち見でぎっしり満員となります。
 監督や司会者は窓を背にして座っておられます。窓外に広がっているのは、 緑が匂ってくるような雄大な山の景観と、その後方に広がる夏の空。 台風が完全に逸れたのですっきり晴れているかと思いきや、時おり陽が差すものの、 この日は全般にうす曇りでした。後で実行委員に確認すると、昨夜は小雨が降ったり 止んだりだったので、野外上映会は中止となり、この公民館の大ホールで無料上映されたのだそう。 もし初の野外上映会体験を狙って昨日の内に湯布院入りしていたら、 残念な結果に終っていました。いつか初日からの参加に踏み切る年には、 どうか晴れてくれますように。

 さて、トークは当然「ニワトリはハダシだ」を中心に進められていきます。本作は、 岡山のミニシアターでも2月に公開され鑑賞済み。撮影時のエピソードや裏話を たっぷりと披露して下さいましたが、観てから半年経つとかなり忘れており、あまりピンと きませんでした。個々の話は面白くまた興味深かったものの、映画の内容とうまく 結びつかなかったのです。トレードマークのキャップをかぶった監督は、 大変いい声をしておられます。目を閉じて聞いていると、とても77歳とは思えません。 「ニワトリ〜」には主要登場人物として、明晩の試写作品「スクラップ・ヘブン」に 主演の加瀬亮さんが出演されています。明日ゲストとしてやって来てくれる彼は、 森崎監督とは初の仕事。「やさしい顔をしてるけど、演技面ではとてもしっかりしていましたね」と 監督。生真面目な加瀬さんは撮影中のある時、脚本に書かれている自分の役の心情が分らず、 監督に尋ねます。が、監督も簡単に答えようがないので、半分はずみで「それは口ごたえかね」と 言ってしまうのです。加瀬さんがどうしたかというと━━”ああ、こういう人なんだ、監督は”と、 なぜか納得してしまうのです。「僕に答える意志がないんだと分ったので、 彼は気が楽になったんでしょうな」。加瀬さんはそれから演じるのが楽しくなり、 好演に結びついたのでした。「”しめた! これからは、いつもこう答えようかな”なんて 思っちゃいました」(場内笑)、ユーモアに溢れた監督です。
 映画祭のパンフレットには上映される作品の関係者からのコメントが掲載されていますが、 本作には14名もの方から寄せられています。「湯布院の名産品・カボスぐらいしかお礼として 出せないのに、こんなに多くの方から」と司会者が紹介。嬉しそうに顔をくしゃくしゃに された監督は、実は第1回の本映画祭のゲストでもあったのです。 今では若々しい好々爺といった感じですが、30年前はどのような方だったのでしょう。 司会者が、「次作もまた『湯布院』で上映されますよう!」との言葉で締めくくられます。 10年後の第40回でも現役監督と参加者としてお会いしたいものです。 昨年の映画祭に92歳のゲストとしておいで下さった新藤兼人監督のように━━。

湯布院映画祭レポート05(3)

 森崎東監督のトークが予定通り17時頃に終了し、 1階に下りると、ロビーでは30回を記念して過去の全映画祭のパンフレットが 特別展示されています。特製の陳列ケースで30冊がずらりと並んでいるのを眺めると、 壮観です。第1回目は薄っぺらくガリ版刷りに近いお手製のもの。それが回を追う毎に 製本がしっかりし厚みが増していく様は、映画祭の発展とオーバーラップしてきて感慨深い ものがあります。自由に閲覧できるので、最終日まで空き時間には何度も手に取ってページを めくったものでした。展示するために倉庫整理をしていて見つかったのか、余分な在庫の 残っていたかなり昔の回のパンフが、販売コーナーに並べられています。未入手のものが 5冊あったので、すかさず全てを購入。映画祭への参加は今度で5回目ですが、パンフは これで12回分が手に入りました(毎年、過去3〜4年分のパンフが販売されています)。 パンフレットの定価は、ここ4年間はずっと800円。100ページ以上あり、盛りだくさんの 内容で読み応え抜群ですから、決して高くはありません。昨年同様、友人や知り合い等へ 郵送するため今年の分を3冊購入したのでした。自分用のものは、ある理由から今年は 無料で入手。その訳は、当レポートの最後の辺りで説明する事にしましょう。
 試写作品の上映まで1時間以上ありますから、映画祭の事務局を通じて予約した いつもの宿へチェックインしに向かいます。歩いて7〜8分。[牧場の家]という和風の 離れが幾つもある宿で、他の参加者との相部屋になります。混雑する日は最多で6人が 一つの離れで寝泊りすることに。例年、木曜日は3〜4人程度。なのに今年は、いきなりの 満員状態。実際は1人が仕事の関係で翌日の到着となり、この夜の宿泊は5名だったのですが、 さすがに記念回ということで、映画の入場者やパーティー参加者なども例年より幾分多めに 感じられました。身軽になって、会場へと戻ります。

■25日(木)■ ≪特別試写作品「転がれ!たま子」・・・18:15より≫  試写のオープニング作品は、女性監督・新藤風(かぜ)氏の「転がれ!たま子」です。 変わった題名だと誰もが思う筈。どんな映画なのでしょう。上映前に、ゲストが 舞台に登場されます。監督と、主演の山田麻衣子さん、そして新藤次郎プロデューサー。 スタイル抜群の山田さんは、ノースリーブの鮮やかな赤のドレスシャツに黒のスカート。 ロングブーツも黒で、思わず見惚れてしまいます。彼女の事はあまり知らなかったのですが、 こんなに美人女優だとは思いませんでした。ロングヘアーの風監督は新藤兼人監督の実の お孫さんであり、プロデューサーの娘さんになります。まず、前回も「サヨナラCOLOR」で ゲスト参加された新藤プロデューサーから順に挨拶して頂きます━━「あるメッセージを 込めたつもりです。どう感じてもらえるか楽しみです」。監督は、「一般向けには初めての 試写なので緊張しています。楽しんでもらえたら嬉しいです」。山田さんは東京生まれですが、 何と子供の頃ここ大分に数年間住んでいたのだそう。「同じ県内の湯布院で最初に上映される ことになり、信じられないぐらい嬉しいです!」。

 映画は、題名から受ける印象に違わぬユニークなものでした。タイトル文字も、転がって 出てきます。不思議な笑いと力強さに満ちており、またハートマークが飛び交う場面などあって、 この後のシンポジウムで観客からの感想にも出てきましたが「アメリ」を連想する方も 多いでしょう。出演者が楽しんで演じているのが、よく分ります。山田さんは、 ある意味すごい体当りでの演技。前半はほとんど台詞がなく、しかも”鉄カブト”を かぶっているのですから。公開されたなら、誰が演じているのかかなり注目を集めるでしょう。 私は正直、舞台挨拶に登場した実物の彼女があまりにも綺麗だったので、 それとかけ離れた劇中のたま子にはそれほど強く魅了されませんでした。 ただ、公開時この映画がマスコミや一般観客からどんな評価を受けるのか、 強い関心を持って見守っていきたいとは思っています。

湯布院映画祭レポート05(4)

■25日(木)■ ≪シンポジウム(「転がれ!たま子」)≫
 上映終了後スクリーンに拍手を送ると、素早く席を立ち、 シンポジウムの行われる2階会議室へ急ぎます。こちらの会場は床に傾斜などないため、 前の方に座らないとゲストの顔がよく見えないのです。女優ゲストのいないシンポは話が 聞こえさえすればどの席でも構いませんが、今回は最前列狙い。こういう時のため、映画鑑賞時の 席はいつも通路脇を確保し、ダッシュで移動できるようにしています(ダッシュといっても 実際には走ったりする訳ではなく、早足程度ですが)。無事、希望通りの最前列が取れ、 後から入場し前の長机の向こう側へ着席された山田さんを間近で見ることが出来ました。
 ゲストは、舞台挨拶に立たれた御三方がそのままこちらへも出席。司会は、その作品に ほれ込んだ実行委員が務めます。監督は初の湯布院、「最後まで観てくれて、 ありがとうございました。途中で出て行かれるんじゃないかと心配してました」。 主人公たま子の誕生秘話が新藤プロデューサーから語られます、「まず脚本があり、 読む人それぞれにイメージがバラバラだったが、山田麻衣子に会えて、 たま子像が具体化してきた。パッと見が変な子であってほしいと思っていたのですが、 彼女は独特の空気感を持ってますから」。山田さんはオーディションを受けるうち 大好きになったたま子役に挑みますが、最初の頃は試行錯誤の連続だったそう。 「たま子の内面の子供らしさが体で分ってからは、迷いなく演じられるようになりました」。 彼女はたとえ自分がオーディションに落ちてもいいから、役にふさわしくて大切に演じて くれる人にやってほしいと願っていたのだとか。この話を聞いた後で映画を観たなら、 もっと”たま子ワールド”に引きつけられたことでしょう。

 脚本家の名前は『しんどうぎんこ』。プロデューサーが、自分の妹なのだと紹介。 児童向けの小説なども執筆されています。「とにかく変わったホンなので、変わった まま映画になればいいと、こんな風に作ってみました。ファンタジーにはしたくなかった んだけど、そうなってしまったかもしれません」。男性の、特に中高年層からは拒否反応が 出る恐れがありますが、その代わり女性の観客からはたま子の熱烈ファンが出現するかも しれません。現場のスタッフも四十代・五十代の男性が多く、熟練の技でセットを作った ものの、自分たちの感性では良否が判断できず、ずっと心配そうな顔を。ある日、 若い女の子のグループが見学に訪れます。「かわいい!」と目をキラキラさせるのを見て、 彼らは初めて手応えを感じ俄然やる気を出して、監督から深く感謝される仕事を やり遂げたのでした。
 製作に当っては兼人監督からもアドバイスをもらいますが、試写を観た氏に 「君たちは僕の意見を一つもきかなかった!」と嘆かせる結果になってしまったそう(笑)。 山田さんは、録画して何度も再生したいような魅力的な表情をたくさん見せてくれました。 その美しさをわざと殺したような本作は、”惜しい!”という思いが先に立ち、私好みと はなりませんでしたが、彼女の存在をはっきりと知り、こうして生で見られたのは大収穫。 今度は、自分のセールスポイントを最大限に生かした恋愛ものなどに出演して もらいたいものです。11月には舞台に初挑戦の予定。
 締めの挨拶の中でプロデューサーは、兼人監督に「何とか”94歳のラストフィルム”を 撮らせたい」とおっしゃっていました。ぜひ実現して頂きたいもの。そして本映画祭で 上映され、もう一度兼人監督をゲストにお迎えできたなら━━。終始、 活発に感想や意見が飛び交い、新藤ファミリーの映画との結びつきの濃さにも 驚かされたシンポでした。公開は、来年1月頃。

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■25日(木)■ ≪パーティー ・・・22:00より≫
 パーティー会場は日替わりで、今夜と明晩は歩くには少し遠いためパスが出ます。 5分ほどで到着。庭園での立食形式です。乾杯の挨拶は新藤プロデューサー、 「30回という節目の年のオープニングで上映され、誇りに思います。40回、 50回と続いていきますように。カンパ〜イ!」。幾つかのテープルに分かれて料理に箸を のばしていると、何と山田麻衣子さんが私のすぐ隣りで同じテーブルにつかれたのです!  料理の大皿を取り易いように移動してさしあげたり、お話したり、周りを囲む参加者たちと 彼女との会話を聞いたり、写真撮影に応じたりパンフや色紙にサインする様を眺めたり...と、 今回の4夜のパーティー体験の中で1、2を争うぐらいの至福の時を過ごさせてもらいました。 ちなみに山田さんのサインは楷書体ではっきり読めるものでした。映画上映前の舞台挨拶や シンポジウム会場での写真撮影は特に強い規制はありませんが、ここ2〜3年パーティー会場での 写真撮影やサインのおねだりがちょっと問題に...。ゲストと映画に関する色んな話を フランクに交すのが、このパーティーの主目的。ゲストと参加者が熱心に話しているのに、 割り込んできて一緒の写真を頼んだりサインペンを差し出したりする場面が、 以前に比べ目立つようになってきたのです。今年は遂に、屋内で開催され参加者も多い 土・日のパーティー会場では、開始前に「写真撮影とサインは禁止」との御触れが マイクで流されたのでした。━━歓迎です。ゲストの皆さんには、リラックスしてたっぷり 映画の祭りを楽しんでもらい、”また来たい”と感じて頂くようにしましょう!  ただ、実際には土・日のパーティーも半ばを過ぎると、あちこちで遠慮気味に写真やサインを 頼んでいる光景を見かけました。まあ、この程度は目くじらを立てなくても良いと 許容できる範囲内。ゲストも全くせがまれないと、寂しいでしょうしね。注意を呼び かけるアナウンスは”効果あり”だったと思います。来年も行なって頂きたいもの。
 さて、山田さんと交したのは、やはり「転がれ!たま子」の話。撮影したのは今年の 1月から2月にかけて約1ヶ月間で、スクリーンでは服のデザインがそう見えがちだった こともありふっくらと映っていたのですが、今より当時の方が少し痩せていたのだそう。 また、彼女の飲み物がお酒だったので、ちょっとびっくり。19歳ぐらいかと勝手に思い 込んでいたのです。後でパンフをチェックしてみたら、しっかり20歳を超えられていました。

