TOMIさんの湯布院映画祭レポート06(第31回)

 8月も半ばを過ぎ、間もなく今年も『湯布院映画祭』の季節がやって来ます。━━やって来てくれます。 先日、1990年以来17回続いた『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』の中止が報道されました。 映画祭を継続して開催するというのは本当に大変な事なのでしょう。1976年に産声を上げた『湯布院映画祭』は 今夏で31回目となります。期間は23日(水)から27日(日)まで。開催されるのが当り前という考えを改め、 気持ちをリフレッシュして4年連続6回目の参加となる本映画祭をしっかりと楽しんでくるつもりです。
 ところで、『湯布院』に限らず、常連の参加者たちは毎年なぜ全国各地から遠路はるばる映画祭にやって来るのでしょう?
 今まで意識していなかった、私にとっての参加理由の一つに最近気づきました。1本の映画を完成させるためには、 多大な労力と時間を必要とするもの。もちろん費用も。それを我々観客は多くの場合、 近くの映画館や時には自宅にレンタルしてきてお手軽に鑑賞しています。”年に1度ぐらい、 映画のため少しは時間と手間そしてお金をかけ、わざわざ出かけていく行為をしたい”のです。 映画に敬意を払い、映画ともっと距離を縮めようとするためのアプローチ━━。幸い過去5回の本映画祭は、 いずれも参加して良かったと思える事ばかり。それどころか、帰りの車中でもう来年に思いを馳せ、 待ち遠しいと身もだえする年さえも。そんな感情に浸れるのも、早くから準備し、 遠方から足を運ぶ者への映画の神様からのご褒美なのかもしれません。
 今年のテーマは【いま、甦る銀幕の名宝(フィルム)たち】。実行委員会が厳選した、 昭和10年代から30年代頃の日本映画が 10本以上かけられます。新作の特別試写は4本。昨年・一昨年は6本でしたし、 私が初参加した2000年以降毎年5本以上がお披露目されていましたから、 映画祭情報の第一報で上映枠の減少を知った時には正直テンションが下がったものでした。 けれどその後1本ずつ作品名が発表されていくにつれ、どれも”観たい!”と 身を乗り出すものばかりだったので、映画祭熱がどんどんヒートアップ。今では、 例年以上の待ち遠しさで開幕日までのカウントダウンを行なっている有様です。

 湯布院での宿泊は過去5回とも映画祭事務局を通じて申し込んだ、一般参加者たちと最高6人ぐらいの相部屋に なるお馴染みの宿でした。今回、その宿を変更━━。実は毎年12月初旬に開催されている 『函館港イルミナシオン映画祭』に今年初めて参加するつもりにしており、インターネット 検索で手頃なホテルを下調べした際、ついでに湯布院の宿泊施設もサーチしてみた所、安い素泊まりの宿を 見つける事が出来たのです。早速問合せすると、1人でも宿泊可(2人用の部屋)だったので、 以下のような理由からそこに決めたという次第。【@私はたいてい最終日の翌朝に始発電車で帰るため 、相部屋だと出立の準備で他の参加者たちを起こしてしまう恐れがある。A昨年、十何年ぶりかで 本映画祭に参加した関東在住の友人は多忙な身ながら、どうしても観たい映画や会いたいゲストがいれば、 たとえ2日ぐらいしか参加できなくても遠路駆けつける私以上の映画マニア。 映画祭のゲストは直前でなければ正式決定しない方がおられたり、 また友人が仕事の休みを取れるかぎりぎりまで分らない場合も予想されるので、 開幕直前に急遽参加を決意した時、宿に困らなくてよい状態を作っておきたい。 B映画祭の参加者は皆いい人ばかりだが、やはり相部屋は多少なりとも気を遣うため。 C宿泊料が安い(!)】。来年以降も定宿にしたいような居心地の良い所でありますように。
 昨年は残念ながら、傑作と思える作品に出合えませんでした。 それでも記念の第30回ということもあり、パーティーやシンポジウムでのゲストからの挨拶等では胸に ぐっとくるものが多く、全体としては十分な満足感を獲得。ただ、映画祭で最も重要なのは上映作品の質で ある事に間違いありません。今年はきっと、”今まで『湯布院』で観た中で3本の指に入るぐらいの傑作たち”が 待っていてくれることでしょう。具体的な根拠はありませんが、なぜかそんな予感がするのです。

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湯布院映画祭レポート06(1)

 27日(日)に閉幕した今年の映画祭の印象をひと言でまとめると━━”出会い”でしょうか。 今までの積み重ねがあった上で色んな人と知り合いになれ、これから本映画祭の場に限らず交流が続いていくでしょうし、 肝心の映画に関しても、遂に2003年の「油断大敵」を超える本映画祭でのベストワン作品に出合えました!  本作は今秋の公開が決定済み。ほぼ確実に今年の日本映画のマイ・ベストにもなるでしょう。また、 他の試写作品3本も揃って今年中に公開の予定。近年は大半が翌年にならなければ公開されない作品ばかりでしたから、 年内に初日が決まっているのは喜ばしいことです。
 残念だったのが、試写作品4本の内2本は俳優ゲストが1人もいらっしゃらなかった事。 また、シンポジウムの締めやパーティーでの挨拶において、じ〜んとくるような名スピーチが少なかったのも、 いささか物足りない点。これは、参加回数を重ね、過去の感動的な挨拶の再現を期待しすぎているという贅沢病から くるものかもしれませんが。このため今夏の『第31回』は、前述のベストワン作品に加えて 今年の日本映画マイ・ベストテンに入れたい秀作が2本あったにもかかわらず、映画祭全体の満足度で評価すると、 過去最高であったとは言い切れないのです。とはいえ平均は超えており、 想像していた以上に楽しませてもらったのは間違いありません。
 2006年の湯布院で、私がどんな人に出会い、どんな秀作に出合ったのか。 よければ、約1ヶ月に渡るであろう本レポートにお付き合い下さい。

 出発は24日(木)の早朝。岡山駅5時21分発の山陽本線の普通列車に乗り込みます。 行き帰りとも『青春18きっぷ』を利用して交通費を節約しようとの魂胆です。節約できた分の半分は、前述の通り12月に 『函館港イルミナシオン映画祭』へ初参加するつもりなので、その費用の一部に充てる予定。もう半分は、 湯布院映画祭への支援金に回すことになります(どこの映画祭も資金不足が悩みの種なのです)。 片道10時間以上かかりますが、行きの車中は恰好の読書タイムとなりますし、帰りは本レポートのために取った 大量のメモの整理等でつぶれますから、決して苦行に近いようなものではなく、 私にとってはもう普通の行程になったと言っていいでしょう。
 支援金に協力するとお礼として、毎年デザインを変えて作製する映画祭のTシャツが 開幕前に自宅へ送られてきますし、パンフレットが1冊贈呈されます。昨年パンフは会場受付で手渡されましたが、 今年はTシャツと一緒に送付されてきて嬉しい驚きでした。ここ4〜5年のものより30頁ほど薄くなっており、 早く刷り上ったためTシャツとセットで届けられたのでしょうか。それでも70頁余りの分厚さなのですが、 試写作品が減少し関係者からのコメントを掲載する頁が大幅に減ったのがスリム化の主な要因のようです。 何はともあれ、出発前に届けてくれたのはナイスな処置。昨年までは期間中にじっくり目を 通す時間がなく帰りにようやく読み終えたものでしたから。今年は行きの車中でムードを高めながら読了。 ”今年も支援金をよろしく”との裏の意味もあったのでしょうか。もしそうなら、まんまと嵌ってしまったようです。

 由布院駅への到着は16時過ぎ。道中はずっと夏空が広がっていたのに、目的地が近づくにつれ夕立の襲来を臭わせる黒い雲が...。 山に囲まれた標高500メートル近い土地ですから、夕方になると天気が急変しやすいのです。 駅前広場に出ると、雷のお出迎え。歩いて3分程の、映画祭の会場である[湯布院公民館]へ急ぎます。 スロープになっている、玄関へ続く通路の入口には今年も、【映画館一つない町。しかし、そこに映画は在る】と 書かれた看板が立てられ、参加者を迎えてくれています。まずはロビーの販売コーナーでパンフを4冊購入。 友人・知人へのお土産用なのです。内3冊を持参の郵便封筒に入れて封緘し、一旦会場から出て宿へと向かいます。 封筒は、コンビニのポストに投函。パンフレットもまとまると荷物になるし、受け取る側も早く届いた方が嬉しいのでは、 と思っての事です。
 今年変更した宿があるのは、昨年までの宿と同方向へ進み、途中川沿いの道へ折れて向かう、 駅から15分弱の所。この道は毎年(木)(金)のパーティー会場からの帰りに通っていたため、 迷わず宿の在り処を示す矢印看板の所まで辿り着きました。ここからは、ほんとに細い田んぼのあぜ道に入り、 くねくねと100メートルほど進むとまた普通の道が。そこからもう少し歩いて、ようやく到着です。 駅からの時間は昨年までの宿より3〜4分かかりますが、(木)(金)のパーティー会場からは 逆に5〜6分近いので、位置的な不便さはほとんどありません。あとは”安かろう悪かろう”で ないことを祈るばかり。ずっと雷が鳴り続け不気味でしたが、雨にならなかったのはラッキー。 宿も同じように”当り!”であってくれますように。
 本レポートは旅行記ではありませんから、宿のことはおいおい触れていくようにしましょう。 部屋に荷物を置いて、再び会場へ。外は雷雲が去り涼しくなっていますし、身軽にもなれ、 ”さあ、映画祭を楽しむぞ!”という気分になってきます。が、その前に━━。

 パーティーは22時開始ですから、何か食べておかなければお腹がもちません。 会場近くにある肉屋の名物ミンチカツを初めて買い、店先の路上で食したのでした。 駅前通りを少し折れた場所にあり店先が広々しているので、落ち着いて立ち食い出来ます。 ここはテレビの旅番組やグルメ番組で度々紹介されているお店。昨年までは存在をあまり知らなかったり、 知った後もタイミングが合わなかったりで、今年が初体験となった次第。ミンチカツは安くて(80円)肉汁たっぷりで、 滞在中はコロッケ(70円)と両方求めたりして毎日のように利用したものでした。ハンバーガーショップなどの ない湯布院におけるファストフードと言って良いのでは。