 途中で、柄本佑(たすく)くんが到着。2002年に本映画祭で主演作の 「美しい夏キリシマ」(黒木和雄監督)が試写上映され、翌年公開されるや 各映画賞の新人賞に輝き、現在では映画やテレビドラマから出演依頼が相次ぐ売れっ子に。 苗字で分る通り、柄本明氏の息子さんです。そして彼は、本映画祭の実行委員でもあるのです。 柄本明氏は常連ゲストであり、佑くんは子供の頃から何度も連れて来られる内、 自然と裏方を手伝うようになり、実行委員に名を連ねるようになった模様。 実は本日行なわれた≪森崎監督のトークイベント≫の司会は当初、 彼が務める事になっていたのです。急にロケが入り、チャレンジは実現せず...。 結局今日のロケは中止となり、水戸から駆けつけてくれたのだとか。 背がすごく高くなっているのに、びっくり。180センチぐらいあるでしょう。 ひと言挨拶をとマイクを渡されます、「ど〜も、柄本です。明日から実行委員を 務めますので、宜しくお願いします」。言葉通り、最終日まで委員として普通に 働く彼の姿をあちこちで見かけたものでした。

 宴も半ばに差し掛かる頃、「転がれ!たま子」組の皆さんから挨拶を頂戴します。 本作の配給は『シネカノン』。同社の顔といえば、最近テレビ出演 (8月上旬のNHK「トップランナー」等)を始めメディアへの露出が多い 李鳳宇(リ・ボンウ)氏ですが、彼を加えた4人が仮設舞台に。 まず当地は常連の李氏から、「シンポの意見を参考にして宣伝戦略を考えることが多く、 ここはほんとに貴重な場です。『アメリ』の主演女優オドレイ・トトゥにも 会ったことはありますが、麻衣子の方が綺麗です!」。 そう言われて恥ずかしそうな山田さんは、「映画祭で観客の生の声を聞くのは初めてでした。 参加者の皆さんの意見や見方や切り口にはハッとさせられる事が多く、 目からウロコが落ちるような思いです。子供の頃、大分市内に住んでいたので、 いつか仕事で来られれば良いのにとずっと願っていました。それがこういう形で叶い、 言う事なしです。きっと、また来ます!」。新藤プロデューサーは、 既に配給が決まり公開日も具体化している喜びと、李氏への感謝を口にされました。 昨夏のクロージングで上映された「サヨナラCOLOR」はようやく、 1年後の本年8月に東京で初日を迎えましたが、映画祭での試写上映から一般公開まで 1年以上かかる作品も珍しくないのです。昔はたいてい、その年の秋から冬にかけて 公開されるものばかりだったようですが。ですから、来年早々に公開されるというのは、 かなりめでたい事なのです。

 ところで、本映画祭の映写技師は、第5回からずっと飯山庄之輔さんという方が 務めて下さっていました。なくてはならぬ存在となった氏は、このところ体調を 崩され入院されていたのですが、残念なことに映画祭直前の8月15日にお亡くなりに...。 今年からはご子息の庄蔵氏が、後任として担当されています。その庄蔵氏が紹介され舞台へ、 「親父から30年叩き込まれた技術で映写機を操作します。親父は30回を楽しみにしており、 這ってでも...化けてでも行くと言っていました。ですから、 今もそこら辺の暗がりから見てるんじゃないでしょうか」。 飯山庄之輔さんについては、明日「仕上人」という氏の仕事ぶりを追いかけた ドキュメンタリーが特別上映されるので、そこでもう少し詳しく触れることになります。
 昨年、監督2作目の「るにん」が試写上映された奥田瑛二監督からのFAXが届き、 読み上げられます━━「30回、おめでとうございます。『るにん』は東京で正月第2弾と して公開される事が決まりました。緒形拳さん主演の第3作も、秋にクランクインします」。 こんな風にパーティーの第1夜は進み、0時前にお開きとなったのでした。 川沿いの田舎道を歩いて宿へ向かえば、冷夏だった2年前以上の涼しさで、 半袖だと少し肌寒いぐらい。明日は好天になってくれるでしょう。

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 参加2日目は、朝の内はうす曇りでしたが、日中はほぼ晴れ。 本日の昼間の上映は「みんなあげちゃう」(1985年)・「殺人狂時代」(1967年)・ 「狂った野獣」(1976年)の3本です。1日の上映開始は連日10時より。
 由布院駅に併設の[アートホール]では映画祭の開催期間に合わせて30回分のポスター等の 展示が行われており、9時のオープンを待ち今朝はまずそちらへ入場します(無料)。 公民館のロビーでパンフレットの特別展示を見た時と同様、30枚分のポスターを眺めていくと、 本映画祭の歴史の重みを感じると共に、”もっと昔から参加していたかった”との 何十回目かの後悔の念が。ゲストの皆さんのスチール写真も十数枚飾られています。 昔の方がビッグネームが多かったように思えてしまうのは、私のひがみでしょうか。 コンビニで食料や飲み物を調達してから、公民館へ。本日の3本はいずれも未見だったため、 10分程度の休憩時間におにぎりやパンで昼食を済ませ、連続鑑賞したのでした。 ロビーには、昨年から始められた【EXPRESS(エキスプレス)】という 前日の各イベントを写真入り・コメント入りでレポートする速報が貼り出されています。 さて、この後は30回の特別企画━━。

■26日(金)■ ≪プロデューサーシンポジウム・・・15:15より≫
 実は10年前の第20回にも同じ企画が実施されたのです。もちろん顔ぶれは違いますが。 この10年間、日本映画界は色んな意味でかなり変わってきました。 映画作りの柱はやはりプロデューサーですから、今回も第一線で活躍する方々を お招きして、存分に語って頂きます。『オフィス・シロウズ』の佐々木史朗氏(「家族ゲーム」 「ナビィの恋」等)、『近代映画協会』の新藤次郎氏、『シネカノン』の李鳳宇氏( 「パッチギ!」「さよなら、クロ」等)、『ステューディオスリー』の森重晃氏 (「ヴァイブレータ」「光の雨」等)、『キノ』の椎井友紀子氏(「顔」「 亡国のイージス」等)の5名。いずれもインディペンデント系(独立プロ)の プロデューサーです。司会は20回に引き続き、「キネマ旬報」に連載を持つ映画評論家で あり【文化庁文化部長】でもある寺脇研氏。氏は毎年、本映画祭にはゲスト参加 しておられます。場内は満員で、立ち見の人も。

「この10年で変わった事といえば、まず韓国映画の台頭」と司会者が話しの取っ掛かりを 作られます。韓国・日本とも、昨年の映画の輸出額は約60億円。日本映画は10年前も ほぼ同額でしたが、韓国映画は当時その10分の1程だったとか。「韓国は人口が約4,500万人 なので、海外へセールスしないと大成功はあり得ません。だから、そうしている訳です。 日本は1億2千万人いて、自国内だけでも適当な市場が形成されているので、 セールス面では閉鎖的なんですね」。
 佐々木氏が、「日本ではメジャーの大作と同じ土俵でミニシアターの 映画も上映されている。つらいけど、そういう勝負に挑んでいる事を誇りにも思います」。 韓国では自国作品はメジャーのものしか公開されないそうなのです。 年間60本ぐらい。日本で言う『単館系』の作品はほとんどない、との事実を聞か され驚きました。一方日本映画は、成人映画を含め年間の公開本数は何と約400本!  しかも、完成してもなかなか公開されないものが他に100本前後もあるのです。 「劇場が空かなかったり、色んな事情で。供給過多でしょうね」と話を継ぐ李氏は、 映画の製作のみならず、配給そして映画館の経営にも携わっておられます。 「この前結婚式に招待されたんですが、司会者が私のことを『ヨン様を日本に初めて呼んだ人』と 紹介すると、大注目を集めました。日本は韓流プーム真っ盛りですが、今度は韓国で” 日流ブーム”を作りたいと思っています」━━李氏はそのために韓国内に映画館を建設中。 シネコンのように複数のスクリーンを有し、内1スクリーンで常時日本映画を上映していく 計画なのだそうです。ぜこ成功して頂きたいもの。「現在は、製作よりも配給・劇場経営の 方が仕事の比重は高いですね。ですから、自分のプロデュース作品の市場価値も客観的に 見られていると言えます」。司会者が「新人監督が1人も出ない年が70〜80年代にはありました。 今では何十人もが監督としてデビュー。その中には、劇場公開レペルに達していないものが 少なくないですね」。森重氏が補足しながら話に参加されます、 「数年前からどこの出身の監督か素性の分らない人間が多くなってきた。 他分野の人が手を出しやすい状況になってます。400本の映画に出資した会社の数は、 10年前の倍ぐらいになっているのでは」。

「メディアが増えましたね、インターネット配信やセルDVDなど。また、 テレビ局が活発に映画製作を行なうようになりました」と李氏から。 新藤氏の『近代映画協会』は約50年の歴史を持つ日本で一番古い独立プロ、 「公開して、勝ち負けがはっきりするようになった。10年前は失敗しても 歩留まりが計算できたものですが、近年は赤字になるとその額が大きなものに。 なのに公開本数は年間400本も。他のプロデューサーはどんな遣り繰りをしてるのかなぁ?」。 李氏は配給・公開の立場からも、「興行形態が変わりましたね。 10年前はブロックブッキングが確立しており、東宝・東映・松竹のメジャー作品は 自動的に全国の系列館で公開され、日本映画は守られていました。これは、 日本独特の公開方式。『月はどっちに出ている』(氏の製作)はそういう形態でなく 成功しました。もっと古くは『お葬式』がありましたし、昨年の『誰も知らない』もそう。 『ピンポン』のようにミニシアターで公開されながら、シネコンでも拡大公開され、 単館系の枠を超えた大ヒットに結びつく━━興行はアメーバのように変わっていって いいのではないでしょうか」。本映画祭へは3年連続の参加となる森重氏は、 「製作予算は10年前とほとんど変わってません。昔は香港ロケの作品を撮ったり、 香港の映画人たちと一緒に仕事をしましたが、また外国へも出ていきたいですね。 日本映画を取り巻く環境は今そんなに悪くないのではと思っています」。

 唯一の女性プロデューサー・椎井氏は、決して遠慮してという訳ではなかった でしょうが、もっぱら聞き役。彼女の話の内容をざっとまとめてみましょう。 「うちの事務所はほんとに個人商店で、いつ潰そうかと思いながらやってきました。 よく生き延びてこられたものです」。「『亡国のイージス』は、今まで阪本監督と ずっと組んできたので、お手伝いプロデューサーとして関わっています。『顔』は 主役が美人じゃないと客が入んないよとさんざん言われたが、藤山直美さんと 約束していたので無理やり作ったら、ヒット」。「映画人は不良じゃないと ダメですね。最近の若者は覇気がない。不良が少ない。ここに並ぶ5人は博打 (ばくち)打ちばかり(笑)。プロデューサーはヤクザな人間が多いので、 年間400本も公開されているのでは」━━女性らしい容貌ですが、 芯の強さは少ない発言からでも十分に窺えました。
 司会者が別の切り口を示します、「日本映画・アメリカ映画のメジャー作品は、 お客が観たくて公開されているのではなくて、自動的にベルトコンペアみたいに 上映されてる感じがするんですね。送り手側主体で。その点、韓流ブームで 本数の増えた韓国映画は、観客が期待しているからそれに合わせて 公開されているものが多いようです。『冬ソナ』のヒットは、セオリーが ことごとく覆されました。若者層でなく高年齢層からヒット、都会でなく 地方から、地上波でなくBSから」。新藤氏も頷きながら、「観たい映画を自分で 発見して足を運ぶというのが少なくなったみたいですね。TVスポットに 誘われて観に行っちゃうのかなぁ」。

 現状の課題や問題点、今後の計画や展望・改革の
アイデアなどの発言を集約してみましょう。李氏は、「映画を学びたい学生が多い。 が、肝心の映画をあまり観ていないんですね。また、 コンペに応募してくる若者の作品は、自分探しのプライペートフィルムがほとんど。 ”勝手に探してろよ”と言いたくなります」。司会者からも関連発言が、 「大学には映像コースが増えています。少子化の中、学生を集めやすいですから」。 最年長で最近では大学等での講義を依頼される事も多くなった佐々木氏は、 「観たことのない映画が成功しやすい。けれど、そういう作品はスポンサーに 説明しにくく、製作費を集めにくいんですよね。日本のやり方に根ざした映画が、 結局アジアやヨーロッパでも受け入れられるのでは」。氏は、今映画祭の試写作品の 内「スクラップ・ヘブン」「ルート225」の2本をプロデュース。 「組みたい監督は直感で選びます。若くても、僕に何かを教えてくれる人」。 苦言というか嘆きの言葉も、「国立劇場では演劇をやっているのに、なぜ” 国立の映画館”はないんでしょうね・・・」。
「日本映画を外国人が監督しても良いのでは」と李氏。ハリウッドでは、 才能さえあれば外国人監督をどんどん起用しています。「韓国の映画人は お客が観たいものを作ろうとする。日本は、監督の観たいもの」、そうかもしれません。 「ヒットの4大要素は、原作・東宝配給・テレビ局製作・主題歌(笑)。 プラスありえない純愛映画・・・難病もの」。「20代でのデビューにこだわらず、 40代・50代で監督デビューしてもいいんじゃないですかね。松本清張さんなどは 40代で作家デビューしながら、あれ程たくさんの小説を執筆されていますから。 もうすぐ団塊の世代が定年に。彼らをターゲットとした映画は20代には撮れません」。 司会者が落ちをつけます、「確かに若い人ばかりでなく、定年になった人を 監督に育ててもいいかもしれませんね。そういう人は”自分探し”など しないでしょうから(笑)」。

 そろそろ残り時間も僅かに。司会の寺脇研氏が【文化庁文化部長】としての 発言で締めくくられます、「文化庁としても、若い人がショートストーリーを 作るのを助成したい。プロデューサーに観てもらい、監督への道が拓けるよう チャンスを増やしたいと考えています。映画館を整備したいし、館数ももっと 伸びていくようにしたいですね」。一映画ファンとしての希望も混じっていたようです。 興味深い話ばかりの、聞き足りないし、話し足りないであろう1時間45分でした。 皆さん、彼らのプロデュース作品なら観て損はない、と思わせてくれる話しぶり。 現代こそプロデューサーの役割が一層重要になってきているのではないでしょうか。  当地で会ったプロデューサー同士が映画を共同製作し、その作品を持ってまた 『湯布院』に来てくれるという事例もあります。そんな1本が今回のこの場から 生まれてくれますように。尚、掲載した発言量は極端に多い人・少ない人に分れていますが、 これは私が一般の映画ファンの興味を惹きやすいものを優先し勝手に 取捨選択を行なったためで、実際は男性4名の方々は ほぼ同じぐらいお話されていた事をお断りしておきます。次回はまた10年後の第40回に... と言わず、35回ぐらいにも開催してほしいシンポでした。

湯布院映画祭レポート05(7)

■26日(金)■ ≪特別上映「仕上人」・・・17:15より≫
 昨夜のパーティーの項でも触れましたが、第5回からずっと本映画祭の映写を 担当して下さった飯山庄之輔さんが開幕直前お亡くなりに・・・。不謹慎な言い方に なっていたらご容赦頂きたいのですが、まるで映画のような幕引きに思えたものでした。 映写技師とは”製作者サイドの最後の職人であり、同時に一番最初の観客” (映画祭パンフより)でもあります。それまではただの物体にすぎなかったフィルムを、 映画に仕上げる人━━。その飯山さんの仕事ぶりを記録したのが、上映時間30分の本作。 監督は、映画祭の実行委員でもある楢本皓氏です。撮影は昨年の8月頃。80歳を超えた 飯山さんが病気がちになったため、お元気な時に働いている姿をフィルムに残して おこうと思い立ち、製作がスタートしたのでした。

 映画に映っていた飯山さんは、昔かたぎの職人らしく頑固な面も のぞかせていましたが、活動屋の匂いを全身から発散させているような魅力的な方。 恥ずかしながら私は、今夏の映画祭に来るまで飯山さんの事をほとんど 存じ上げませんでした。”飯山さんの生命は今年の映画祭には辿り着けなかったか もしれないが、「仕上人」の撮影が飯山さんがお元気な時期に間に合ったのは何より”と 考えたりしていましたが、スクリーンのお姿を観ていく内、やはりご存命中の飯山さんの 仕事ぶりを肉眼で拝見したかったと強く思うように。映画には昨夏の野外上映会の模様も 収められており、未体験のこのイベントを初めて映像で目にしたのでした。これでもう 、無理して野外上映会から参加しようと思わなくてもいい? ━━いえいえ、 映画が始まる前の映写機の設置準備から見たくなってしまったのでした。
 上映終了後、映写室を見上げると、窓越しにフィルムを片付けられている 息子・庄蔵さんの姿が・・・。飯山さんは『湯布院映画祭』と共に、これからも このフィルムの中で生き続けるでしょう。

■26日(金)■ ≪特別試写「スクラップ・ヘブン」・・・18:15より≫
 2001年の本映画祭で、映画学校の卒業制作でありながら余りの出来の良さに 劇場公開までされた「青〜chong〜」(54分の中編)という朝鮮学校を舞台にした 青春映画の快作が上映された李相日(リ・サンイル)監督が、昨年の「69sixty nine」に 続いて放つ問題作です。主演は、昨日上映された「ニワトリはハダシだ」にも出演されていた 加瀬亮さんと、今や”岡山市出身の”と注釈をつけ地元意識で応援する必要などなくなった オダギリ・ジョーさん。ヒロインは栗山千明さん。
 客席は8〜9割の入り。若い女性の姿が多く見られます。舞台挨拶は、 ゲストの皆さんが現在当地へ向かわれている途中なので、今回に限り上映後に。 私は「青〜chong〜」を観て一編に監督に惚れ込み、長編デビュー作の 「BORDER LINE」は大阪の『第七藝術劇場』で観ましたし、 「69sixty nine」も当然映画館で鑑賞。この「スクラップ・ヘブン」は かなりの期待作でした。【たまたま乗り合わせた路線バスでバスジャックに 遭遇した見ず知らずの3人の男女・・・庶務課勤務の警察官シンゴ(加瀬)と、 テツ(オダギリ)、サキ(栗山)。犯人に対して無力だった自分を蔑むシンゴは、 偶然再会したテツと互いの憤懣をぶつけ合う。やがて2人は、 世の中の不満を解消する”復讐請負いゲーム”を始め、サキは1人である 実験を続けていくのでした...】(チラシ等より)。 東京では10月に公開予定のため、内容に詳しく触れるのは止めておきましょう。 「青〜chong〜」と「69sixty nine」は笑いに溢れていましたが、 「BORDER LINE」は心がヒリヒリするような映画でした。 今回の最新作は、「BORDER〜」にも通じる世界をよりスケールアップして 追求しています。1作ごと、対極に位置するような作品を送り出している李監督。 世界のキタノのように振り幅の大きい映画を作っていってほしいものです。
 さて、舞台挨拶━━。
李監督と加瀬さん、そして上司役でご出演の柄本明さんが登場。 まず監督から「”若気の至り”満載でやってしまった映画を、 由緒ある映画祭で上映してもらい、嬉しく思っています」。加瀬さんは 「観て頂いて、有難うございます。色々言われる事を覚悟して来ました。 シンポで意見を聞かせて下さい」。柄本さんは実はサプライズ、というか飛入りゲスト、 「ほんとは来る予定なかったんだけど、ちょうど県内で芝居の公演がありまして。 映画の方、宣伝してやって下さい」。

湯布院映画祭レポート05(8)

■26日(金)■ ≪シンポジウム(「スクラップ・ヘブン」)≫
 狙った訳ではありませんが、今回も最前列。舞台挨拶に登場された御三方と、 『オフィス・シロウズ』の佐々木・久保田両プロデューサー、テレビ東京の女性 プロデューサー:柳原氏が前の席につかれます。参加者は続々と詰めかけ、 ぎっしり満員状態に。実行委員の誘導で、イス席を1列分ぐらい全体的に前へ 移動させたのでした。ゲストの皆さんとは、間に長机があるものの正に膝突合せ 状態。余りの近さに、思わず場内から苦笑が漏れます。舞台挨拶組から改めてひと言が。 大柄で優しい顔立ちの李監督は「オダギリジョーの代役で来ました」と意外にもお笑い狙い。 加瀬さんは「味わった事のない状況で・・・(笑)。緊張しています」。 柄本さんはゲストの常連で、この席がもう定位置であるかのよう、 「僕も代役で...(笑)」。こうしてお会いするのは2年前の「油断大敵」 シンポ以来となります。
 プロデューサーに製作のきっかけをお訊きします。「『青〜chong〜』が 面白かったので、この監督とやろうと。2〜3年前から進めていたのですが、 途中で『69sixty nine』の監督に抜擢されてしまい、こんなに遅くなってしまいました。 撮影は去年です」。本作はシナリオも監督が、「『69sixty nine』の前に第1稿を。 あて書きではなく、直しを行なっていく中で徐々に役者をイメージしていきました」。 加瀬さんは、これが2本目の主演。出演を決めたポイントは?━━「『69sixty nine』で ご一緒して楽しかったですし、また声をかけて頂き嬉しくて。『BORDER LINE』が 好きだったんですけど、脚本が似た感じだったので、 ますます乗り気に。穏やかでない作品になってます」。柄本さんの出演理由は、 「『オフィス・シロウズ』に言われるがまま(笑)。息子が持っていた 『青〜chong〜』のビデオが面白く、『69sixty nine』も良かった。この監督、 いいんですよ。映画が前向きなんですね」。柄本さんの口からこんな褒め言葉が発せられるとは、 予想外。監督は恐縮して体を小さくされています。

 観客からの感想コーナーへ。「すごい映画だった。次はどうなるんだろう? どうなるんだろう? どうなるんだろう? 音楽も効果音もずんずん心の中に入ってきた」。 それを受けて監督は「一筋縄でいかないような映画にしようと思って。ありきたりの 描写から逃れたくて、冒頭から普通ではない感じを出してみました」。次の感想は 「現代の日本の空気を描けていない映画が多い中、本作は過激だがあり得ない話ではない。 脳みそに手を突っ込まれてかき回されたような感じ。でも、心地よい疲れでした」。 また別の人からは「観客の予想を裏切る展開が見事。暴力シーンも説得力がある」。 好感触の意見が続き、監督は「ありがとうございます。お気をつけてお帰り下さい」と 思わずヨイショを。「加瀬くんと2人、なに言われても謝ろうと申し合わせていたん ですけど」。その言葉に反応した別の観客からは「作った以上、絶対に謝らないで 下さい」との激。『湯布院』の観客は、こういう問題作を...チャレンジの姿勢に溢れる 作品を好むようです。どんな映画もしっかり受け止めてもらえる雰囲気に安心したのか、 監督も創作に深く踏み込んだ発言を、「映画のスタイルは変わったものにしたが、 描こうとしたのは普遍的なもの」。観客からは賛辞ばかりでなく否定的な意見や、 説明不足を指摘する言葉も投げかけられます。ここでも珍しく柄本さんが弁護、 「説明が不親切であろうが、ちゃんと観てれば分るよね。さっき前向きな映画って 言ったけど、正確には"前を向こうとしている映画"かな。監督が何かを探そうと しているのを感じるんだよね」。
「BORDER LINE」で監督の演出力には舌を巻きましたが、 本作でもレベルを一段上げています。主役の3人は皆、強烈な印象を撒き散らし2時間弱を 走破。中でも出番の多い加瀬さんは、劇中のシンゴに自分を乗っ取られてしまったか のようにさえ見えたものです。監督も最後まで悩んだというラストも、シンゴになり きって迷いなくスクリーンに存在していました━━「撮影のラストカットだったんですよね」。 女性からも次々に手が挙がり時間ぎりぎりまで発言が飛び交った、 作品にふさわしい刺激的なシンポでした。監督は今冬と来春に1本ずつ 撮る事が決まっているのだとか。”しめた!”、来年も新作をここのスクリーンで 炸裂させて下さい。

湯布院映画祭レポート05(9)

■26日(金)■ ≪パーティー ・・・22:00より≫
 当夜の会場へもマイクロバスが出ますが、なぜか用意された台数が少なく、 最初の便に乗れずに公民館の前で待っていたら、「バスが帰ってくるのを待っていたのでは、 パーティーの乾杯に間に合わない恐れがあります。徒歩で行かれた方が早く着く かもしれません」との実行委員からの案内が。迷いましたが、道順は分っているし、 蒸し暑くもないので、歩いて向かうことに・・・。が、途中で道を勘違いして少し時間を ロスしたこともあり、到着したのは開始予定時刻を10分ばかり過ぎてから。どういう事情が あったのか知りませんが、こういう段取りの不手際は初めてだったので、ちょっと残念でした。 気を取り直して、というか腹ペコ状態なため、とにかく料理の元へ。例年通り肉の差し入れが あったとかで、炭火焼きのコーナーも。お腹を満足させたら、ゲストとの交流です。会場は そう広くない庭園ですから、その場でぐるりを見回せば、ゲストの誰かが目に入ります。
 李プロデューサーを囲む輪に加わり参加者たちとの対話を聞いていたら、大好きな 「パッチギ!」の話になったので、「『パッチキ!2』はほんとに作られるんですか?」と 質問。井筒監督がシナリオを執筆中なのだそう。「時代も登場人物もがらりと変わった物語に なります」との事。私は、井筒監督が公開2日目の1月23日に岡山の公開館へ舞台挨拶に来て 下さった事と、2月上旬にヒロイン役の沢尻エリカさんも舞台挨拶に来場してくれた事を お教えすると、李氏は「エリカはいい女優になりますよ」と嬉しいひと言を。実は私は本作で エリカさんの大ファンになってしまい、特典映像の彼女を観たくて「パッチギ!」は DVD(プレミアム・エディションの方)まで購入してしまったのでした。 製作・配給・劇場経営と色んな角度から映画に関わっているだけに李氏のお話は とにかく興味深く、こんな話題も披露して下さいました━━6年ほど前、岩井俊二監督と ヨーロッパの田舎へ行った時、大きなトレーラーに装備されたスクリーンに映写する 移動映画館を見かけたのだとか。その光景にすごく心惹かれ、日本でも出来ないかと 調査に着手します。「いいですね、それ。主婦や小さい子供を持つ母親はどうしても 映画館に行きにくいですからね。近所まで来てくれれば。で、どうなったんですか?」と 先を促す女性客からの声。李氏は残念そうに「そのトレーラーを輸入しても、 日本とは規格が違い、高さや重量の問題で高速道路などが走れないんですよ」。