 ここからは、ようやく映画の話です。昨日の前夜祭では、雨でなければ駅前広場で「殿さま弥次喜多捕物道中」 (1959年 沢島忠監督)が野外上映された筈(実施の有無を確認するのを忘れました)。今年のテーマに沿った作品は、 本日より土曜日まで連日朝10時より夕方にかけて上映されます。実行委員が見つけ出した、”仲間とその面白さを共有したい”古い 日本映画が11本。本日のラインアップは、1935年の「花婿の寝言」(五所平之助監督)、 1941年の「簪(かんざし)」(清水宏監督)、1948年の「女」(木下恵介監督)、1956年の「涙」(川頭義郎監督)の 4本でした。また今年は、『おしゃべりカフェ』という時間が新たに設けられています。シンポジウムほど大掛かりなものでなく、 ロビーに椅子を30〜40脚並べて、いま観た映画について参加者も実行委員もざっくばらんに話そうという企画です。 本日は「簪」と「涙」の上映後に各々30分開店していたようです。(金)(土)にも1度ずつ実施されましたが、 私は結局参加せずじまい...。その時間帯に行きたい所があったり、用事が出来たりしたためと、 やはり一番大きな理由はみんなと語り合いたいほど特集上映の映画に惹き込まれなかった事でしょうか。 それから昨年実施された、試写作品に対する整理券の配布は今年は中止に。さて、 今年も映画祭で鑑賞する最初の作品は本日木曜日の夜に上映される1本目の特別試写作品、「悲しき天使」です━━。

湯布院映画祭レポート06(2)

■24日(木)■ ≪特別試写「悲しき天使」・・・18:15より≫
 開場は上映開始の20〜30分前。入場は、まず全日券の客より。私も当然、パーティーを含む全プログラムに 参加できるこの券を購入しており、 名前の入れられたパスを首から下げて列に並びます。「悲しき天使」は、スクリーンで観る随分久しぶりの 大森一樹監督作品。80年代から90年代初めにかけて何本も大好きな作品を観せてくれた同監督ですが、 この所ずっと劇場に足を運びたくなるものがなく、振り返れば約10年ぶりという事に。本作はもし 本映画祭で上映されなかった場合も、岡山で公開されるならきっと映画館に出かけて行くでしょう。
 観客の出足はかなり良く、上映直前にはほぼ満席状態に。木曜日の試写作品では、今まで来た中で 最高の入り。実は本作は、地元・大分県でロケされた作品なのです。主な舞台となったのは、 別府市の鉄輪(かんなわ)温泉。それだけに関心度が高く、エキストラで参加した人なども駆けつけられた模様。 上映前の舞台挨拶には、主演の高岡早紀さんと岸部一徳さん、大森監督、プロデューサーの4人が登場されます。 大森監督は意外にも、今回が初めての『湯布院』。高岡さんは「バタアシ金魚」が上映された第15回以来、 16年ぶり2回目。ジーンズの裾を短く切り、ブーツを履いた活動的なファッションで出てこられました。 映画で演じた女刑事を幾らかイメージしてのものだったかもしれません。ひと言ずつご挨拶を頂戴します。 高岡さんは「1年かもっと前に、別府で1ヶ月ほど撮影してました。今日の日を迎えられたのを嬉しく思います」。 続いて岸部さん、「やっと公開が近づいてきました。今日は湯布院という温泉地に来て、 だぼっとした顔をしてますが、映画の中ではもうちょっといい顔で映っていると思いますので」(場内笑)。 監督が締めます、「2年以上前に初めてロケハンで大分に来ました。今日はロケで使わせてもらった旅 館のご主人も来られている筈です。ぴったりの旅館があったからこそ、この映画を撮る気になりました。 公開が1年ぐらい延び延びになり...、ロケ地の人々には早く観てもらいたいと思っていたのですが。 この映画祭にはタイミングが悪く1度も参加できていませんでした。 今回、地元ロケ作品でようやく来られて嬉しいです」。

 本作は、1958年に映画化された刑事ドラマの名作「張込み」(松本清張原作)の 現代版を作ろうという所からスタートします。が、監督が執筆した脚本は、基本設定は同じながらも、 登場する3人の女の生き様の方に焦点が当てられた内容に。清張氏の関係者から「これは『張込み』と はかなりかけ離れた物語になっています」と言われたこともあり、題名はもちろん、チラシ等にも「張込み」を 元にして製作したとは触れられていません。ただ、58年作を観たことのある者ならすぐ同作を連想するでしょう。 張り込む刑事役が高岡さんと岸部さん。張り込まれる側の旅館の若夫婦に、筒井道隆さんと河合美智子さん。 筒井さんのかつての恋人で、哀しい理由から殺人を犯し逃亡中なのが山本未来さんという配役。 女3人を主人公にした映画というと、 私も大好きな大森監督の20年前の快作「恋する女たち」が思い浮かびます。チラシに入れられている謳い文句は、 【その後の恋する女たち】。それは、ちょっと違うと思うのですが...。  映画はクライマックスの追跡シーンで、それまでの”静”から”動”へと大きくうねります。 サッカースタジアムからホバークラフト、そして空港へと━━。演出にも役者の演技にも特に欠点はなく、 退屈せずに観られましたが、残念ながら映画的興奮に体が熱くなるような瞬間は訪れませんでした。 題材と監督の資質とが合っていなかった感じです。それでも光る場面や、長年の映画ファンならにやりと してしまう箇所は幾つもあり、恒例の上映後の拍手も、義務感からではなく自然に手を 叩けるぐらいの出来ではありました。
 次は、会場を2階に移してのシンポジウムです。ほんとにつまらない映画だとシンポも盛り上がりませんが、 本作については色んな角度からの意見が飛び交うでしょう。私は、魅了されどうしてもひと言賛辞を述べたい 映画の時しか発言する事はありません。100人以上いる会場で挙手するのは、結構ドキドキものなのです。 一昨年は3度も思い切って手を挙げたものの、昨年は最後まで沈黙したまま。今年は発言したくなる映画に 出合えるでしょうか。ただ、そんなに惹き込まれなかった映画であっても、シンポの楽しさは別物。 製作の裏側はほんとに興味深く、面白エピソードの宝庫ですから。今夜のシンポも、映画以上に身を 乗り出してしまうものになりそうです。

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■24日(木)■ ≪シンポジウム(「悲しき天使」)≫
 上映ホールと違い、シンポの会場は床に傾斜などないので、ゲストの顔は最前列からでないとしっかり見ることは出来ません。 2列目以降だと、前の人の頭に邪魔されてしまいますから。素早く2階に移動したお陰で、狙い通りの席を確保。俳優ゲストの お2人はたぶんこちらサイドだろうとの読みも当り、後から入って来られた高岡さんと岸部さんは、私の正面辺りに座られたの でした。ゲスト席は長机の向こう側ですが、客席最前列とは2メートル程しか離れていなかったでしょう。 本映画祭は写真撮影は、ほぼフリー。舞台挨拶の際もフラッシュが眩しく光っていましたが、ここでも ゲストが入場されると早速シャッター音があちこちから。司会が、「写真を撮られる方は今の内に。 シンポが始まりましたら、ご遠慮下さい」と注意します。ゲストは舞台挨拶と同じ顔ぶれで、左から司会、 プロデューサー、大森監督、高岡さん、岸部さんの並び。
 シンポの進行は、司会を買って出た実行委員により幾らか異なりますし、 ゲストが自分たちの挨拶より客席からの感想を一番に聞きたいと要望する場合も。 今回はまず女性からの発言を促します、「常連のおじさんたちからの難しい意見が出る前に、どうぞ」(笑)。 女性が口火を切るのは難しかったのかすぐには反応がなかったので、司会は監督に製作の裏話をお訊きします。 58年作の「張込み」のロケ地は、同じ九州ではありますが佐賀県。今回、舞台を別府にした訳は? ━━監督の答えは、 「大学の同期の者が仕事の関係で別府へ通うのにフェリーを使っていると聞きまして、面白いなと。 それで鉄輪温泉をロケハンした所、シナリオ通りの旅館が見つかりまして。早速その場で交渉してOKを 貰えたものですから、”これで出来るな”と思いました」。ここからは男女を問わず、感想や意見や質問などを ゲストの皆さんにぶつけていきます。監督は前夜は監督協会の会合があり、大林宣彦監督や阪本順治監督らと呑んで、 『湯布院』のシンポについて脅かされたのだとか。「覚悟して来たので、何でもどうぞ」。

 客席からは、ラストの空港での一連の逮捕劇について意見が集中。「ウェットな感じでなく、 ハードボイルドタッチにしてほしかった」とか、「あのパスポートの扱いはおかしいのでは?」など、 どちらかと言えば否定的なものが優勢でした。が、監督はさすがベテランだけあって初登場とは思えぬぐらい肩の力が抜けており、 受け答えの最後には「まあ、自分ではあれでいいと思ってるんですけどね」とまとめられたのでした。 今回の現場は制約が少なかったようで、監督は隣りの高岡さんの方に視線を向けながら、「入浴シーンを 入れろとか言われませんでしたから」(笑)。肯定的な意見も勿論あります、「登場人物、そして映画自体が 喋りすぎないのが良かった」など。私はラストシーンで、宮部みゆきの傑作小説「火車」を連想。「悲しき天使」は 制約の少ない現場だったとはいえ、クライマックスで”ある曲”を流すのが決められていたらしく、その分ああいう 撮り方をせざるを得なかったのか、確かにちょっと湿っぽくなりすぎていた気がします。
 高岡さんにも、「ラストの女刑事の行動はあれで良かったんですか?!」とか、 「あの場面では主人公の心境はどういうものだったんでしょうね?」との質問が。 彼女はゆっくりと言葉を選び、多少苦戦しながら返答。隣りの岸部さんが、同じ役者としての立場から補足します、 「こういう場で俳優が答えられる事は少ないんですよ。脚本上では観客が少々納得できないようなシーンも、 スクリーンに映った時そこが気にならないよう役になりきって何とかしようとするのが演技というものなんです」。 場内からは、ほぉ〜っという声と共に大きな拍手。さすが味のある深い発言です。今作でも、 岸部さんと地元警察の刑事とが、本来は違反捜査の盗聴を只の傍受だと錯覚させ観客を煙に巻くような場面は、 とぼけた遣り取りの名シーンでした。

 話の流れで、監督から「映画検定2級に合格しました」との朗報(?)が発表されました。 同検定は今年6月に1回目が実施されたもので、最上級が2級まででした。12月に第2回が行なわれる予定で、 今度は2級合格者のみ受験できる1級検定も実施されます━━「1級めざしますので」。徐々に女性からも手が挙がるように。 主に、同じ女性の立場からの感想を高岡さんに伝えたかったのでしょう。発言が終ると程よい拍手が湧くのも、 好ましい雰囲気。前述しましたが、100人以上いる中で挙手するのは、やはり勇気が要るものなのです。それでも、 発言が少なければ盛り上がりませんから、マイクを握ってくれた人には実際に手を叩かない場合も心で拍手です。 ところで、高岡早紀・筒井道隆と名前が並べば、思い浮かぶのは「バタアシ金魚」。高岡さんが初参加した時に 上映された作品です。今回、ラスト近くでようやく1シーンだけ2人のからみがありました。「バタアシ金魚」以来の 共演なのだそう。普通に嬉しかったと高岡さん、「15〜16年ぶりだなんて、とてもそんなに年が経ったとは思えませんでした」。
 まだまだ話し足りない感じですが、終了の時間となります。 最後の挨拶はまず岸部さんから、「ここへ来るのは2度目か3度目になりますが、 シンポで押したり押し返されたりするのは『湯布院』ならではですね。楽しかったです」。高岡さんは、 「どうも有難うございました」と短くひと言だけ。締めは当然、監督です、「1年くらい公開が延びて、 もう上映されなくてもいいやと思った時もあるけど、こうして色んな感想を聴け、やはり観てもらえて良かった!  実は去年の映画祭の折にも声を掛けてもらい、 『来年でも間に合いますよ』と半分冗談で言ったら、ほんとにその通りに」(笑)。 本作は10月下旬より各地で順次公開予定。俳優ゲストのお2人を目の前で見られ、見応えも聴き応えもあるシンポでした。

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■24日(木)■ ≪パーティー ・・・ 22:00より≫
 パーティー会場へはバスに分乗して移動します。終了後は現地解散。 会場は日替わりで、全て立食式。今夜は旅館の日本庭園に100名余りが集っていたでしょうか。 参加者の多い土・日には、大きな施設が使用されます。屋外ですが、暑さは全く感じません。 まずは乾杯です。挨拶と音頭は大森監督、「実はIさん(本映画祭の実行委員長)に、『悲しき天使』の 撮影を手伝ってもらった事がありまして━━」。ホバークラフトを使ってのロケ現場を訪れたIさんは、 ホースで水をかけるスタッフがいなかったので、「誰か、いないか〜」の指示の声を聞き、とっさにホースを 手に取ったのだそう。そのIさんの方を見ながら監督は、「ロケ地も大分だし、これはもう『湯布院』で上 映するしかないでしょう」。拍手が収まるのを待って、「ここへ来るのに31年かかったけど、 遅すぎるということはなかったんじゃないでしょうか。10年前、20年前に来ていたら、シンポで喧嘩してたかも。 今では笑って聞き流せるようになりましたから。これでもう、いつでもやって来られる状態になったので 、どんどん呼んでほしい。『ゆうばり映画祭』も中止になり、これだけ長く続いているのは『湯布院』だけ。 40回、50回と続けて下さい。カンパ〜イ!」。

 会場にはテーブルが10ぐらい出されており、好きな所について構いませんし、 移動も自由。私は、先ほどシンポの会場で紹介された『宮崎映画祭』関係者のSさんと同じテーブルに。 引き合わせてくれたのは、同じ岡山から参加されている、本映画祭の先輩Oさん。彼は最近インターネットを通じて 『湯布院映画祭』の話題で偶然Sさんと知り合い、会場での対面を約束。お2人も今日会われたばかりです。 Sさんは、私がよく書き込んでいる某脚本家のHPの掲示板や、過去の本映画祭のレポートを 以前から読んで下さっており、私が今日到着するのもご存知だったので、Oさんに教えられ私に声を 掛けてこられたという次第。シンポの会場では挨拶だけだったので、ここでゆっくりと話を...。とその前に、 腹ごしらえを。大皿に盛られた料理が何回か各テーブルに届けられます。美味しく頂きました。

  お腹も落ち着いた所で、Sさんと色々お話しします。興味深いのは、何といっても今年で12回目を迎えた 『宮崎映画祭』の裏話。6月に開催されており、今年のパンフを頂戴しましたが、過去のゲスト一覧を見ても 本当に豪華。『湯布院』に負けていません。前記の某脚本家というのは、今春の感動作「子ぎつねヘレン」や1 0月に公開予定の「天使の卵」などを執筆された今井雅子さんという方で、彼女も2002年に映画デビュー作 「パコダテ人」(宮アあおい主演)と共に『宮崎映画祭』にゲスト参加されています。その縁で、Sさんは 彼女のHPによく立ち寄るようになり、掲示板の常連である私の事を記憶するようになったという訳なのです。  「パコダテ人」はそもそも、『函館港イルミナシオン映画祭』主催のシナリオ大賞の準グランプリを受賞した 事から映画化された作品で、2001年12月の同映画祭でお披露目。その年の映画祭のチラシがどういう訳か岡山の ミニシアターに置かれてあり、興味を引かれ映画祭のHPを覗いてみると、掲示板に偶然今井さんの書込みが。 私が”「パコダテ人」観たいです”と返信として書き込んだ所、彼女からもレスがあり、 以来ずっとネットを通じての交流が続いているのです。そして、これをきっかけに【行ってみたい映画祭リスト】の 上位に『函館』の名前が掲載され続け、遂に今冬の初参加を決意するまでに。嬉しいことに今井さんには、 今映画祭開幕直前の22日に第一子が誕生! Sさんとは、この話題でも盛り上がりました。 が、中心になったのは、やはり『宮崎映画祭』がらみ。日曜日まで毎日パーティー等でお話しし、 結果...、【行ってみたい映画祭リスト】にしっかりと『宮崎』の名前が刻まれる事になったのでした。 こういう風に映画祭を通じて人の輪が広がっていくのも、インターネットの利便性によるところ大。 拙レポートを発表する場が得られたのも、同じく。これからも、大切に付き合っていきたい利器です。

 岸部さんは日曜日のクロージング作品「フラガール」にも出演しておられます。ただ、 それまでいて欲しいと願うのはどう考えてもご無理な要望。ゲスト挨拶で岸部さんは、「残念ながら、明日は 岡山で撮影があるため帰らなければなりません」とおっしゃっていました。 私の地元で現在撮影されている映画と言えば、「バッテリー」。ローカルニュースなどで何度も撮影風景が 取り上げられており、一昨年の本映画祭でお話させて頂いた萩原聖人さんらが出演されているのは知っているのですが...。 後で直接お訊きしてみると、やはり「バッテリー」の事でした。本作は来春公開の予定。地元ロケ作品は特に 期待されるものですが、岸部さんがどんな役で出演され、映画にどんな味付けを加えてくれているのか等、 ますます楽しみになりました!
 高岡さんもすっかりリラックスして、陽気な笑顔を何度も浮かべていらっしゃいます。 彼女もまたもう1作、土曜日の試写作品「長い散歩」に出演しておられ、嬉しいことにずっといて下さるのです。 パーティー半ばまでは近くのテーブルで飲食しながら一般客との会話にも応じられていたので、 話し掛けるチャンスはあったのですが、何を言おうか思い浮かばず、そうこうしている内、 隅の椅子に移られ、岸部さんを含む映画関係者数名と雑談されだしたので、結局この夜はお話できませんでした。 土曜日のパーティーで再トライです。やがて0時近くとなり、お開きの時間に━━。

 川沿いの道を、水の流れる音を聞きながら宿へ。外観は普通の2階建ての民家で、客室は2階に2部屋・1階に1部屋。 台所を利用して調理する事も可能で、冷蔵庫は共用です。2ヶ所あるトイレも共用。風呂はそう大きくはありませんが、 2人は十分に入れる広さ。ちゃんと温泉をひいており、夜中でも入浴できます。戸に、片面は 【入浴中】・反対側は【あいてます】の札をかけ、各部屋の宿泊客が交代で入る方式。部屋は2〜3名用のものを 私ひとりで利用。6畳以上あり、テレビ・エアコン・扇風機が備わっています。寝巻きと歯磨き歯ブラシのみ持参要ですが、 これで1泊がCD1枚分ぐらいの料金というのは、”お値打ち”と言って良いのでは。宿のおかみさんも、 田舎のお母さんといった感じの気さくな方で、冷蔵庫には”食べて下さい”と紙を貼ったタッパーに お惣菜を入れておいてくれたりして、ゆったり寛がせてもらいました。来年も間違いなく、 ここを予約することでしょう。これからの定宿が出来ました。

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 参加2日目の25日(金)は、朝のうちはうす曇りだったものの、 日中はほぼ晴れ。昨年までの宿は朝食付きでしたが、今年は素泊まりの所なので、 店内に椅子が6脚ほど有りイート・イン可能なコンビニで朝食を済ませます。以後も朝食のみならず、 上映の合間などに軽食や飲み物を買いに毎日立ち寄ったものでした。
 本日は夜の特別試写がなく、旧作ばかりがプログラムされている日。朝10時より順に、1956年の 「あなた買います」(小林正樹監督)、1961年の「女は二度生まれる」(川島雄三監督)、 1970年の「日本の悪霊」(黒木和雄監督)と続き、通常は新作が試写される18時台には、この日の 4本の中で実行委員の一押し度の最も高かった1959年の「最高殊勲夫人」(増村保造監督)が上映されます。 「日本の悪霊」は、今年4月に急逝された黒木和雄監督の作品。けれど、追悼の意味からではなく、 あくまでも今映画祭のテーマに沿った面白い映画として選ばれたものなのだそう。もちろん追悼の思いは、 特に本映画祭の創立時からの実行委員にとっては、尋常でないものがある筈。何と言っても、監督は恩人の 1人なのですから。
 湯布院で映画祭を始めようという話が持ち上がったのは、1976年の3月。その1ヶ月後に黒木監督の代表作 「祭りの準備」が大分市内で公開され、監督や同作でキネマ旬報助演男優賞に輝いた原田芳雄氏、 同じく脚本賞を受賞された中島丈博氏らが舞台挨拶にやって来てくれたのです。本映画祭の創立者の お1人である中谷健太郎氏の誘いに応じられてのもの。舞台挨拶の後は、近くの喫茶店で交流会が行なわれ、 続いて湯布院に移動して宴会までもが開かれます。翌朝は一緒に町内を散策...。それらを通じて、 創立メンバーたちは映画人とのかかわり方や付き合い方、その楽しさや喜びなどを知り、 映画を上映すること以外は何も思いつけないでいた映画祭の計画に肉付けがなされ、現在に至るまで 継続されている本映画祭の特長的なスタイルであるシンポジウムやパーティーが生み出されたのでした。 (今映画祭のパンフより要旨を転載)