 明日の試写作品「やわらかい生活」の脚本家・荒井晴彦氏とは、昨年初めてお話することが 出来ました。氏はゲスト招待されない年でも自費で参加して下さっており、柄本家と同様に こちらはお嬢さんが実行委員として活躍なさっています。「やわらかい生活」は実は題名が 二転三転したり、ちょっとしたトラブルがあったのですが、それはまた27日分のレポートの 中で。荒井氏がここ湯布院を拠点として初監督作品「身も心も」(「キネマ旬報」 ベスト・テン7位)を撮ったのは、もう8〜9年前。「2本目の監督作のご予定は、 まだないんでしょうか?」とお尋ねしてみると、「う〜ん、やりたいんですけどね〜」。 今年のゲストで来られているプロデューサーの誰かと組んで、近い内2作目の製作が スタートすれば良いのですが。監督として舞台挨拶に立ち、シンポに臨む氏の姿を見 たいのです。李相日監督ともお話したかったのですが、常に何人かに囲まれており、 そうこうしている内、この所ハードスケジュールだったのか疲労のため宴半ばで宿へ 引き上げられ、結局機会を逃がしてしまいました。どうしても話したいゲストには、 早めに張り付いてないとダメみたいですね。
 本日のゲストや、滞在ゲストで明日帰られる方々から挨拶を頂戴します。 「来て良かった! なかなか率直な意見を聞く機会がありませんから」と新藤風監督。 椎井プロデューサーは夕べ、本映画祭の顔であり創立時からのメンバーである2人に 会って思った事を口に、「30年前、お2人は40代と20代でした。それから30年頑張って こられ...。私もあと数年で業界歴30年になりますが、もう少し頑張ってみようと思います」。 久保田プロデューサーは「『スクラップヘブン』は熱烈コールを貰ったものの、『湯布院』 向きではないと思い、躊躇しました。でも、色んな感想を聴け、辞退しなくて良かったです」。 森崎東監督は今夜もお元気ないい声、「湯布院映画祭よ、永遠なれ!」。それを受けて 実行委員長が「森崎監督も永遠なれ! また映画作って下さい!」とエールを返します。
 ゲストの皆さんの挨拶は、映画に匹敵するぐらいの見もの。閉会となり、星空の下、 昨夜と同じ田舎道を宿へと歩けば、周囲にいくらでもある暗がりのスクリーンに色んな 挨拶が甦ってきます。明日はどんな映画に...どんな挨拶に出会えるのでしょうか。

湯布院映画祭レポート05(10)

 滞在3日目、土曜日は朝から快晴です。 今日は昼前に東京から友人が、16年ぶりに本映画祭参加のため到着予定。 実は昨年もそうなる筈だったのですが、接近する台風の影響で泣く泣く断念。 今年は雪辱戦になります。彼は2日間のみの参加であり、当然全日券ではありません。 映画祭の券は『チケットぴあ』等で取り扱われていますから、 東京で必要な本数分の前売券(1,400円)を購入。パーティー券は当日朝の発売なので (今年は9:30より)、本日分は私が販売開始を待って入手しておく手筈に なっています。土曜夜と日曜夜のパーティーは参加者が多く、年によっては (招待ゲストが超人気者だったりすると)早くに売り切れる恐れもありますから。 予定通り、公民館の受付でパーティー券(4,000円)を購入した後、 もう一つの列に並びます。試写作品の整理券を貰うためです。 この整理券配布制度は昨年からスタート。まだ試行錯誤の段階のようですが、 人気ゲストが舞台挨拶に立つ試写作品などは列に長時間並ぶ人が多かったため、 改善案として導入されたみたいです。概要は[@当日朝9:40より各作品ごとに 100枚限定で配布 A前売券と交換の上、各作品1人当り2枚まで配布 B配布は各作品とも、上映開始の1時間前まで]。ポイントは、前売券を既に 入手していなければならないという事(販売は確か開幕前日で終了)。 1人で2人分まで引き換えられますが、その際は連れの分の前売券を持って いなければなりません。という事で、前もって友人から郵送されていた前売券を受付に出し、 無事今夜の試写作品の整理券を入手。これで、友人を迎える準備が整いました。 ちなみに、試写作品上映時の入場順は[@全日券所有者(販売数は100枚限定) A整理券の番号順(1〜100)B整理券未入手の前売券の列 C当日券の列]。尚、 超満員で入場できない恐れのある時は当日券(1,700円)が販売されない場合もあります。 入場可能人数ですが、座席数は確か260。内30席程度はゲスト用に割り当てられているので、 差し引き230席。満席になれば通路や両脇のスペースに折り畳みイスが並べられたり、 よほど客が多ければ折り畳みイスは出さずに新聞紙など敷いて通路に座ってもらう等の 遣り繰りが行なわれますから、入場できるのはMAXで300名ぐらいでしょうか。 今映画祭では折り畳みイスが出された作品もありましたが、入場をお断りするほど お客が詰め掛けた超人気作はなかったようです。整理券制度や入場時の誘導は、 昨年混乱した反省を踏まえ、なかなかスムーズに運営できたのでは。

 さて、本日の昼間の上映は「ひばり・チエミの弥次喜多道中」(1962年)・ 「カモとねぎ」(1968年)・「プーサン」(1953年)の3本。こういう旧作の 上映は通常、新作の試写作品ほどには客席が埋まらず、入場時の混雑もないため 優先度は関係なく一斉入場となります。1本目の上映が終りロビーに出ると、 予定通り到着した友人の姿が。以後はずっと日曜日のクロージング作品まで並んで 鑑賞したのでした。「プーサン」終了後、次のプログラムまで40分ほど空き時間が あったので、友人を宿へ案内。同じ宿の2つ隣りの離れです。チェックインを済ませ、 荷物を置いたなら、すぐ会場へUターン━━。

■27日(土)■≪日本映画職人講座【スクリプター】・・・15:30より≫
 この講座も回を重ね、今年で10回目。【編集・録音】から始まり、 【照明】【メイク】【映画音楽】【助監督】...等と続き、今回は スクリプター歴50年、”この人あり”と業界内では余りにも有名な白鳥あかねさんを お迎えして、映画ファンであってもほとんどの人が具体的な内容までは知らない スクリプターの仕事を解説して頂きます。いつもはシンポと同じ2階会議室にて 開催されますが、映像を流しながら説明を行なったりするので、 映画を上映する大ホールを特別に使用。入口で参考資料等の用紙が数枚と ペンが配られます。馴染みのない職種の講座なので、白鳥さんは参加者も 僅かしか集まらないのではと予想されていたようですが、用意していた資料が 足りなくなり実行委員が慌ててコピーに走るほどの盛況ぶり。受講生は百名近くに 上ったでしょうか(シンポや本講座は、全日券所有者以外は毎回300円の参加料が必要)。 白鳥さんは特に女性に大人気で、パーティー会場等でもいつも多くの人に 囲まれていらっしゃいました。さて、舞台上には2つの簡易スクリーンが用意されています。 1つは説明用に映画の1シーンを映写するためのもので、もう1つは、舞台上で 着席された白鳥さんが机上でスクリプト用紙に記入していく様をハンディカメラで 撮り拡大映写するためのもの。白鳥さんは根岸吉太郎監督とずっと組んでこられ、 昨年も「透光の樹」が試写上映された際ゲストで参加されています。スクリプターとは” 進行記録係り”とでも言ったら良いでしょうか。常に監督のそばにいて演出プランや セリフの直しを各パートに伝える等の補佐をしたり、前のカットからのつながりに 問題がないかチェック(衣装や小道具は勿論、役者の動き等も)したり、今のテイクは 何回目がOKで各々何秒分フィルムを回したか等をスクリプト用紙に記入し、 編集マンがフィルムをつなぐための基となる記録を取ったりします。表には出ず、 一番地味なパートかもしれませんが、大変重要なお仕事。細やかな気遣いが必要なため、 現在のところ女性のみが担当しているのだそう。

 講座は資料を使って授業風に進められる時もあり、いつもと感じが違いなかなか 新鮮です。資料には現場で使用しているスクリプト用紙や「透光の樹」の 台本から1シーンをコピーしたものも含まれており、同作の当該シーンの映像を 流した後、白鳥さんの説明を聞きながら実際に記入してみます。スクリプト用紙の項目や 記入内容は━━[●前シーンからのつなぎ方,後シーンへのつなぎ方の指定... ワイプインorフェードインorオーパーラップor普通のカットつなぎ ●セットorロケor オープンセットの区別 ●設定時間帯について・・・朝・昼・夕・夜 ●トーキーor サイレントの区別 ●撮影結果...シーンNo.−カットNo.−テイクNo./フィート数 (何分何秒)/O.K.orN.G.の区別/N.G.の理由 ●そのカットの描写内容... 場所,登場人物と動き ●カメラの動き...例).ロングから入り、クレーンでパン してバストショットへ ●セリフ...最低限、そのカットの中での最初と最後の セリフ]等。練習で1枚記入してみると、かなり大変な作業である事がより 実感されました。記録は”正確に、シンプルに(分り易く)、 登場人物が何をしたか”を記述するのが肝要とか。尺数(タイム)の計算も仕事の内。 ただし単純にOKカットの秒数を加算すれば良いのではなくて、 編集した後の長さを予測して割り出さなければなりません。2年前のクロージングで 上映された「油断大敵」を担当した時のこと。成島出監督はデビュー作であったのに、 完成作と比べてみたら白鳥さんの予測とたった1分しか食い違ってなかったので、監督と しての資質の高さにびっくりされたのだそう。白鳥さんだって、さすがです。
 映画の現場に50年もいると、活躍の場はスクリプターだけにとどまりません。 役者としても数多くの映画に出演しておられるのです。白鳥さんのようなキャラクターの 女優がなかなかいないため、よく監督から要請されるのだとか。「ただし、セリフが ないと出演しませんから(笑)」。また、何と何と映画化シナリオを何本か執筆された事も。 成人映画が数本と、最近では2002年の公開作「折り梅」が白鳥さんの筆に よるものだったのです。1981年に退社しフリーになられるまで白鳥さんが 所属しておられたのは、日活。同社が斜陽化しロマンポルノ路線になった時、 多くの監督やスタッフが辞めていきました。テレビ界に転身した人も多数...。 白鳥さんはどうしてもテレビはやりたくありませんでした。「映画が好きなもので。 積み重ねて作っていく所に面白さややりがいがあるんですね」。 ポルノでも映画には違いないとやり始めてみたら、製作現場に溢れる自由さに嬉しい 驚きを感じるようになります。それまであった様々の制約がなくなり、 10分に1度ポルノシーンを入れさえすれば、後は何でも好きなものを撮れるようになったのです。 そういう現場から、現在の日本映画界を支えているような監督が何人も出現してくるのでした。 「(小林)旭・(石原)裕次郎の時代からロマンポルノまで関われて良かったです」。 前半の講義も興味深く聴けていい勉強になりましたが、もっとたくさん50年の映画人生を 語って頂きたかった気も...。ついつい欲張りになってしまいます。 「こんな面倒臭い講義に、こんなに多くの人が参加して下さって、 ありがとうございました」。嬉しそうな白鳥さんのお顔を見て、 こちらも嬉しくなりながら大きな拍手を送らせてもらいました。 ご自分がどれだけ人気があるのか一番分っていなかったのは、 きっと白鳥さんご本人だったでしょう。

湯布院映画祭レポート05(11)