 私が本映画祭に初参加したのは2000年のこと。 ちょうどこの年、久々にメガホンを取った「スリ」が試写上映され黒木監督も舞台挨拶に立たれましたが、 当時はまだ映画祭レポートも記しておらず、また映画より面白い場合もある上映後のシンポジウムも、 堅苦しい雰囲気の場かと敬遠し不参加だったため、同監督に関するはっきりした記憶がないのです。その後、 2002年の映画祭にも「美しい夏キリシマ」を携えて参加して下さいましたが、この年だけ私が不参加。 また昨2005年2月には、私の住む岡山市のお隣り倉敷市で『黒木和雄監督の会』が開催され監督もゲストで 来場されたのですが、あいにく私が『ゆうばり映画祭』に初参加していた時期と重なってしまい...。監督を 偲ぶちょっとしたエピソードでもと思ったのですが、そのようないきさつで何もないのです。
 遺作は、今年初めに完成させ、現在東京等で上映中の「紙屋悦子の青春」(岡山でも9月中旬から公開)。 まだまだ何本も撮りたい作品はおありになったでしょうが、「スリ」(2000年公開)の前の劇場公開作は1990年の 「浪人街」で、何と10年間も新作がなかったのです。それに比べれば、2000年以降「スリ」「美しい夏キリシマ」 「父と暮せば」、そして「紙屋悦子の青春」と4作も撮ることが出来、「美しい〜」では 【キネマ旬報ベスト・テン第1位】に輝き、同作と「父と〜」では各種映画賞の【監督賞】を 受賞、また「父と〜」では主演の宮沢りえさんに数々の【主演女優賞】をもたらしたのですから、 充実した晩年で何よりでした。

 本日2本目の上映作「女は二度生まれる」はパスさせてもらい、昼食と観光スポットの散策に。 昨日は電車だけでも10時間近く座っていたので、会場で連続して映画を観るとお尻が痛くなってくるから という理由と、もう一つは━━。観光スポットの外れの方の人出の少ない場所に、ゆっくりと日陰に座って 冷たい物を飲食できるお店があるので、久しぶりにソフトクリームを食べたくなったのです。 日常の行動範囲内では食べようと思わなくても、旅行先や途中のサービスエリアだとつい買ってしまう心境と 同じでしょうか。ここ2年くらいはこういう出歩く時間がなかったため、3年ぶりぐらいになる当地のソフトは大変おいしく、 あっという間に食べ終えてしまいました。

 会場に戻ると、ロビーに大森監督を発見。半ズボン姿ですっかりリラックスされてます。今回上映される作品や ゲストに関係した昔の映画のポスターが貼られてあり、それらを眺めていらっしゃる所。昨日はお話する機会が なかったので、声をお掛けし、ありきたりの質問をさせてもらいました━━「次の作品には、もう取り掛かって おられるのでしょうか?」。一般公開前の新作を夕べ観たばかりなのに、ついこう訊いてしまうのは、 映画ファンの悪い癖でしょう。残念ながら、まだ具体的な動きはないのだとか。「早くゲストの常連になって下さい」と お願いし、おそばを離れました。

湯布院映画祭レポート06(6)

■25日(金)■ ≪特集上映「最高殊勲夫人」・・・ 18:30より≫
 若尾文子主演の、現在で言うところのラブコメ作品です。普通のサラリーマン家庭に育った野々宮杏子 (若尾)の2人の姉・桃子と梨子は、共に三原商事の社長秘書を務め、どちらも社長の息子と結婚。 長姉の桃子は自分たちに続けと、杏子と社長の三男・三郎(川口浩)とを結婚させようと画策するが...。 肝心の2人は、「あなたとなんか結婚するもんですか」、「俺だって絶対いやだよ」と宣言。ここまでが、 テンポよく冒頭の5分程で描かれます。映画は、予想通り2人が結ばれるまでの物語。最初と最後を結婚式シーンで サンドイッチした構成になっており、全然古臭くなくて、とても楽しめました。

■25日(金)■ ≪シンポジウム(「最高殊勲夫人」)≫
 ゲストは、本作の脚本を執筆されたシナリオライターの大御所と言ってもいい白坂依志夫氏と、 本作では企画を担当されたプロデューサーの藤井浩明氏。この映画は一般的に、増村保造監督作の 中でも重要な作品とは見なされておらず、本作を見つけた時には実行委員も小躍りしてしまったようです。 客席からの感想も好評━━「映画はいつから面白いだけじゃいけなくなったんだ。面白いだけでいいんだ、 と思わせてくれる作品」等など。
 ゲスト席の白坂氏は、もう第一線を退かれてからかなり経つせいもあってか、脚本家らしからぬ(?) ニコニコととぼけた雰囲気を漂わせておられます。司会役の実行委員より、「日本映画のテンポが早くなったのは、 増村監督や岡本喜八監督が台頭してきたから。それに加えて、脚本が白坂氏だったからと言うことが出来るでしょう」と の解説が。氏の脚本の特徴は、テンポの良さと台詞量の多さ。一番相性の良かった監督を訊かれ、 岡本監督の名前と作品名として「結婚のすべて」を挙げられました。

 司会から「シンポの直前に気づいたんですけど」と紹介されたのが、偶然にも本日は増村監督の誕生日であるという事。 「全然知らなくて。この映画を今日に組み込んだのもほんとにたまたまなんですよね」。白坂氏が「監督の霊が どこかその辺りに来ているかもしれないね〜」(笑)と会場を見回されます。今年も客席の端の方には、 名シナリオライターの荒井晴彦氏のお姿が。昨年は「やわらかい生活」の脚本家として正式ゲストで参加。 また今年のように関係する作品がない場合も自費で来て下さっているのです。司会が、白坂脚本について意見を求めると、 「まずいだろ、大先輩の事を」とパスしようとしますが、ついひと言漏らしてしまうの でした━━「”玉の輿(こし)三重奏”というだけで引くなあ」(笑)。白坂氏が本作の執筆に要したのは、 8日間ぐらいだったとか。ここでも荒井氏が反応、「俺なら1ヶ月ぐらいかかる筈。リアリズム派だから」(笑)。

 藤井氏は今でも現役で、昨秋公開の「春の雪」(三島由紀夫原作)を企画し製作に携わられた方。 原作小説のファンは海外にも多く、コッポラや陳凱歌(チェン・カイコー)等もやりたいと言ってきたのだそう。 同書は4部作の内の1作。「残りの3作も、ぜひ映画化して下さい」との客席からの声に、藤井氏は「この次やる時は、 3部作をまとめて作るつもりにしてるんですけどね」と柔和な顔でお答えに。ただ、やはり製作費がかかるので...と、 具体的な予定については口を濁しておられました。「春の雪」には、「最高殊勲夫人」主演の若尾文子さんが出演され、 映画をぐっと引き締めておられます。「その時まで、私も若尾さんも生きていれば良いのですが」(笑)。 新作のシンポでないので、どういう展開になるか若干危惧していたものの、笑い声が絶えず、また内容にも しっかり引き込まれたシンポとなりました。

湯布院映画祭レポート06(7)

■25日(金)■ ≪パーティー ・・・ 22:00より≫
 パーティー会場へは、今夜もバスで移動します。昨夜の会場の少し手前にある観光施設内の日本庭園。 参加者は前日より3割増ぐらいでしょうか。2001年以降、パーティー会場は曜日によって固定されており、 今夜の所では今年も牛肉と地鶏の差し入れがあり、炭火で焼いてふるまってくれます。美味でした。
 今夜も映画祭の先輩Oさんからある人を紹介してもらいます。『岡山映画祭』関係者の Oさん(先輩のOさんと同じ頭文字ですが、以後のレポートで登場してもらうのは『岡山映画祭』の Oさんの方になりますので、特に表記上の区別は行なわないこととします)。地元が同じでありながら今までお顔を 拝見したことはなく、初対面になります。Oさんは第2回の本映画祭に参加しておられ、今回が29年ぶりの湯布院。 私からは最近の本映画祭について教えて差し上げ、Oさんからは『岡山映画祭』に関して色々お聞きしました。 同映画祭では昨年、「映画の記憶」という60分のインタビュー映画を製作。1921年に岡山市に生まれ、 映画文化に大きく寄与してこられた松田完一さんという方から映画にまつわる様々な話を聞きだし、 フィルムに収めたもので、この8月と9月に1回ずつ東京で上映会が開催される事になっているのだとか。 本作の存在は私も知っており、昨秋開催された『岡山映画祭』で上映された事は掴んでいましたが、 時間が合わなかったりで足を運べずじまい。気になっている1本です。Oさんとも最終日まで毎日お話しし、 地元開催でありながら今まで余り熱心に参加していなかった『岡山映画祭』に今後はもっと注目していこうと 改心したのでした。岡山での各種上映イベントの場できっと再会できることでしょう。Oさんからは、 今映画祭に岡山市より参加されているご夫婦の存在も教えて頂きました。 これで今夏の『湯布院』には岡山県より5人以上が参加した事になります。

 ゲストの中では、藤井氏が大人気。80歳近い高齢ですが、立ち姿も背中が真っ直ぐ伸びており、 大変お元気に見受けられます。プロデューサーとは思えぬような(?)温和な顔立ち。失礼な表現か もしれませんが、本当に好々爺といった感じです。資料で見た若い頃の写真は、とても同一人物とは 思えぬぐらい迫力ある顔で写っておられましたが。氏を囲む一般参加者は、三島由紀夫ファンが...、 「春の雪」ファンが多かったようです。「原作を読んで、いつか誰かが映画化してくれるとずっと信じていましたが、 ようやく実現して下さり、ありがとうございました」と頭を下げる女性の言葉に、 藤井氏も感激したように頭を下げ返されたのでした。プロデューサーがこんなに人気があるのは、 映画祭ならではでしょう。ツーショットの写真を男女問わず何人もから頼まれ、嬉しそうにカメラに 収まっておられました。氏は岡山県のご出身。私も同県からの参加であるとご挨拶。お生まれは笠岡市なのだとか。 「リング」のあの中田秀夫監督も同所が誕生の地。その他にも笠岡生まれの映画人が5人くらいいるのだと 教えて下さいました。そして、「もし東京へ来られる時はご連絡下さい」とお名刺まで下さったのです。 これは『湯布院』に限ったことではないでしょうが、開放的な映画祭の場で出会うと打ち解けやすく、 すぐに何年も前からの知り合いみたいな関係になる事も少なくありません。何と言っても、 好きなものが同じなのですから。

 昨夜と同じ道を宿へと向かいます。 日程的にはこれで前半が終了しましたが、試写作品は4本の内1本が上映されたのみ。 新作重視の私としては、まだ3分の2以上残っているような感じです。明日の試写はかなりの期待作ですし、 夜のパーティーではある映画人の方と初めての対面を約束済み。充実の1日になりますように!

湯布院映画祭レポート06(8)

 滞在3日目は朝から快晴。夕方には今にも降りそうな時もありましたが、 雨になることはなかったようです。本日の昼間の上映は、1954年の「やくざ囃子」(マキノ雅弘監督)、 1938年の「藤十郎の恋」(山本嘉次郎監督)、1954年の「大阪の宿」(五所平之助監督)の3本。 会場ロビーには、高岡早紀さんが16年前に初参加された際上映された「バタアシ金魚」のポスターも 掲示されており、いつの間にか彼女のサインが入れられていました。目立たない所に書かれているので、 気をつけて見ないと分りません。実は今年新たに、作品への感想・映画祭への意見などを専用のメモ用紙に 記入し貼り出すことの出来る【掲示板】が設けられたのですが、どなたかがそれで教えて下さったのです。 その横には、ゲストの方々を紹介するお写真が掲示されています。それから、 昨年に引き続き過去の映画祭全てのパンフレットを陳列する特製棚も。閲覧は自由。昨年はゆっくり手に 取る時間がなかったので、今日は1本目をパスし、1時間半程かけて未入手のパンフに目を通したのでした。

 昼食を済ませ、12時に一旦宿へ。おかみさんから部屋の移動を頼まれているのです。移動先の部屋にも昨夜は宿泊客がいたため、 この時間に取り決めたもの。荷造りさえしておいてくれたら、こちらでやりますからと言われたのですが、 時間の都合のつく日だったので、帰ってくることに。今度は、道を挟んだ向かいの平屋です。 こちらも3室で、設備・ルール等は同じ。部屋は、やはり1人だと十分すぎる広さです。
 会場に戻って、「大阪の宿」を鑑賞。上映後はシンポジウムが開かれますが、パスして外へ。 肉屋の店先でミンチカツを食べ終えた時、ある人から声をかけられました。昨年まで実行委員を されていたNさん。映画祭HPの掲示板を通じて、また会場でも何度かお話した事のある方です。 今年パンフの実行委員一覧に名前が掲載されていなかったので、気になっていた所。10年を一区切りとして、 一旦離れることにしたのだとか。今夏は、チケットを購入しての参加です。5分ほど立ち話しただけですが、 会えてすっきりしました。次のプログラムは、待望の2本目の試写作品です━━。

■26日(土)■ ≪特別試写「長い散歩」・・・ 18:00より≫
 本作は、当映画祭と同じ時期に開幕し9月上旬まで行なわれた『モントリオール世界映画祭』で見事、 最高賞のグランプリをはじめ3冠に輝きました! 『カンヌ』『ベルリン』『ヴェネチア』が世界三大映画祭。 『モントリオール』はそれらに次ぐもので、『東京国際』や『モスクワ』等と並ぶ世界十大映画祭の一つに当ります。 ただ、この快挙は『湯布院映画祭』閉幕後の出来事ですから、当項とその後のシンポジウムの項では受賞にからめての 記述は控え目にしておき、本レポートの最後である程度まとめて話題にしたいと考えます。

 参加しやすい土曜日ということで、入場待ちの列もかなり長く伸びています。開場は17時30分頃。 客席は瞬く間に埋め尽くされていき、開映15分前には早々と満席に。通路や両端の空きスペースに折り 畳みイスが補助席として並べられていきます。この上映ホールは、通路を挟んで左方席・中央席・右方席に 分れており、私はいつものように前の人の頭に邪魔されにくい左方席通路側の前から7番目辺りに着席していたのですが、 すぐ横に折り畳みイスがずらりと置かれたのは計算外。というのも、そちらの方が高いのでその席に座った人の頭で スクリーンがほとんど隠されてしまうのです。このままで我慢できる訳がありません。 実行委員に訴えようと、場内整理の係りの方を目で探します。

 ところでこの映画は、私が勝手に縁があると思い込んでいる作品で、 奥田瑛二氏の3本目の監督作に当ります。同監督の過去2作「少女」と「るにん」はどちらも本映画祭で試写上映されており、 「長い散歩」も、「るにん」が上映された一昨年(2004年)の映画祭のパーティーで”今度は緒形拳さんを主演にした老人の ハードボイルドを撮る”と監督が宣言していた作品になるのです。その時はまだ題名までは公表されず、私が「長い散歩」というタイトルを知ったのは、昨年(2005年)12月に入場した名古屋市内のミニシアターにおいて。『青春18きっぷ』で遠征したその映画館のロビーで入手した同市の映画情報のフリーペーパーに、【映画「長い散歩」クランクアップ記念 奥田瑛二監督トークショーと「るにん」特別上映会】というイベントの記事が掲載されていたのです。『湯布院映画祭』のパーティー会場で...、 名古屋市のミニシアターのロビーで...、後述する『ゆうばり映画祭』のパーティー会場で...と、 日常の行動範囲外の場所で本作の話題に2度、3度と触れたことから、”縁のある映画”だと思うようになった次第。
 「るにん」は『湯布院』の後、同年の『東京国際映画祭』や2005年の『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』 でも上映されました。私はその『ゆうばり映画祭』にちょうど初参加しており、コンペの審査員を務められた奥田監督が” さよならパーティー”で「3作目はちょうど来年(2006年)の映画祭の時期までには完成予定なので、また 招待上映してもらいたい」とスピーチされたのを耳に。さすがに2年連続という話にはならなかったのか、 それとも完成が間に合わなかったのか、今年2月の『ゆうばり』では上映されませんでした。ということは、 たぶん...と予想した通り、『湯布院』で上映されることに。『ゆうばり』で上映されていても、 『湯布院』にもやって来てくれた可能性が高いですが、私の参加できていない映画祭で初披露されるのは ちょっとだけ悔しい気もするので、その意味からも特別試写に決まったのがより嬉しい作品なのです。

 話が横道に逸れました。上映に先立ち、ゲストの方々が司会のアナウンスを受け舞台に登場されます。 「3作全てを『湯布院』で上映する事になる奥田監督。主演の緒形拳さん。そして、無理を言って木曜日から ずっと残ってもらいました高岡早紀さん」。皆さんが舞台上で横に並ばれた後、まず高岡さんからスタンドマイクの前に、 「3日間で何回温泉に入ったことでしょう。ゆっくり観ていって下さい」。緒形さんはにっこりと、「こんばんは」の ひと言だけ。こういう挨拶が様になるのも緒形さんならでは。その分まで監督が喋ってくれます、 「緒形さん、格好良すぎですよ。高岡さん、無理に残ってるんですか? そうじゃないですよね(笑)。新作完成の度に、 ここ『湯布院』に呼んでもらってます。公開済みなら無理だけど、運命的に公開は映画祭の後ばかり。 上映後には大嫌いなシンポジウムが待っています。今夜もサンドバッグ状態にされちゃうのかなあ(笑)」。
 ゲストの皆さんが拍手に送られ袖に下がられます。間もなく上映開始。が、スクリーンがほとんど見えない状態は まだ解消されていないのです。客席後ろのスペースには立見も多数。もしかして通路の折り畳みイスの横にまで床に 座る客を入れるかもと予測していたのですが、さすがにそれはなかったので、すぐ隣りとその一つ前の折り畳みイスの お客に、中央席側に出来るだけ寄ってくれるよう要請。これで何とか視界が開けました。 2つ前のイスの人の頭がまだ邪魔になっており、スクリーンの右下の辺り...全体の10分の1ぐらいが隠されたままですが、 我慢するしかないでしょう。場内が暗くなります━━。

 「長い散歩」は、家族を顧みなかったことに自責の念を抱く初老の元校長が、 ぼろアパートに引っ越し、隣りの部屋で虐待を受けていた5歳の少女を連れて、ある場所をめざして旅する物語...。 スクリーン上の隠された10分の1を、見える部分から想像し補完しようと集中したのが却って良かったのか、 2時間16分をほとんど身じろぎもせずに観終わりました。しわぶき一つ場内から漏れないような、静かな迫力を 秘めた映画。演出が上手くなったなぁ、と何度も感じました。私は、監督デビュー作「少女」が大好きなのですが、 あれは期待せずに観たら、しっかり映画になっており物語にもガツンとやられたのでそのギャップの大きさでより良く 思えた面もあったでしょう。本作の完成度はかなりのもの。感動の押し付けもありません。
 緒形さんの晩年の代表作を俺が撮るんだとの意気込みで、監督は大先輩にも臆せずどんどんダメ出しをしたのだとか。 ”老人のハードボイルド”のパートナーは、5歳の女の子・幸(杉浦花菜)。子供と動物とは共演するな、食われて しまうからと言われている通り、強敵です。幸はかなり性根がすわってます。自分のことを「ガキ!」と名乗り、 アスファルトの地面や土手の斜面を裸足で思い切り駆けていくのですから。背中につけているのは、ダンボールで 作った”天使の羽根”。なぜいつもそうしているかの理由も不自然ではありません。花菜ちゃんはまだ小さくて 自分で演技することは出来ず、ほとんどが演出によって上手く演技しているように見せたとの事ですが、ハリウッドの 名子役ダコタ・ファニングの名前が思い浮かび、彼女が注目されるきっかけとなった「アイ・アム・サム」を連想しました。 物語的にも、同作と似た要素がこの映画にあるのです。監督自身も前2作と同様、重要な役でご出演。2人を追う刑事役です。 木曜日の試写作品は「悲しき天使」でしたが、「長い散歩」にも副題でそう付けたくなりました。ラストシーンの緒形さんの 背中に様々な思いが去来します。
 スクリーンに思い切り拍手。シンポは当然、最前列狙いですが、通路に折り畳みイスが並べられているため、 なかなかホールを出ることが出来ません。ようやくロビーへ。つい小走りになり、階段を2階へ急ぎます。