■27日(土)■ ≪特別試写「やわらかい生活」・・・18:15より≫
 2年前の本映画祭で上映された「ヴァイブレータ」は、年末に東京で 公開されるや高い評価を受け、”「キネマ旬報」ベストテン”でも主演女優賞 <寺島しのぶ>・助演男優賞<大森南朋>・脚本賞<荒井晴彦>に輝き、作品自体も 1位に僅差の3位にランクインしたものでした。同作のゴールデントリオ” 監督=廣木隆一,脚本=荒井晴彦,主演=寺島しのぶ”が再結集して完成させたのが、 この「やわらかい生活」。「ヴァイブレータ」上映時には御三方ともゲストでいらして 下さいましたが、寺島さんは現在テレビの連続ドラマに主演されているので、本映画祭への トリオでの再結集は叶いませんでした。【職人講座】終了後の休憩時間に外出し食事から 戻ってくると、玄関先に廣木監督のお姿が。監督にお会いするのは半年ぶりになります。 実は私は、常連の友人に連れられ今年2月の『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』に 初参加したのですが、廣木監督と寺島さんはコンペの審査員を務められていたのです。 当時すでに本作が撮影済みなのを知っていたので、お2人にお話できた際には 「30回記念の今夏の『湯布院』に是非この作品を持って来て下さい!」としっかりラブコールを。 その廣木監督に声をお掛けして『ゆうばり映画祭』での一件を口にし、願い通りおいで 下さったお礼を申し上げたのでした。
 満員の客席を前にした舞台挨拶に登場したのは、廣木監督と荒井晴彦氏、 そして今回の俳優ゲストの田口トモロヲさんに森重プロデューサー。昨年も 「ラマン」を引っ提げて参加された監督はリラックスした半ズボン姿、 「3年連続になりますが、緊張してます。30回、おめでとう! 楽しんで下さい」。 荒井氏は照れ隠しなのかサングラスを着用、「今日はプロの映画をお見せします。 期待して下さい」。客席が沸いたのは、荒井氏の言葉に”昨日と一昨日に上映された 若手監督の試写作品とはひと味違うぞ”というニュアンスを感じ取ったから。 トモロヲさんは「プロジェクトX」のナレーションで知名度・好感度ともかなり アップしましたが、本来は笑いを取って場をさらっていく事にたまらなく 快感を覚える(?)名バイ・プレイヤー。「ど〜も〜、こんにちは。 初めての湯布院に普段着で来ちゃいました。14本目の廣木監督作品への 出演になります。今夜は十分に楽しんで下さい」━━いい感じです。 シンポでの受け答えも楽しみ。最後はプロデューサーから「3年連続で舞台に 上がれて嬉しいです。立ち見の人がいる事も。『ヴァイブレータ』トリオの 新作になります。違う形で観てもらえたらと思います」。

 前夜のパーティーの項でも話題にしかけましたが、本作の題名は 「イッツ・オンリー・トーク」(原作本と同題)→「雨のち晴れ、ときどき ユーウツ」→「やわらかい生活」という変遷を辿ったようです。 ところで会場ロビーには、主にその日のゲストや上映作品の監督・出演者等に 関係した過去の色んな映画のポスターが貼り出され、映画好きの目を楽しませて くれています。勿論、試写作品のポスターが出来上がっておれば目立つ一等地を 割り当てられるのですが、最近は公開が翌年回しの作品が多く、今回も正式ポスターが 掲示されていたのは確か「スクラップ・ヘブン」だけでした。「やわらかい生活」は、 特報的に作ったものなのか「イッツ・オンリー・トーク」の題名で寺島さんが写ったポスターが 貼られています。
 原作ものを映画化する場合、問題となるのが原作者との関係。”小説と映画は別物”と 一切口出ししない作家もいれば、納得いくまで脚本を書き直させる難敵も。詳しい事は 知りませんが、本作も少なからず揉めたようなのです。クランクイン直前にも原作者( ここでは名前は伏せておきましょう)からクレームが入り・・・。荒井氏は” 「キネマ旬報」脚本賞”を3回も受賞された方なのですから、信頼して任せて おけばいいと思うのですが。まあ、苦労して産み出した我が子のような自作が せっかく映画化されるのだから、自分が納得する形で製作してほしいという 原作者側の気持ちも分らなくはありませんけど。そんなこんなで完成した本作の内容は ━━【橘優子、35歳。蒲田で1人暮らしを送る彼女は、躁鬱病で入退院を繰り返している。 しかし彼女にはことさら深刻ぶった所はなく、大らかささえ感じられる時も。 彼女の生活には、過度に女を匂わせない所に居心地の良さを感じるのか色んな男たちが 寄り添ってきます。痴漢のK、学生時代からの友人で選挙活動をしている本間(松岡俊介)、 躁鬱病のヤクザ・安田、等々。ある日、九州から従兄の洋一(豊川悦司)が部屋に 転がり込んできます...】。登場してしばらくは誰が演じているのか分らなかったヤクザ役は、 妻夫木聡。かなり印象に残りました。トモロヲさん演じるKはおとなし目の優しい痴漢で、 ご本人はもっと痴漢らしい痴漢(?)も演じたかったのでは。
 映画は、観終ってあまり人に感想を言いたくないような作品でした。 静かに噛みしめていたいという意味で。「ヴァイブレータ・2」だと言う人が いるかもしれません。確かに主人公の女性が精神面で病んでいる設定なども似ています。 とにかく「ヴァイブレータ」と比較されるのは、仕方のないところ。衝撃度はどうしても 前作より落ちてしまいます。「ヴァイブレータ」の寺島しのぶは本当に鮮烈でしたから。 映画初主演の「赤目四十八瀧心中未遂」に続き、ヌードをさらけ出した体当りの演技で、 観客の心を鷲掴み。今作でもさすがの好演ですが、もう彼女ならこれぐらい出来て当然と 思われてしまうので、あと何年かは「ヴァイブレータ」での自分の演技との戦いが 繰り返されるでしょう。それでも、今作の彼女の方を買う人も必ずいますし、作品的にも 「ヴァイブレータ」より評価する人も少なくないのでは。役者とスタッフとの 信頼関係の強さが窺える大人の作品でした。

湯布院映画祭レポート05(12)

 ■27日(土)■ ≪シンポジウム(「やわらかい生活」)≫
 新たにプロデューサーの永田氏を加えた5人が、前のゲスト席に着かれます。 永田氏ももうすっかり『湯布院』の顔なじみ。挨拶は森重氏より「色々ありましたが、 いきさつはどうでもいい。出来上がったもので判断してほしいです」。問題の荒井氏は 「原作と脚本はかなり違います。小説は、主人公の彼女と変な4人の男との付き合いを 描いたもの。気持ちが入っていけるようなドラマがないと観客がついてこないので 改変したら━━、原作者が激怒(笑)」。次の廣木監督の発言中にハプニングが 発生します、「芯となるものが脚本に入っていたので、よりかかっていけば 撮れるだろうと・・・」、ここで隣りの荒井氏の携帯電話が鳴り出したのです。 苦笑いでマナーモードに切り替える荒井氏。話の腰を折られた監督は、 「上映中やシンポの席では携帯は切ってもらわないと(笑)」。 トモロヲさんにマイクが、「痴漢相手の女性にいやな事はしませんという姿勢で臨んだ役でした」。 監督がそれに続けて「初日の撮影が、ビルの屋上でトモロヲさんが寺島さんに痴漢するシーン。 ここで全体のトーンを決めたんですよね」。「痴漢シーン、いかがでしたでしょうか?」と ぎこちない笑顔のトモロヲさん。拍手が返ってきたものの、「『湯布院』のシンポは 恐いというので有名ですが、厳しい意見よりも、まず客席が近すぎます!  この状況だけでひびってしまいそう(笑)」。森重氏が原作者とのトラブルの 一件に触れられます、「最近では原作通りのタイトルにするのが普通ですが、 原作者はこの脚本が好みでないので、今週の月曜日に映画のメインタイトルのみ 差し替えて、持ってきました。一時は”原作あげない”とかの話も出たんですけどね、 もうクランクインしてますからとか騙して」。荒井氏が自虐的に 「『イッツ・オンリー・トーク・トゥ・ハー』にするか(笑)、なんて」。 一転して真面目な事も、「妄想や回想、それから時制の入れ替えなどは好きではない。 順番にしっかりと見せていくものを作りたい」。

 観客からの感想・質問コーナーに移ります。昨年の「ラマン」はどちらかと言えば 不評でしたが、2時開超というこの種の映画にしてはかなり長い本作はなかなかの好評。 「ヴァイブレータ」でも大森南朋さんの演技の優しさに涙が出そうになったとの女性客からの 声が続出しましたが、今回もトヨエツが優子の髪を洗ってやるシーンに同様の意見が。 ラブシーンは「ヴァイブレータ」ほど濃厚なものではありません。 「キスシーンまでぐらいがちょうどいいんです。女性は十分これでエロティックに 思えますから」と賛同の意見。キスで鬼灯(ほおずき)が口から口へ移っていく 描写があります。想像させるエロティック...。当初、初夏に撮影予定だったのですが、 実際にカメラを回したのは冬。鬼灯の季節ではありません。『湯布院のホテルに ドライフラワーになったのが飾られてたのを思い出し、送ってもらって使ったんですよね」、 当地に関係した裏話も披露されました。劇中で流す音楽のセンスには定評のある廣木監督。 本作のカラオケシーンでは豊川悦司に意外な曲を唄わせています━━尾崎豊。 「あれは監督の好みなんでしょうか?」と質問が。「僕はどちらかと言えば 、ブルーハーツ派ですから(笑)」。これは勿論「リンダ リンダ リンダ」 にからめたジョーク。僕の選曲です、と荒井氏が回答、「最後まで死を連想させたかったんで。 ラストも若くして死んだジャニス・ジョプリンにしたかったんだけど、全部言う事を きく監督ではありません(笑)」。「あの唄に号泣してしまいました」と先ほどの 女性の質問者。「いいシーンでしたよね」、これは荒井氏(爆笑)。
 ここで、トラブル秘話のパート2を。本作は最初から”ゴールデントリオ”の 2作目として企画された訳ではないのです。「ヴァイブレータ」を観た女優のK.K.が 廣木監督と仕事したがっているとの話をスタッフの女性の1人が持ち帰った所から動き 出したもの。間の紆余曲折は端折りますが、ようやく荒井氏の脚本が脱稿。原作を そのままシナリオに移し替えたのが「ヴァイブレータ」(本人談)でしたが、 本稿は悩んで苦労を重ねた末の力作です。が━━、「このシナリオでは、 私は出来ません」とK.K.。スターを採るか、シナリオを採るか。もうスタッフが 準備に入っている中、森重プロデューサーも廣木監督もシナリオを優先したのでした。 そこから始まる難航する女優探しは、前作と同じパターン。”「ヴァイブレータ」で いっぱい賞もらったプロデューサーと監督とライターなのに、全然信用されてないんだ。 何なんだ、賞って。何のためにあるんだ、何の役にも立たないじゃないか” と荒井氏が日本の映画界に改めて絶望しかけた時、シナリオを読んだある女優から 『めちゃめちゃいいです!』と携帯メールが入ってきます。最後の頼みの綱に救われた 結末もまた、前作と同じパターンなのでした。

 今まで適当な機会がなく過去の『映画祭レポート』にも登場してもらった事はありませんが、 本映画祭には映画評論家の渡辺武信氏が第2回からずっと参加しておられます。 実行委員にまだ映画祭を運営していくノウハウや経験が少なかった頃には、 かなりサポートもなさっていたよう。シンポでもたいてい一度は発言されています。 今回も「上映時間が長いけど許せる。ヒロインが相手にしがみつかない所が、 過去の荒井脚本と違っているような・・・。枯れてきた?(笑)」。 苦笑しながら荒井氏は「人に期待しないで生きていこうというスタンスになって きたのかもしれないですね」。「それを枯れたというんじゃないの(笑)」。 「仕事の時には戦闘的になってますので、ご心配なく」、荒井氏が懸念を打ち 消します。幸いというかほとんど名指しの質問のなかったトモロヲさんは「やっと口が まわるようになりました。僕をあまり目立たせないで(笑)。『アイデン&ティティ』 (初監督作)を持って来なくて良かった」。
 話はまだまだ続きそうですが、時間です。順番にひと言ずつ。 永田氏から「来年春の公開予定です。明日の『ルート225』もプロデュースしていますので、 珠玉の名作でまたお会いしましょう(笑)」。森重氏は「『ヴァイブレータ』は 主演の2人がとても良く見えた。今回も役者の今までと違う面の良さを引き出せたのでは」。 中高年に理解してもらえるか心配していた荒井氏は、その層からも好反響だったので、 「おじさんでも大丈夫な映画になってると安心しました」。トモロヲさんはようやく リラックスした表情で「いつ質問が来るかとドキドキしていましたが、厳しい意見も なく無事済みました。今度来る時は喋りを頑張りたいです」。廣木監督からの言葉は 参加者全員を喜ばせます━━「どうせなら、来年も来られるようにしようかな」。

湯布院映画祭レポート05(13)