湯布院映画祭レポート06(9)

■26日(土)■ ≪シンポジウム(「長い散歩」)≫
 出遅れが響き、2列目にしか座れませんでした。間もなくぎっしり満員となり、 立見スペースを確保するため、司会の誘導で、座っている全員が椅子ごと1列分ぐらい前へ移動。 シンポも本作が最高の入りでした。県内各地からこの日だけやって来て、試写〜シンポ〜パーティーの コースで参加される方が多いのでしょうか。
 いい作品を観た後の、”さあ、シンポもきっと盛り上るぞ!”という雰囲気で適度にざわつく場内に、 ゲストの皆さんが入って来られます。最初に司会からひと言釈明が、「これだけの人数になると、 ホールでそのままシンポも行なうのが普通ですが、客席との距離が近いこの会場でやりたいとのゲストからの 要望なので、ご了承下さい」。この方が嬉しいです。まずプロデューサーの橋口氏が、 製作の経緯を簡単に説明。後を奥田監督が引き継ぎます。マイクを手に起立。意欲の現れと、 2列目以降の客はゲスト席からも顔がよく見えないので、客席全体を見ながら...、 みんなからも顔を見てもらいながら話したかったのでしょう。「3年前、緒形さんとコーヒーの CMでご一緒しまして、共演者として観察していたら、緒形さんで映画を撮りたくなったんですね。 アメリカなどでは60代、70代の俳優が映画に主演し評価を受けるケースが多いけど、 日本では名優を脇に追いやりがち。緒形さんはずっと主演を続けられているが、この所がつんという作品がないのでは。 CM撮影の帰りには、もうストーリーを考え始めてました。 1年後ぐらいに具体的な物語がまとまり、出演依頼の電話をかけたという訳です」。

 高岡さんは、子供を虐待する母親という難しい役どころ。撮影の苦労話をお訊きしますが、 特別つらくはなかったとの事。「子役の花菜ちゃんとも仲良かったんですよ。映画の設定に合わせて 距離を置かなくても、撮影は出来ました」。監督が補足します、「子供を激しく叱るシーンの前、 高岡さんはすごく優しくしてました。子役の子は演技と呼べるほどのものは出来ないんですよね。 それで、撮影に入ると、さっきまで優しくされていた高岡さんに乱暴にされ、花菜ちゃんは素で大泣きし、 結果的に名演になってくれました」。緒形さんはこの映画をご自身の出演作の中でも最高に近い作品ではと 自己評価されているようで、「監督の映画は1作ずつ前へ進んでいるんですよね。4作目に期待します」。 本映画祭では発表されませんでしたが、その4作目も9月中にクランクイン予定だそうです。
 客席からの発言は活発に続き、私もどうしても感想をお伝えしたくて、思い切って挙手。実行委員の方が マイクを届けて下さるのを待って、「この映画は2年前のパーティーで監督が”今度は老人のハードボイルドを 撮る”と宣言された作品ですが、こういうハードボイルドだとは思いませんでした...、いい意味で裏切られました。 ほとんど身じろぎすることなく、それぐらい惹き込まれて観ました。俳優はよく”子供と動物とは共演する もんじゃない”と言われています、食われてしまうので。けれど緒形さんは、全くそんな事はありませんでした。 奥田監督がCMで共演した緒形さんを見て、一緒に映画を撮りたいと思ったように、 本作の緒形さんを観て同じように感じる映画人が何人も出てくるでしょう。そういう作品に主演して、 またここへ帰って来て下さい」。緒形さんと、今年1月に公開された2作目「るにん」主演の松坂慶子さんは、 主演賞の有力候補になるかもしれません。無事発言できた事と、シンポで発言したくてたまらないような映画に 出合えた事の両方に、ひと安心。昨年は残念ながら、そこまでの作品がありませんでしたから。

 高岡さんは確か2児の母。客席からの「ひょっとして地でやってるんじゃないかと錯覚するぐらい真に 迫った演技でした」との感想に、ええっ!?と苦笑い。表情が可愛かったです。「この映画の監督の演出は 良いです、何もしないのが」と緒形さん。「役者としても共演したいですね」━━本作では、追う者と追われる 者の関係ですが、2人のからみは余りないのです。ラストについて監督は、「ほんとに悩みました...。でも、 どう考えても、ああするしかなかったんです」。その長回しを苦にせず、観客の目を引きつけて離さないのは、 さすが緒形さん。「あの後、主人公はどこへ行くと思います?」と監督は客席に問いかけ、描かなかった それから先の物語を語ってくれました。客席からは「さっきのあれは喋りすぎ(笑)。観客に委ねて下さい」と いうクレーム(?)も。私は、聴いて良かったと感じました。
 東京での公開は11月中に、名古屋は地元ロケ作品なので拡大公開を予定━━と発表されましたが、 『モントリオール世界映画祭』での受賞が芸能ニュースで大きく取り上げられた際の最新情報では、 ”東京で12月にお正月映画として公開”となっていました。最後に、客席からこんな意見も出た事を紹介して、 この項の終わりとしましょう。「監督は3作とも重要な役で出演されていますが、そろそろ演出に専念しても良いのでは」。 監督は「ほんとはそうしたいんですけどね。こう見えても私もそれなりの俳優でして、 もし私の役を演じられるぐらいの役者を別にキャスティングするとなると、結構なギャラがかかっちゃうんです」と 苦笑しながら返答。客席は一発で納得です。確かに、大手配給でもないのにここまでよくぞ3作を完成させたものです。 今回の『モントリオール世界映画祭』での受賞で何より嬉しいのは、これで公開館が増えより多くの観客に観てもらえる だろうという事。監督、ご自身の出演しない映画を撮れる日が、また一歩近づきましたね。おめでとうございます!

湯布院映画祭レポート06(10)

■26日(土)■ ≪パーティー ・・・ 22:00より≫
 今夜のパーティー会場である[ゆふいん麦酒館]へは徒歩で移動します。 10分足らずの距離。入口で、生ビールのジョッキ1杯券が1枚ずつ渡されます。 館内に入ると早速その列につき、普通か黒かを選んでジョッキに注いでもらい、好きなテーブルへ。 間もなく定刻となり、始まりの乾杯の後、まずは飲食に専念する時間となります。参加者は300名を超えているでしょうか。 正確な人数は分らないものの、今夜が一番の賑わいをみせているのは確か。バイキング方式であり、 好みの食べ物を皿に盛り付けていきますが、正直、この会場の料理については年々質が落ちている気がします。 3〜4年前はもっと色んな種類が並べられていたもの。それでも、雨が降っても大丈夫な完全屋内フロアと いうのはここの強み。やはり、外すことは出来ません。まあ、料理は二の次のパーティーですし、 それなりにお腹もふくれたので、主目的である”映画人との交流”に励むことにしましょう。

 今映画祭の4本の試写作品の内、最後に題名が発表されたのは、明日の午後に上映される「幸福(しあわせ)のスイッチ」という、 女性監督・安田真奈氏の初めての劇場公開用35mm作品。氏は、以前大阪で会社勤め(家電メーカー)をしながらインディーズ系の 映画を撮ってこられた方(現在は退職し、監督や脚本に専念)。16mmで撮った2000年の「オーライ」では 【日本映画監督協会新人賞】にもノミネートされ、私も同作の頃から監督の名前を記憶し、「オーライ」や次作の 「ひとしずくの魔法」をいつか観たいとずっと願っていたのです。残念ながら、一部でしか上映されなかったため、 結局鑑賞できずじまい。早く全国の劇場で公開されるような作品を撮ってほしいものだと思っていたら、今年になって 遂に映画雑誌で本作のニュースをキャッチ。ただ、『湯布院』で上映されるという可能性は全く考えていなかったので、 映画祭のHPで発表された時には、よしっ!と反射的に拳を作ったものです。待った甲斐がありました。

 「幸福のスイッチ」の主演は公開作の続く上野樹里ちゃんで、他に沢田研二さん・本上まなみさん等が出演。 こういう有名俳優と組むのはたぶん初めての監督が、どんな演出手腕を見せてくれるのかにも興味を惹かれます。 そして、何年も”観たい!”と願っていた安田監督の作品に『湯布院』で会えると分った事が嬉しくて、 「幸福のスイッチ」をインターネット検索してみたら監督のHPがあることを発見。その流れで訪問し、掲示板に” 『湯布院』でお会いできるのを楽しみにしています”との書込みまでしてしまったのです。もちろん返信を頂き、 2〜3度やり取りをした後、今夜のパーティーでの対面を約束したという次第。4〜5日前、監督は” 体調を悪くしてしまいました。何とか湯布院までには治さなければ”とご自身のHPに書かれていました。 ちゃんと到着されているでしょうか。
 監督のお顔は、今映画祭のパンフのゲスト紹介写真で初めて拝見。想像していたイメージとあまり違いませんでした。 このパーティーでの一番の目的は安田監督にお会いする事なので、箸を置くと早速、捜索に出発します。間もなく、 隅の方の椅子に座り、一般参加者と思しき4〜5名(監督のファン?)に囲まれて談笑している監督らしき人を発見。 写真と実物とは多少異なるものですし、今日はメガネをかけておられるので、ご本人かどうか確証が持てません。 ちょうど実行委員の女性がやって来て、その人物に何事か伝えられたので、用件が終った所で彼女に確認。 やはり安田監督だったので、近寄り、「初めまして、HPに書き込みさせてもらった者です」と声をお掛けし、 名前入りの全日券のパスをお見せした上でご挨拶させてもらいました。監督は周りの人たちに私の事を「HPに 書き込みしてくれた人」と紹介してくれ、その人たちも”ああ、あの━━”という顔をしたのでした。後で知りましたが、 彼らはこの映画の関係者だったようです。若い人や若く見える人ばかりだったので、分りませんでした。

 監督には、まずお体の具合を確認。「本調子ではないんです。さっきのシンポも、明日の様子見として 傍聴したかったんですけど、ホテルで静養してました」とそこまでは立って話しておられたのですが、断わって着席された のでした。シンポ初体験のゲストは、客席との距離が余りにも近いので驚かれる方が多いもの。監督には参考として、 シンポに臨む心得のようなものを事前にお伝えしたものの、実際に客席からでも体験してもらうのが一番。そのチャンスを 見送ったのは残念ですが・・・、「でも、色々教えて頂いたので、初めてでもそんなにまごつかなくて済むと思います。 有難うございました」と監督からお礼の言葉を貰ったのでした。明日の上映には、元いた会社の九州支社の方が何名か 来場されるのだとか。混み具合の予想や、ホールの収容人数についての監督からの質問にもHPを通じてお答えしていたので、 それらも含めての先ほどのお礼です。続いて、以前から監督とその作品について注目していた証拠の品を、一応提示します。 私は、1970年度以来毎年映画のベストテンを選出し冊子にまとめている某サークルに2001年度から参加しているのですが、 ちょうどその年の選出コメントに”心残りは岡山未公開の以下のような作品を未見ということ”と記し「オーライ」の題名を 挙げていたのです。監督も、「おお・・・」と納得。
 後で、『宮崎映画祭』のSさんと『岡山映画祭』のOさんにも、監督を紹介させてもらいました。 これが縁で、いつの日か両映画祭で監督の作品が上映されれば嬉しいのですが。私は基本的にサインや写真を お願いすることはありません。こういう、ちょっとした縁を感じる方は別。安田監督には記念として映画祭の パンフにサインを頂きました。今映画祭で貰った唯一のサインです。

 そうこうする内、パーティーも半ばとなり、ゲストの皆さんを壇上にお呼びして挨拶を頂戴する時間に。 「長い散歩」組から。奥田監督は、「デビュー作の『少女』を撮ったのは2001年ですが、最近になってやっと本当に 映画監督になれたかなという気がしています。海外の映画祭に行った時に観客から”ありがとう”と言われたからなんです。 こちらからも”ありがとう”を返すと、その人は”あなたは監督なんだから、ありがとうを言わなくてもいい。言うべきは 観客の方なのだから”。でも、やっぱり”ありがとう”を言っちゃうんですよね。これからも、7作、8作とどんどん撮って いきますので!」。緒形さんはここでも短く、「静かな映画を作るのは力が要ります」。映画を観た者には、 それが凄い褒め言葉だとよく分ります。監督の奥さん・安藤和津さんもおいでになっており、 「奥田監督を自宅で監督している(笑)、安藤和津です。この作品は家族の力を合わせて作りました。映画と いう子供を育てて下さるのは、皆様です。この愛ある映画を、どうぞ育ててやって下さい!」。安藤さんと2人の娘さんは、 本作に共同脚本家として名前を連ねているのです。仕事をどんどん家庭に持ち込む奥田監督から本作の構想を聞かされ、 今まで以上に作品に深く関わりたくなり家族中で物語を練り上げていったのだとか。母娘3人合わせてのペンネームは 、”桃山さくら”。桃とさくらは娘さんのお名前で、女房は山の神とも呼ばれるので、こうしたのだそう。仕上げは、 脚本家の山室有紀子さんが担当(映画化作品は「タッチ」と、現在松嶋菜々子主演で撮影中の「眉山」)。 少女の背中に”天使の羽根”をつけるアイデアは彼女が思いついたもの。山室さんもゲストのお1人、 「今日は色々感想を聴けて、嬉しかったです」。緒形さんは、5月にお亡くなりになった今村昌平監督の映画に も何本か出演されています。奥田監督との演出の違いを質問され、「今村監督はダメ出しは余りなかったなあ。 あんなにダメ出しするのは、奥田監督ぐらいなもの。だんだん、ダメ出しされないと物足りなくなってきました」(笑)。

 続いて、明日の1本目で上映される「脱皮ワイフ」組が壇上に。本田隆一監督は、 「さっき着いたばかりですが、温かい雰囲気に感激しています」。製作・脚本の永森裕二氏は、 「朝早くから観る映画じゃないんですが、皆さん、おいで下さい」。主演男優の小沢和義氏も、 「朝早くから観る映画じゃないんだけど、会場で待ってます」。主演女優のmikoさんは同じパターンかと思わせて、 「朝早くから...この映画を観て、1日ハッピーに過ごして下さい」。どんな映画かは、本作の試写上映の項で説明しましょう。
 「幸福のスイッチ」組は、残念ながら俳優ゲストはなし。主演の上野樹里ちゃんは、あちこちの映画の現場から引っ張りだこ ですし、10月からは月9に主演。本上まなみさんは、第一子を妊娠中である事が発表されたばかり。ということで、 壇上には安田監督と伴野プロデューサーのお2人のみ。監督は緊張の素振りもほとんど見せず、 「素敵な映画祭に招待して頂き、ありがとうございます。メーカーの会社員を何年もやりまして、監督業はまだ駆け出しです。 映画はつたない所もありますが、完成まで3年かかってます。ぜひ観て下さい。ジュリ(上野樹里)&ジュリー(沢田研二) コンビが頑張っていますから」。伴野氏は監督と同年輩(30代)なのでしょうが、20代にしか見えません、 「熱く盛り上っている映画祭ですね。先ほど『長い散歩』のシンポジウムを見せてもらいました。明日は、 どうぞお手柔らかにお願いします」。
 最後は「フラガール」組の李相日(リ・サンイル)監督と李鳳宇(リ・ボンウ)プロデューサー。こちらも俳優ゲストは ゼロ。本作は約1ヶ月後の9月23日の全国公開に向け、現在は試写会や宣伝イベントの真っ最中ですから、 無理からぬこと。監督とプロデューサーも、厳しいスケジュールを調整してやって来てくれたのかもしれません。 演出の腕前ほどには話術が巧みでない大柄で優しい顔つきの監督は、普通の挨拶を。プロデューサーの李氏は、 もうすっかり『湯布院』の顔なじみ。なのに、「ゲストのスターが来ていませんが、観てやって下さい」と 拍子抜けする短さ。翌日、映画を観た後で、あれは作品に絶対的な自信を持っていたからなんだ、と思い至ったのでした。

 再び歓談タイムとなり、奥田監督のそばで話し掛けるチャンスを窺います。「長い散歩」がクランクアップしたのは、 昨年の11月下旬。その後すぐNHKのトーク番組に出演し話題にされたので、よく記憶しているのです。 そして、完成はたぶん年明けの1月か2月になるであろうから、2月下旬開催の『ゆうばり映画祭』に2年連続で 出品される可能性大か、と予測したものでした。が、結果はそうはならず...。 周りの人数が減ったところで、監督にその事をお訊きしてみました。「長い散歩」はやはり1月下旬か2月上旬には 完成したそうですが、『ゆうばり』の招待作品を選定する時点では、いつ完成させられるか未定であったためとの事。
 李プロデューサーとも、昨年に続きお話できました。「フラガール」は、ミニシアター中心の公開になるかと予想していたのですが、 シネコンの多くでかけられる事になり、最終的には全国200スクリーン超で上映されるようです。 「上映館数がすごいですね。やはり、試写の評判が良くて、これだけ拡大公開される事になったのですか?」。 「そんな所ですね」と頷かれます。昨年も、氏のプロデュース作「パッチギ!」について話し掛け、 「パッチキ!2」を作りますからと教えて頂きました。「もう、かなり具体化したのでしょうか?」。 間もなく正式発表の予定なのだとか。10月クランクインで、来年6月公開の予定。数年後の物語となり、 キャストは一新されるそう。「パッチギ!」で大ファンになった沢尻エリカさんの続投がないのは残念ですが、 彼女に匹敵するぐらいの新星を発掘してくれる事に期待するとしましょう。
 高岡早紀さんとは結局、お話できぬまま終ってしまいました。緒形さんとも...。話し掛けようとすれば チャンスはあったのですが、何を言うかすぐには浮かんでこなくて。安田監督と無事対面でき、 かなり満足していたということもあります。まあ、シンポで発言し、高岡さんや緒形さんにも聞いて頂けたので、 十分です。今日は、夕方から凄く盛り上った日となりました。明日の最終日も、このままの勢いが持続されますように!

湯布院映画祭レポート06(11)

 いよいよ、最終日。今日も快晴です。会場へ向かう途中、『宮崎映画祭』のSさんと一緒に。 昨夜のパーティーでは、かなり前に引退した昔ファンだった女優が一般客として来場しているのに気づき 、サインを貰ったと嬉しそうに話してくれました。Sさんは、本日の1本目「脱皮ワイフ」上映後のシンポまで参加され、 由布院駅を14時頃に出発する電車で宮崎へ帰られます。クロージング作品の「フラガール」を観られないのが心残りだと おっしゃっていました、「まあ、1ヶ月後には公開されるから」。私も「そうですよね。すぐに一般公開されますから」と 話を合わせながら、”でも、映画館での普通の鑑賞だと拍手できないからな〜”と心の中では思っていたんです。 ごめんなさい(Sさんには、帰岡後「フラガール」の感想をお伝えしました)。この後はもう会えないかもしれないので、 簡単に別れの挨拶兼再会の約束を交わしておきます。これからは、ネット上での交流が始まることでしょう。

■27日(日)■ ≪映画祭発掘作品「脱皮ワイフ」・・・ 10:00より≫
 この映画は新作ではなくて、ビデオ&DVD用に撮られた2004年の作品。今映画祭から、 知られざる傑作や才能溢れる新人の紹介・発掘のため日曜日の午前中に上映枠が設定され、その第1弾として 選ばれたのが本作なのです。なかなか良い試みでは。何年か続けていくと、この枠で取り上げた監督がそれを きっかけにステップ・アップして、今度は試写作品の監督として帰ってくる━━というような事もきっとある筈。 新人監督や若手監督の”登竜門”的な場になっていくよう、参加者の1人として応援していくつもりです。 だからといって、上映作品の選出において余計な力が入っていないのが(そう感じられるのが)、『湯布院』の良い所。 何しろ、昨夜のパーティーでゲスト自らおっしゃっていたように...、またある言葉をもじって付けられた題名から 分るように、”朝から観るようなものではない”映画なのですから。