■27日(土)■ ≪パーティー ・・・22:00より≫
 この夜の会場は、歩いて数分の[ゆふいん麦酒館]。入口で地ビールの引換券が 1枚ずつ渡されます。友人も私もほとんど呑めないのですが、気分的に当館での パーティーが最も”お得感”に溢れています。引換コーナーでジョッキに注いでもらい、 適当なテーブルへ。土・日のパーティーは参加者も多く、また今年は特に”30回のお祝いムード”が 満ちているようで、例年以上に賑やかさを感じます。今夜は完全に屋内であり、声が こもって隣りの人の話も聞き取りにくいほど。
 乾杯の発声は、初日からいて下さっている白鳥さんにお願いします。 「この映画祭は、町の皆さん・実行委員の皆さん・観客の皆さんが支えているのが 素晴らしい。シンポジウムでは、プロの映画人からは出てこないような新鮮な意見も聞けたし、 次々発言が飛び交うのを見て、嬉しくてたまらなくなりました。30回、おめでとうございます。 かんぱ〜い!」。周りの人ともジョッキを合わせ、ビールをひと口呑んだなら、 バイキング方式で並べられている料理の元へ向かいます。今夜は友人が一緒なので、 1人がテーブルに残り、交代で料理を皿に盛ってきます。2人だと、 やはり何かと便利ですね。私以上に映画に打ち込んでいる友人は、ゲストと話す気が満々。 ひと通り食し終えると、まずは評論家の渡辺武信氏の元へ。氏は日活アクション映画の 評論が特に有名で、著書も日活アクションファン必携のものとなっています。私も、 氏と友人の話をそばで聴いていたかったのですが、どこも込み合っているし、 向かい合った者同士でないと声をキャッチしにくいので、一緒に聴く事はあきらめました。
 歓談タイムがある程度進んだ頃、ゲストの皆さんが次々舞台に呼ばれます。 まずは「やわらかい生活」組からのご挨拶。廣木監督はたとえサングラスをかけている 時でもその下にはつぶらな目が隠れていることが知れ渡っているので、いつも女性に大人気。 「3年連続の参加になりますが、来るたびだんだん待遇が冷たくなります(笑)。 こうなったら、4年連続で来てやろうかと思います」。荒井氏は「『ベネチア(映画祭)』 より『カンヌ』より『ベルリン』より、『湯布院』が好きです!」━━場内が沸いたのは 勿論です。「去年『ラマン』で来なくて良かった」と胸を撫で下ろす仕草をしたのは トモロヲさん。2番目は、明日10時から試写上映される「ヨコハマメリー」組。 プロデューサーと監督はどちらも口を揃えて「皆さん、今夜は飲みすぎず、 明日10時に遅れぬよう来て下さい!」。明日2本目の試写「ルート225」の 関係者の皆さんは初参加で、初々しくひと言ずつ普通の挨拶を。そんな中、 永田プロデューサーはパーティーでの挨拶も慣れたもので、先ほどのシンポに 出ていたのに「皆さん、お久しぶりです」と、白けるかもしれぬことも恐れず、 明るく作品を売り込みます。クロージングの「寝ずの番」は、俳優・津川雅彦氏の 監督デビュー作。俳優ゲストの富司純子さんは明日のご到着ですが、監督と娘で 出演もされている真由子さんは正装でこのパーティーに参加されています。お2人が舞台に。 「65年生きてきて、初の監督作品です。張り切って撮りましたので、こぞってご覧下さい!」。 続いて、「娘の真由子です。頑張って父が撮った作品で、私も頑張って演じました。どうぞ、 観て下さい」。

 立食形式ですが、壁際にはイスも用意されており、腰かけた白鳥さんは常に何人もの 一般客に囲まれています。友人は白鳥さんとも是非お話したいと言っていたのですが、 なかなか包囲網が解けません。柄本佑くんはすっかり実行委員化しており、彼だと知って いなければ気づかないほど。いつの間に来られたのか、父親の柄本明氏のお姿も。県内の どこかで行なわれた今夜の公演が終ってから、戻ってこられたようです。私はトモロヲさんと 少しお話を、「初監督作の『アイデン&ティティ』、すごく良かったです。ぜひ2作目も 早く撮って下さい!」。同作は2003年度の個人ベストテンに入れたほど好きな作品なので、 このひと言を是非ともお伝えしたかったのです。「やわらかい生活」での演技についても 触れなければ失礼でしょうが、あまりゆっくりお話できる状況ではなかったので、これだけを。 それから、柄本佑くんにも話したい事が。彼が主演した「17歳の風景」(若松孝二監督)と いう作品が現在東京で公開されていますが、本作は2000年に岡山県で起こった事件を描いて いるのです。友人は当然鑑賞済み。白鳥さんとも無事お話できて満足そうな友人と次なる 目標を探していたら、こちら方向へ歩いてくる柄本くんを発見。早速友人が近寄って、 何か短く話し掛けた後、サインを貰います。入れ替わりに私も、彼の元へ。 「『17歳の風景』の舞台になった岡山県から来ました。映画も9月に公開されますので、 必ず観に行きますから。どんどん映画に出て下さいね」。柄本くんはまだ十代ですし、 実行委員という立場でもあり、ほんとに謙虚な受け答えでした。
 いよいよ明日は最終日。昨年は接近する台風に気を揉んでいましたが、 今年は何の不安もありません。30回記念の映画祭は、どんな形で締めくくられるのでしょうか。

湯布院映画祭レポート05(14)

 強い降りではないものの、雨音に起された最終日の朝でした。 まず、露天の朝風呂へ。それから8時より食堂で朝食を済ませ、出かけるのは9時前後。 ちょうど雨も上がってくれ、持参した折り畳み傘は滞在中一度も開く必要がありませんでした。 今朝も、友人の分のパーティー券と試写作品の整理券の確保から。少し早めに会場入りし、 問題なく入手できました。

■28日(日)■ ≪特別試写「ヨコハマメリー」・・・10:00より≫
 特別試写には珍しくドキュメンタリー作品です。客席は6〜7割の入り。 舞台挨拶は、中村高寛監督と白尾プロデューサー。監督は今年30歳ですが見た目は もっと若く、この年代でドキュメンタリーを手がけられているのはかなり意外です、 「夕べのパーティーでもお願いしましたが、10時から集まってくれて有難うございます。 地味だけど、映画的な面白さでは他の作品に負けていないと思います」。白尾氏は 「この作品は、監督の外見から受けるイメージをかなり裏切った面白さになっている かもしれません」。
【白塗りの化粧と真っ白なドレスに身を包み、横浜の街に立ち続けた 老娼婦”ハマのメリー”。その一種独得な姿は横浜の人間なら見かけた事のない者はいないと 言われる程だが、彼女自身について知る人はほとんどいない。メリーさんは90年代半ばに 突如として姿を消す・・・。人々の証言を通じて語られる”ハマのメリー”という存在。 そこから横浜という街、そして戦後の日本社会が見えてくる。監督始めスタッフの多くが 20代という若き映画人たちが、5年の歳月をかけて撮り上げた渾身のヒューマン ドキュメンタリー】(紹介文より)。友人は、2年に1度開催される『山形国際ド キュメンタリー映画祭』へも何度も参加していますし、フィルムセンター等での 昔の作品の上映にも精力的に通う筋金入りの映画ファン。それだけに、ダメな作品を けなす言葉も辛らつです。試写作品上映後のシンポは料金が要ることもあり、友人は 「気に入らなかったら、参加しませんので」と上映前に宣言。━━上映が終了し、 スクリーンに拍手を送った後、立ち上がりながら隣席の友人を見ると、 いつもと少し顔つきが違います。ダメだったのかと思いきや、「いや〜、大満足。 シンポ、出ますから」。さっきのは興奮覚めやらぬ時の表情だったのかと納得。

■28日(日)■ ≪シンポジウム(「ヨコハマメリー」)≫
 シンポではのっけから女性の積極的な発言が続きます。「泣きっぱなしでした」 「感激した」という絶賛の声しきり。確かに、男性よりも女性客を惹きつける作品でしょう。 そして、大変な労作。撮影し素材として使えそうなフィルムは150時間分ぐらいあったのだそう。 湯布院では毎年5月にもう一つ映画祭が開催されています━━今年で8回目を迎えた 『ゆふいん文化・記録映画祭』(今年は5月27日〜29日)。本作は当初そちらで上映される 予定でしたが、実行委員の間で非常に評価が高く、「夏に持っていってもいいんじゃない」 との声が上るようになり、本映画祭のラインアップに加えられる事に。この映画に潜む ミラクルパワーの一端を示すエピソードを紹介しておきましょう。本作は現在の パージョンになる前、まだ納得する編集に仕上っていなかった時に1日だけ横浜で 上映された事があります。とある写真家の個展とのジョイント企画で、ラッシュでもいいから フィルムを流してくれないかと打診され、急いで映画の形にまとめたのですが、 ろくに宣伝もしなかったのに700人超の観客を集めたのだとか。
 監督は神奈川県のご出身。この業界にはまずテレビドラマの助監督として入ります。 その内ドキュメンタリーに興味を持つようになりますが、ここで助監督を続けていたら 一生ドキュメンタリーはやれないだろうと判断。辞めて、何と中国へ留学するのです。 「勉強というよりも、価値観を見直すためのものでした」。短髪で少年っぽくまだ学生の
ようにさえ見えます。それがこういう作品を撮るのですから、 ギャップの余りの大きさにびっくり。監督は横浜の街角で、実際にメリーさんを 見かけたことも。一般の客席に座られていた白鳥さんも発言されます、 「素晴らしい作品の誕生、おめでとう! ラストで滂沱の涙でした。 いつしかメリーさんと自分とを重ねて観ていました」。実は白鳥さんは 北京電影学院を訪問した際、中国留学中の監督と出会っていたという奇縁。 彼女は東北のある映画祭(1992年〜)に確か、主要なスタッフの1人として 関わっておられます、「来年2月の『あきた十文字映画祭』に招待します。 ぜひ来て下さい」。

 ところで━━、そろそろここらで白状しておきましょう。 私はこの作品にそれ程、がつんとやられなかったのです。 本作に限らず過去にも、高評価を受けたドキュメンタリー作品でも世評通り惹き つけられたことは稀。どうも、このジャンルの作品とは生理的なリズムが 合いにくく、今回も観る前から苦手意識があったのかもしれません。 ただ、つまらなかったかと言うと全然そんな事はなく、目を見張らされる 映像に幾つも出会いましたし、賞賛する意見の多くにもほぼ納得。あくまでも、 私の好みにフィットしなかっただけのことですから。
 ラストではドキュメンタリーの枠をはみ出す反則ぎりぎりの”演出”も。 劇映画以上に劇的なその描写は、『湯布院』では感嘆の拍手で受け入れられました。 監督は、「劇映画を撮るような感覚・考え方でこれを作りました。両ジャンルを特に 分けてはいません。その題材に合わせたスタイルで撮りたいと考えています」。 参加者からの感想には「日常生活の中では自分の趣味で選んだ映画しか観ません。 こういう映画祭が良いのは、普段観ないような映画にも出会えるところ。 この作品を鑑賞でき、今年参加して本当に良かったです」というものも。また、 何度かメリーさんを目撃した事のある人や、映画のもう1人の主役と言ってもいい 長年彼女を支えてきたシャンソン歌手の永登元次郎さん(昨年お亡くなりに)と 親交があり、本作を観るため遠方から駆けつけた人が何人もおられ、シンポの終盤は その人たちが映画の感想・メリーさんや故人の思い出話・フィルムに彼らの姿を 収めてくれた事へのお礼などを語り終えるたび場内から拍手が湧くというパターンが 続出。それらの発言者に頭を下げ特に大きく手を叩いておられたのは、もちろんゲスト 席のお2人です。公開についてはかなり具体化しており、来年1〜2月頃『テアトル新宿』と いう名の通ったキャパも大きいミニシアターでの上映を予定。「まあ、監督が逮捕されない限り、 予定通り公開されるでしょう(笑)」━━これは、2〜3日前に「空中庭園」の 監督が覚せい剤で逮捕されたニュースにからめたジョーク。この館で上映されるということは、 配給会社や劇場関係者からも興行的に期待されている証拠に思えます。一昨年ぐらいから ドキュメンタリーの話題作が次々公開され、かなりのヒット作も誕生していますから、 そういう状況も追い風になっているのでしょう。ヒットしてほしい作品です。
 シンポの、というか本映画祭の参加者は中高年が多く、発言する層も同様。 プロデューサーはしきりと若い人からの感想を聞きたがっていましたが、残念ながら 叶わずじまい。また監督は「いい意見ばかりで、逆に不安。悪い意見も聞きたい」とも。 司会がこんな風に締めくくります、「この場では発言しにくくても、夜のパーティー会場 でなら直接お話できますから、若い方ぜひ感想を伝えてあげて下さい」。客観的に見て、 今映画祭で一番の衝撃作と言っていいでしょう。来年公開されたなら、劇映画と同じ土俵で 張り合い、年末の各映画賞では驚くほどの評価を受けるかもしれません。ゲストと参加者とが、 お互いに拍手を送り合った一体感に包まれたシンポでした。

湯布院映画祭レポート05(15)

■28日(日)■ ≪特別試写「ルート225」・・・13:30より≫
 客席は7〜8割埋まっています。舞台挨拶は中村義洋監督以下、総勢5名。 にこにこと適度に陽気な監督は「低予算ですが、順調に完成しました。原作者にも 気に入ってもらい、タイトルも変更してないし、女優も交代してません(笑)」と、 トップパッターとしてつかみはOKの爆笑挨拶を。この映画の主役は中学生の姉弟で、 姉を演じるのは「HINOKIO」で主役を務めた注目の若手女優・多部未華子ちゃん。 彼女は、来年公開予定の「夜のピクニック」(原作は第2回『本屋大賞』受賞作)でも 主役の座を射止め、ちょうど今・・・というか生憎いま撮影に臨んでいる所です。 お馴染み永田プロデューサーが「姉弟役の2人を連れてきたかったんですけど 残念ながら」とお詫びの言葉を。その代わり未華子ちゃんはメッセージを寄せてくれ、 代読で紹介されました━━「ほのぼのとした、ちょっぴり苦いこの映画を楽しんで下さい」。 他には脚本家や撮影を担当された方などがマイクの前に立たれましたが、 こういう場が不慣れなのか昨夜のパーティー同様ごく普通に簡単な挨拶を述べられたのでした。

【とある町、とある家族の平凡な日常が唐突に一変する。至ってクールな14歳の姉エリ子と ヘタレな弟ダイゴがある日”鏡の国”に迷い込んでしまった。元の世界にいる両親につながるのは、 手持ちのテレホンカードでかける公衆電話からの通話だけ。さあ、どうする! どうすればいい? 姉弟が手にする未来はどこにある・・・。『ルート225』の意味するものは?】 (紹介文より)。
 題名の正しい読み方は「ルート225(にひゃくにじゅうご)」です。後のシンポでも、 関係者でありながら「225(にいにいご)」と言い間違えたりしていましたが(喝!)。 映画は”パラレルワールド”を描いたSFファンタジーであり、姉弟の成長の物語でもあります。 結構悲惨な境遇に置かれながらも、姉弟のやりとりがつい笑えてしまうおかしみを放っています。 とにかく、この2人が第一の見もの。1人ずつでも光っていますが、2人が一緒にいるとお互いが 相手をより輝かせるという絶妙の組み合わせに。ダイゴ役の岩田力くんは演じることの恐さを 知らない素人の強みで存在感抜群。そして何といってもボーイッシュな未華子ちゃんの フレッシュな演技は、この映画全体を瑞々しいものにしています。彼女のようなタイプの 若手女優は稀ですから、ますます重用されていくのでは。
 テレホンカードも遂に残り度数ゼロとなり・・・。その先に待っているのは、 観客の予測を裏切る結末━━。ラストをどう受け止めるかで評価の分かれる映画でしょう。 もっとも、原作がこうなっているのでしょうが。SF好きなら何時間でも議論し合えるラスト かもしれません。私はラストをはぐらかされたように感じた口で、姉弟の成長ぶりは十分 楽しみましたが、シンポで発言したくなるほどには本作に引き込まれずじまい。 それでも入場料分はしっかりもてなしてもらいましたし、好ましい作品ではありました。

■28日(日)■ ≪シンポジウム(「ルート225」)≫
 まず監督からひと言、「最近何度も観ていたのですが、さっき皆さんと一緒に観てまた 泣いてしまいました(笑)」。女性プロデューサー:佐藤氏の「忌憚のない意見をお聞か せ下さい」という言葉を受け、色んな感想が出てきます。賛否両論だったのは、 やはりラストの決着のつけ方。佐藤氏は「原作の、14歳から15歳になっていく 思春期の女の子の多感さと姉弟の描き方に魅せられ、映画化したいと思いました。 但しSF的な要素にはあまり惹かれなかったものですから、 ラストは特に映画的な作りにはしていないです」と製作意図を説明。 シンポの全体を通して、原作に惚れこんで完成させた我が子のような映画を全面的に擁護 しようという佐藤プロデューサーの発言が印象的でした。その姿勢は独善的なものではなく、 私には映画の感想と同様、好ましいものに写りました。
 未華子ちゃんも力くんもオーディションで選ばれましたが、 未華子ちゃんは面接に入ってきた瞬間に”決定!”。力くんはインパクトはあるが、 小太りなのに足が長く、たそがれている場面でも見ている方は笑ってしまいそうになるという 痛し痒しのユニークさで即決とはいきませんでした。けれど未華子ちゃんと 並んだ時にどう見えるか試してみると、監督には正に姉弟にしか見えず、 この2人しかいないと思ったのだとか。
 原作のファンで、今日観て映画のファンにもなった人から 「どういう売り方をしていくんでしょう? 商売になるのか心配です」という声が。 「だから、低予算なんです」と永田プロデューサー。別の参加者がそれに反応して、 「低予算というと具体的には大体いくらぐらいなんですか?」とストレートな 質問を投げつけます。「こういう場で明らかにするのはちょっと差し障りがありますが、 まあ低予算にもピンからキリまであるという事だけはお答えしておきましょう」と かわした永田氏は、「どう売っていくかしっかり考えていますので、安心して下さい」。 公開は来年ですが、時期は現段階では未定との事。現在撮影中の未華子ちゃんの新しい 主演作「夜のピクニック」は確か来夏の上映予定ですから、そちらのタイミングも 考慮して両作が相乗効果を上げられるよう初日を設定してほしいものです。 未華子ちゃんは来年、映画ファンの間で今年以上に注目を集めることは間違いないでしょう。

湯布院映画祭レポート05(16)

■28(日)■ ≪特別試写「寝ずの番」・・・18:00より≫
 ぎっしり満員で、補助イスが通路にずらりと並べられます。舞台挨拶は、 富司純子さんの到着が少し遅延したため約10分遅れでの開始。本作は、祖父に 日本映画の父と呼ばれた牧野省三、叔父に「次郎長三国志」シリーズなどで知 られる名匠・マキノ雅弘監督を持ち、いつかその名を継ぐことが宿命であった俳優 ・津川雅彦がマキノ姓を襲名し”マキノ雅彦”として初メガホンを取った、 監督デビュー作です。壇上のマキノ監督は白のドレススーツで正装され、 娘の真由子さんもシックなスーツ姿。最後に富司さんがお着物で登場されます。 ゲストがここまでフォーマルな服装で来られたのを目にするのは初めての事。 場内のテンションも一気にヒートアップ! 挨拶は真由子さんから、 「夏の盛りにおいで頂き、ありがとうございます。父が監督で、私が役者。 すごく緊張しまくりでした。今日はゆっくりご覧になって下さい」。 富司さんは第16回の本映画祭で恩師とも言うべきマキノ雅弘監督を取り 上げた時に参加できなかった口惜しさから始められます、「こんにちは。 マキノ雅弘監督の特集の時には来られず、とても残念でした。この度は、監督” マキノ雅彦”としてマキノの名前を継いだ初監督作品に誘ってもらい、嬉しく 出演いたしました。私が申すのは僭越ですが、”いい役者はいい監督になれる”んですね。 毎日楽しくて、あっという間にクランクアップ。一丸となって素晴らしい映画に 仕上げました。心から笑って、泣いて下さい」。さあ、監督です、 「え〜、今日は映画好きの皆さんが集まった温かい雰囲気を感じます。 お暇な所、お越し頂きまして(笑)。忙しけりゃ、来られないんだから」と 出だしから映画で描いた落語家のような話術で観客の心を掴みます。 「こういう所へ来るのは、いい余暇の過ごし方だと思います。ようこそ、 おいで下さいました。最初で最後の監督作品だと思って撮りました。 この映画は65年間遊んできた自分の人生を登場人物に投影できる僕以外には 撮れないんじゃないでしょうか。4〜5年温めてきた企画です。 ようやく実現してくれるプロデューサーにめぐり逢え、動き出しました。 役者には、尊敬できる人ばかりをキャスティング。勿論、本物の関西弁が 喋れる人たちです。品のないセリフがたくさん出てくるので、品のある役者を 選びました。作りたかったのは、粋な映画━━」、滑らかに なった舌はなかなか止まりません。「『一、スジ(脚本) 二、ヌケ(映像) 三、演技』と 祖父の牧野省三が言っております。『一』は大森寿美男さんが素晴らしいホン を書いて下さり、私は役者あがりのため『二』には演技を重要視して挑みました。 あまりの下品な言葉に引かれてしまうか、乗ってもらえるかが勝負の分かれ目。 一般の皆様にご覧頂くのは初めてになります。業界内のプロには結構評判いいんですが...。 新人監督とその作品の運命がかかっています。皆さんは重要な任務を担っていますよ」。

【とある落語家一門の師匠の死から始まり、何故か連鎖する通夜の日々。花咲く思い出話に 隠語の応酬、春歌の歌合戦・・・。呆れるほどの可笑しさと面白さ。寝ずの番は終らない】 (紹介文より)。まずキャストに触れておきましょう。上方落語界希代の咄家・師匠の 笑満亭橋鶴に長門裕之。監督の実兄は、もしかしてこれを遺作にしてもいいぐらいの覚悟で 臨んだのではと思えるほど笑いのため体を張った名演を見せてくれます。富司さんは、 幾つになっても可愛い女心を残したおかみさんの志津子役。一番弟子の驚異的な不運の 持ち主・橋次は笹野高史。二番弟子の橋弥・岸部一徳は師匠の息子でもあります。 以下、主役の橋太、橋枝(木下ほうか)、橋七(田中章)の面々。木村佳乃がおきゃん で気風(きっぷ)のいい芸人の女房を好演、橋太の妻役です。 女房連中の1人が真由子さん。そして、これらのつわものたちが存分に演技できるよう 扇のかなめとなって伸びた背すじで映画を支えているのは橋太役の中井貴一。 彼の生真面目なひょうきんさが何度も場の笑いを増幅させていきます。
 通夜なのに・・・、いや通夜だからこそ芸人魂を発揮せずにはいられない 落語家一門たち。”こういう通夜に出てみたい!”、不謹慎にも願ってしまいます。 骨の髄まで落語の染み付いた芸人たちを描けるのは、骨の髄まで活動屋魂の染み付いた マキノの血筋の者以外にはいないと思わせるもってこいの題材。初監督作に、 中島らものこの原作を選んだ訳がよく分りました。テレビでは放映できない過激な笑いが 満載! 劇場で必見です。観客の満足度は、6本の試写作品中たぶん一番でしょう。 私も3分の1ぐらいまではお腹を抱えて笑い続け、これは間違いなく傑作だと 確信したのですが、だんだん笑いのマグニチュードが下がってきて...。可笑しい 場面がこれでもかこれでもかと連続するものだから麻痺してしまい、いつの間にか 笑いに対するハードルが高くなってきたのでしょうか。これが、もし自宅でのDVD鑑賞であり、 3分の1ずつ3日に分けて観たなら、毎日お腹を抱えて笑い続けることができ、 大傑作との評価になったかもしれません。後のシンポでの参加者からの発言を聞いて 思い当ったのですが、緩急というか、もう少し登場人物たちがいじけたり、しんみりしたり、 いがみ合ったりするシーンを入れれば、 その後のお笑いがまた新鮮なものになり、より完成度の高い内容に...傑作になった 気がします。けれど、そういう場面を追加したなら、上映時間の関係でお笑いシーンを カットしなければならなくなります。きっと監督は、徹底的に波状攻撃でお笑いを...、 その果てに見えてくる人間の姿を描きたかったのでしょう。初メガホン、それも65歳での 初監督作品なのですから、いいではないですか、自分の好きなように撮ったって。 あれこれ注文をつけた形になりましたが、トータルすれば十分にベストテン級の面白さ。 本映画祭で最も楽しめた作品でした。
 考えてみれば、笑いが多すぎるというのは贅沢な不満。笑わせすぎなのが欠点と 指摘するのは、裏を返せば最高の褒め言葉を送っている事になるのかもしれません。 一般公開時、笑い上戸の人は、途中で苦しくならぬよう観る前にベルトを弛めておいた ほうがいいでしょう。本作から何人も演技賞の有力候補が誕生しそうな気がします。

湯布院映画祭レポート05(17)

■28日(日)■ ≪シンポジウム(「寝ずの番」)≫
 ゲスト席には左から富司さん、マキノ監督、真由子さん、 プロデューサーの鈴木光氏の順。製作のきっかけを監督にお尋ねすると、 「東映のプロデューサーが話を持って来て、すぐに”やりたい!”と思った。 東映は当然、公開後の放映権をテレビ局に売るつもりでしたが、隠語やあからさまな台詞が 多すぎてポシャってしまい、中断。それから3〜4年どこか作ってくれる所はないか 探していたら、鈴木さんと出会い、やっと実現する事になりました」。鈴木氏が マイクを持ち、「津川さんが監督なら出来るのでは...、津川さんとセットの 企画ならやりたい、と判断しました。作った後でテレビ局に売れない事に気づき、 ”しまった!”と(笑)」。キャスティングについて監督は「大好きな人たちに 声をかけました」。富司さんは勿論その内のお1人、「台本が面白く、 マキノ監督ならどんな役でも私で良ければ、と喜んで参加させて頂きました」。 現場もいいムードだったようで、監督は「叔父のマキノ雅弘は”一家もの”を チームワークよく撮った人。本作の撮影でも”次郎長一家”みたいな雰囲気が 出せれば、と思っていたら、貴一っちゃんが次郎長になってくれまして。 私も役者の輪の中に入って、祭りで神輿を”ワッショイ、ワッショイ!”と 担ぐように作りました。うまく”中井一家”が出来ましたね」。
 参加者からの感想や意見も次々に発表されていきますが、常に複数の人が 挙手しており、誰を指名しようか司会者を最後まで迷わせる活発さでした。 「役者のアンサンブルが見事。アップでなくロングで引いてその場面に登場する 役者全員を捉えようとしているのが良かった」━━そんな感想を嬉しそうに 聴いておられた監督です。鈴木プロデューサー(製作プロ:光和インター ナショナルの設立者)にお礼を述べる人も、「社長、よく金出してくれはりました! ちゃんと回収できますから、大丈夫でっせ(笑)。長門さんが見事に復活してました」。 復活秘話を監督が明かしてくれます、「長門の芝居が最近オーバーになっていたので、 森繁(久弥)さんみたいに羽のように軽くお願いします、とまず頼みました。 あの役のモデルとして考えていた落語家の師匠の映像資料を送っておいたら、 真似っぽくなり過ぎまして。全部忘れてくれと言ったら、『何、この野郎!』と 怒ってました。まあ、結果として近来にない好演だったので、何よりです」。 監督は初日から役者の演技に見惚れてしまったとも、「全員がキャラクターを 作ってきていたし、テンションを高くして来てくれた。役者同士のからみの動きも 最初からドンビシャで!」。役の出演者たちは皆、落語も猛勉強してきており、 「期待以上に様になっていたので長めに撮りました」。隠語連発の台詞はゲスト出演の マチャアキ(堺正章)をも「CMがなくなっちゃうよ〜」と恐れさせたりしますが、 彼もまた現場では様々なアイデアを出し、役割を十分理解してくれていたそう。
 客席からの感想は絶賛に近い評が続き、否定的な意見を出しにくいムードに。 そんな中、ようやく「もう少し芯になるドラマがあった方が...、笑いと対比させる ドラマがあった方が緩急がついて良くなったのでは。ちょっと単調かなと感じました」と 不満な点を挙げる感想が出ます。監督が「そういう要素も映画に含めているつもりだし、 私はこの程度が適当だと思いますね」と自信をもって返答されたので、意見の応酬と まではいきませんでした。私もなるほどと感じたこの発言をされた人は、同じこの 岡山県から参加された常連の方。監督にいなされてしまい軽く落ち込んでいたのを、 後のパーティーで常連仲間からなぐさめられたり、同感の意見を聞かされたりして いましたが、「そう思ってたのなら、あの場で発言してよ!(笑)」。シンポで 同傾向の意見ばかりになりそうな時は、司会者が早めに反対意見を募る等の舵取りで バランスが崩れすぎないような調整をした方がいいかもしれません。微妙なさじ 加減で難しいとは思いますが。

 初監督の演出ぶりを富司さんはこんな風に語られました、「テストを重ねていって 良くなる役者と、最初から100%出せるタイプの方とがいますが、監督は俳優だけ あってその役者の個性をうまく引き出していました。私もそうやって引き出して もらいました」。監督は即座にその発言を否定、「引き出すなんて、 とんでもないですよ! 役者さんにお任せでした。過去一緒にやった監督の中には、 本番を何度もやり過ぎて役者のテンションを下げてしまう人もいましたし、なぜ NGなのか言ってくれないような人も。私は、良かったらすぐ大きく『OK!』と 言う事を心掛けていました。そうそう、最初の頃は『よ〜い、ハイ!』のスタートの 合図を何度か出し忘れまして。今までは、その声を受けて演技を始める側だったもので」。 撮影する上で注意した点は?━━「”トゥーマッチの津川”と言われてまして。 やりすぎなんですな。プロデューサーからは常に品よくと注意され続け、 そのお陰で下品になりすぎず助かりました」。鈴木氏は「タイトロープを ぎりぎりの所でうまく渡りきってくれたと思います」。でも、と監督が続けられたのは 師匠役の長門さんに関する暴露話。いまわの際の願い事を弟子たちが聞き間違え、 その結果、スカートをはいた橋太の嫁(木村佳乃)が師匠のベッドに上がり、顔を 跨いで立つという艶笑シーンがあります。「長門は『木村さんがしゃがんだ方がもっと 面白くなるんじゃない、わしのメガネが曇るぐらい顔の近くまで』なんてぬかすんですな。 品の良い・悪いとはこういうことかと、長門に教えられました(笑)」。
 本作は題材の類似性や長年役者をやってきた人の初監督作という共通項から、 「お葬式」(伊丹十三監督)を連想させます。大成功を収めた同作も、実は 本映画祭が初お披露目だったのです。同じように「寝ずの番」がヒットしますよう! 来春、まず『シネスイッチ銀座』をはじめ新宿・池袋の都内3館で公開予定。 ”笑う湯布院映画祭”にふさわしいクロージング作品でした。

湯布院映画祭レポート05(18)

■28日(日)■ ≪ファイナルパーティー ・・・22:00より≫
 会場は宿のすぐ隣りにある施設で、パーティースペースは半分が屋内・半分が 屋外の庭園となっています。屋内部分には昨年まではなかった櫓(やぐら)のような 特設舞台が用意されています。何でも湯布院では毎年10月に『牛喰い絶叫大会』という 催しが開かれているそうで、それに使用している音量測定器付きのものだとか。 まずは来賓の挨拶から。地元の旅館組合を代表されたおかみさんが昔を回顧されます、 「映画祭が始まった当初は4〜5年でダメになるのではと思っていましたが、それが30年! 実行委員の熱意と、町の人たち、参加者の皆様のお陰です。40回、50回...、100回と続けて下さい。 私も、あの世からでも参加し続けますので」。映画祭では毎年デザインTシャツを 作製しグッズ販売しているのですが、乾杯の音頭はそのTシャツに着替えたマキノ監督に お願いします、「30回おめでと〜!」。今夜は、各ホテル・旅館より若手料理人数十名が 本日の仕事を終えてから駆けつけてくれ、意欲的な創作料理を振る舞ってくれます。 見た目がほんとにきれいで、特に女性から何度も感嘆の声が上っていました。
 色んな料理を食し終えた頃、ゲストの皆さんからご挨拶を頂戴していきます。 「寝ずの番」組が壇上に。富司さんはお祭りムードがすっかり気に入ったようでニコニコと 「初めての湯布院でした。請われれば、またやって来たいです。呼んでもらえるよう、 これからも頑張って映画に出演したいと思います」。真由子さんも父娘お揃いのTシャツ姿で、 「楽しくて、仕事じゃないみたい。みんな、温かいです! 『寝ずの番』、 よろしくお願いします」。と、ここで司会者からの提案により、各組の代表者が絶叫して 音量を測定していくことに。真由子さんは「30回おめでと〜!」で108デシベルと なかなかの好記録。絶叫の内容は、例えば「ヨコハマメリー」組なら「メリー、 よろしく〜っ!」といった感じの普通の言葉が多かったよう記憶しています。
 白鳥さんは「地味な講座なので30人ぐらいかなと見込んでいたら、100人近くも 参加して頂き、とても嬉しかったです。講座を聴いて映画の見方が変わったと多くの 人から言われました。やって良かった〜。これからも、講座があってもなくても来たいです」。 荒井晴彦氏の挨拶は脚本家らしく毎回印象的ですが、ここでも「35年ぐらい前『緋牡丹博徒』 シリーズ(富司さんが藤純子を名乗っていた頃の主演作)を夢中で観てました。先ほど 富司さんから『娘(「やわらかい生活」「ヴァイブレータ」に主演した寺島しのぶさんの事)が お世話になってます』と挨拶されまして、長生きするのも悪くないなと。もう少し 長生きしてみようかなと思ってます」。映写技師の飯山さんのお顔は今回しっかりと 覚えさせてもらいました、「昨日は1度フィルムが切れて上映がストップしてしまいました。 古い作品だったので、あれはちょっと仕方なかったんですが、親父が会場へ来ていなかったから 起こったのかもしれません。今日は最終日なので親父もちゃんと見ていてくれたのか、 無事映写できました」。確かこのパーティーにおいてだったと思いますが、 今年から会場にドルビーシステムが導入された事が紹介されました。昨年はドルビー仕様の 「透光の樹」が上映された際、効果音等が雑音のようになってしまい、 根岸監督が非常に残念がっておられましたから、それもきっかけとなって今夏に間に合うよう 設置されたのでしょうか。今年は、サウンド面での不具合は全くなかったようです。 昨夜のパーティーでは全く注目されていなかった「ヨコハマメリー」の中村監督が今夜は 大人気で、最後まで参加者たちの包囲網が解けることはありませんでした。

 さて、お天気に恵まれた第30回『湯布院映画祭』も、そろそろ閉幕の時間です。 実行委員全員が櫓舞台の前に整列し、映画祭と共に30年間歩んでこられた実行委員長が 代表してマイクを手にされます。「町の人の協力も回を重ねる毎に大きくなってきましたし、 実行委員の顔ぶれも次々変わり、最近は若い人が多く加わってくれるようになりました...」。 あれこれお礼やら、今映画祭の総括やら述べる内、第1回目からの様々な出来事が 思い出されたのか、「だんだん泣きそうになってきたので、ここらでやめます。最後に、 ゲストの方々、参加者の皆さん、町の人たち、30年間どうもありがとう!」。
 出口の所では、実行委員の何人かが(ほとんどの人はパーティーの片付け中)握手と 共に参加のお礼を述べられ、「また来年お待ちしています」と見送って下さいます。 第40回、50回...と伴走し、応援していきたい映画祭です。

 私は翌朝JRの始発で帰路につくため、東京の友人とは宿の庭先でお別れ。 年間300〜400本を映画館で観る彼は「ヨコハマメリー」と「ルート225」の 2本が大収穫だったので、2日間しか参加出来なかったもののとても満足そうでした。 金曜・土曜とも定員一杯の6名の相部屋でしたが、明日から仕事の人が帰ったため 今夜は4名に。
 本当はここらで本レポートにもエンドマークを出した方が良いのでしょうが...。 DVDにはよく特典映像がつけられています。次回の最終レポートは、特典というには おこがましいので、ちょっとした付録として目を通して頂ければと思います。

湯布院映画祭レポート05(19)

■29日(月)■ ≪祭りのあと≫
 無事起床でき、朝5時前に宿を出発。標高500メートル近い土地なので、 山すそには霧のような霞のようなものが漂っています。湯の煙も混じっていたのでしょうか。 三日月が中空から照らす中、うっすらと輪郭の見える由布岳に別れを告げ、徒歩にて駅へ。 途中、イート・インできるコンビニで朝食を摂り、5時49分発の始発で大分駅へ向かいます。 帰りは全線『青春18切符』を利用し、在来線の普通列車を乗り継いで岡山をめざすのです。  今回の映画祭を振り返ってみましょう。2003年の第28回は5本の試写作品中4本までもが 私にとって傑作レペルのものであった、過去最高の映画祭でした。記念回の本年は、 観て損をしたような作品は勿論ありませんでしたし、「寝ずの番」も「スクラップ・ヘブン」も 「やわらかい生活」も私個人のベストテン級の作品ですが、すっかり魅了され 熱烈に応援したくなるような━━シンポで発言せずにはいられないような作品には、 残念ながら出会えませんでした。けれど、それをカバーして余りあるのが、 パーティーやシンポジウムでのゲストの映画人たちとのふれあいの楽しさ。 今回もやはり”参加して良かった!”と心から思います。これで通算5度目。 映画祭の30回の歴史に対して、まだ6分の1にしかすぎません。あと20年連続で参加すると、 ようやく2分の1に。どこまで近づけるか分かりませんが、それぐらいを目標に置いて、 1年ずつ積み重ねていこうかと考えています。

 岡山駅へ降り立ったのは、夕方の5時過ぎ。11時間あまりの列車の旅でした。 車中では、映画祭のパンフレット(過去のものも含め)を読んだり、このレポート用に 取った大量のメモの整理等に勤しんでいましたから、11時間もあっという間。 普通に新幹線や特急列車を利用する場合に比べ、1万円以上の節約に成功しました。 これで、今年も支援金の協力を行なうことが出来ます。どういう事かというと━━。 どこの映画祭でも、きっと資金不足が悩みの種。『湯布院映画祭』も例外ではありません。 詳しい事情は省きますが、映画祭を継続していくため、実行委員の方々は年収の1%を 自己申告で拠出しているのです。私は、第28回分の本レポートが縁で実行委員の方と ちょっとしたつながりを持つことになり、昨年初めて【1口1万円】の支援金に協力さ せてもらいました。協力者には、次回映画祭のTシャツが開幕の少し前に自宅まで送付されますし、 パンフレットにも名前が掲載されます。今年の場合だと、阪本順治監督や望月六郎監督、 映画評論家の渡辺武信氏らと並んで。また、そのパンフレットも贈呈されますので、 会場入りするとき自分の名前を申し出れば、封筒に入れて取り置きされていたものが 手渡されます。本レポートの(3)で今年は1冊無料で入手したと記述したのは、 こういういきさつによるもの。
 つまり、支援金を振り込むという事は、私や他の常連参加者たちにとって、 次回映画祭への申込み金の一部を振り込むのとほぼ同じこと。そう、もう次回の映画祭への カウントダウンは始まっているのです。

 映画はよく、例えば”あと10分短くすれば傑作に仕上ったのに”と言われる事があります。 最後まで本レポートを映画になぞらえるなら、今回の最新作も上映時間が優に2時間を超える 冗漫な作品になってしまった、という所でしょうか。あと10分どころか、20分も30分も 縮めるべきだったかもしれません。ですが、楽しさをしっかりとおすそ分けし、臨場感を 味わってもらうには、これぐらいの詳細さが必要に思え、約1ヶ月にも渡る長文のレポートを 書き綴ってきた次第。”読むのが面倒臭い”と思われたり、”内容が嘘くさい”と 感じられた映画祭未体験の方、次回は直接その目で確認してみませんか。 初参加の際はまごつく事が多く、いきなり映画祭の虜になるという訳にはいかないかもしれませんが、 映画をより好きになれることは請け合いです。そして、こういうレポートを書きたくなる私の 気持ちが幾らか分って頂けるかもしれません。それでは、そろそろ遅すぎたエンドマークを 出すことにしましょう━━『 終 』。