 場内は5〜6割の入り。新作の特別試写ではないし、題名から女性層に敬遠されがちだったということもあるのか、 例年のこの時間帯の上映に比べれば少なめですが、これだけ入っていれば寂しい感じはしません。ゲストの皆さんが舞台に 登場され、監督から順にスタンドマイクの前に立たれます。「朝早くからご来場いただき、ありがとうございます。 朝から観るものかな? まあ、深く考えずに観て頂けたらと思います」。主演男優の小沢さんの役はちょっと妖しい (怪しい?)ミュージシャン。ということで、ロックンローラー風のマイクパフォーマンスで場内を沸かせ、 「心して観て下さい」。mikoさんは困ったように小沢さんを見て、 「やりにくいです(笑)。観た後、劇中で流れる唄を口ずさんで帰ってもらえたらと思います」。 プロデューサー兼脚本家の永森氏が締めます、「晴天に似合う映画を楽しんで、忌憚のないご意見をお聞かせ下さい」。 先ほどのパフォーマンスの続きで、小沢さんはスタンドマイクを片付けながら袖へ(拍手)。

 主人公の溝呂木はじめ(小沢和義)は、オースティン・パワーズ風の衣装に身を包み、マッシュルームカットのかつらを かぶった、一度見たら忘れられないスタイルのミュージシャン。茨城に住んでいた彼が上京し、彼のファンだったという 若くて綺麗な美樹(miko)と出会い、結婚します。けれど彼女には、大きな秘密があったのです。それは、”ある事”が ある回数に達すると脱皮してしまうという事━━。映画はそれなりにエッチなシーンもありますが、全体的には売れない ミュージシャンの悲喜劇が中心で、おかしくてちょっと切なくちょっと奇天烈なラブストーリーといった印象です。 「間宮兄弟」のようなくすくす笑いに溢れており、この枠に選ばれたのも納得の仕上がり。劇中ではじめが唄う 映画オリジナルの曲もなかなか良くて、ほんとに口ずさんでしまいそう。実は、後のシンポでCDが 1階販売コーナーで売られていることを知り、つい購入してしまったのです━━【溝呂木はじめベストヒット曲集】。 4曲入りで800円。お買い得だったのでは。小沢さんとmikoさんのサイン入り。ジャケットをよく見ると、 定価1,000円だと印刷されてありました。
『湯布院』特別価格だったのでしょうか。今もそのCDをかけながら、これを書いてます。

■27日(日)■ ≪シンポジウム(「脱皮ワイフ」)≫
 それほど急がなくても最前列につけ、後から入って来られゲスト席の右端に座ったmikoさんが間近に見えました。 皆さんからご挨拶。永森氏は、「『痴漢電車』とかそういうあからさまなものは作りたくなかったんですね。一番、 事件の起こりそうもない”性の現場”が、夫婦の関係。そこの所で何か出来ないかとやってみたのが、この作品です」。 小沢さんは、小道具として使われた”脱皮した後の皮”について、「カサカサうるさいんですよ、あれ。 朝から皮の話も何ですけど(笑)。撮影当日に用意されたものなんで、ええ〜!って素の反応で驚きました」。 本田監督もその話題を続け、「時間に追われていたので、僕も現場で初めて皮を見ました。助監督が、 まだ乾かしたりしてましたね」(笑)。mikoさんはこれが演技初体験、「今まで脱皮する演技をした人なんていなくて、 どう演じていいか分らなかったんですけど、現場で教えてもらいました」。
 客席からの意見は、「職場の女性にも薦めたい映画」「脱皮なんかさせなくても、それ抜きでも映画として 成立しているぐらい素敵でした」など好意的なものが多数。永森氏が後の方の意見に答えて、「『脱皮ワイフ』と いう題名からスタートした企画なので、脱皮を見せない訳にはいかなかったんですが、今日観て、正直見せなくても 良かったかなぁと思いました」(笑)。確かに映画としては脱皮など描かない方が質が高くなったかもしれませんが、 観客の多くは、あれはあれで愛しているのでは。
 綺麗な靴を履いたmikoさんは、ノースリーブの適度に派手なワンピースでずっとお行儀よく足を揃えて座り、 良家のお嬢様といった感じ。彼女を起用した経緯について永森氏は、「別の作品に出てもらう予定だったのですが、 ちょっと他の女優になりまして。で、この作品で改めて声をかけさせてもらいました」。mikoさんはすんなり出演 OKとはいかなかったよう、「まずタイトルを見て、どん引きでした。でも、台本を読んだら面白くて。 タイトルを変更してくれないか、一度お願いしてみたんです。━━”だめです”と即答でした。ああ、 それだけ思い入れのある作品なんだと知り、出演を決意。実際に演じてみたらイメージが変わり、 今ではいいタイトルだなと思っています」。

 本作は音楽映画としてもなかなかのレベルに達しています。「”溝呂木はじめ”のパート2が観たい!」という意見も 出ていました。永森氏も、もっと本格的な音楽映画を企画中なのだとか。実現しますように! さて、来年は当枠で どんな作品が上映されるのでしょう。映画祭の楽しみが、また一つ増えました。

湯布院映画祭レポート06(12)

■27日(日)■ ≪特別試写「幸福のスイッチ」・・・ 13:30より≫
 昨夜の反省を踏まえ、中央席右端通路側の前から4列目に着席(当ホールのスクリーンはそれほど大きくないし 舞台の奥にあるので、この位置の席でも至近距離にはなりません)。最前列前の右横にも出入口があり、 もし上映後の退場時に通路が混み合ってもそこから出られるので、今日はこの席にしました。それに、 舞台挨拶の際に安田監督をしっかり見たくて。席は順調に埋まっていき、開映間近には満席に。最終的には、 後ろのスペースに補助イスも並べられたようです。例年この枠の上映は、必ず満員近くになるという訳ではなく、 失礼ながら集客を心配していたのですが、嬉しい誤算でした。監督が以前勤めていた会社の皆さんも予定通り到着され、 観易い席に座られているでしょうか。
 舞台挨拶が始まります。伴野プロデューサーより、「大勢お集まり下さり、ありがとうございます。 初の一般試写です。大切な第一歩を湯布院映画祭で迎えることが出来、光栄に思っています」。 安田監督は今日も落ち着いて笑顔です、「初めまして。ご招待、ありがとうございます。それから、 ご来場頂きまして、ありがとうございます。まだまだヒヨッコで、初の劇場公開作品になります。 電器屋さんというのは、お客さんから家の鍵を預けられ”留守の間に修理しておいて”と頼まれるような、 実は結構熱い仕事なんです。脚本は10稿ぐらい直しました。執念の作品を、優しい目で観てやって下さい」。 宣伝担当の人や、音楽を担当した長身の原さんからも短く挨拶がありました。原さんは昨日の朝、私と同じように 『青春18きっぷ』で大阪を出発。
その日中には到着できず、途中で1泊して本日湯布院入りされたのだそう。

 さて、どんな映画になっているのでしょうか...。【”お客様第一!”で儲けは二の次の電器屋の父(沢田研二)と、 そんな生き方が理解できなくて反発する次女・怜(上野樹里)。和歌山県田辺市を舞台に、ガンコ親父と三人姉妹の 家族の絆を明るく優しく描いた爽やかな感動作】(チラシより)。
 中盤までは、正直、可もなく不可もなくといった感じでした。けれど、何気ないエピソードの積み重ねが、 いつしかボクシングのボディブローのように効いてきて、とうとうあるエピソードが避けきれないパンチとなって 私の鼻をかすめたのです。鼻の奥がツンとして、気づいた時には頬がひと筋濡れていました。このエピソードは、 怜が電器屋の仕事を真剣に考えだすきっかけになったもの。作者の術中にまんまとはまってしまったようです。 その後にも、じわりと涙を滲ませたシーンがもう1ヶ所。まさか、泣いてしまうなんて。2つ目の嬉しい誤算です。
 前述したように、劇中で妊娠する長女役を演じた本上まなみさんは、本映画祭の1週間ほど前に初めての妊娠を発表。 本当に”幸福のスイッチ”が入った状態となりました。また、主演の上野樹里ちゃんは10月からフジテレビの月9ドラマ 「のだめカンターピレ」の主役に決定! この映画に携わった俳優・スタッフたちの多くには、色んな幸福が訪れている のかもしれません。本映画祭に招待された事だって。そんなことを思いながら、エンドロールを満足感に包まれて 見つめました。心がほっこりしてくる映画。地味な題材をよくこれだけの作品に仕上げたものです。惜しみない拍手を スクリーンに。安田監督の作品と最良の形で出合えました!

湯布院映画祭レポート06(13)

■27日(日)■ ≪シンポジウム(「幸福のスイッチ」)≫
 上映ホールの通路はそれほど混み合わなかったし、俳優ゲストが来られず良い席狙いの人も 多くなかったので、最前列の希望の席が取れました。白状すると、もし映画がいまいちの出来でシンポも盛り 上がりそうになかったら、2列目以降の席でひっそりと参加するつもりでいたのです。余計な心配でした。 荷物を置いて席を取り、トイレに行って来た後は、シンポ開始までの数分間で発言したい内容を急いでまとめます。  やがてゲストの皆さんが入場され、シンポがスタート。自主映画歴の長い監督にここまでの歩みをお訊きします。 パンフの経歴紹介には、大学在学中より8mm映画を撮り始め、卒業後は映画の世界に進むべきか悩んだ末、”会社員と しての経験や視点が大切”と家電メーカーに就職。会社員時代も年1〜2本撮り続け、【OL監督】として各メディアに 取り上げられたのだとか。「とにかく年1本作り続けよう。そうすれば、あわよくばプロになれるチャンスが来るかもと 思って、やってました。映画祭でちょくちょく賞を貰うようになったり、テレビ局とのつながりも出来てきたのですが、 土・日や盆休みに撮るのも限界になり、2002年に退職しました」。
 伴野プロデューサーも自主映画出身。安田監督とは、色んな映画祭でニアミスしていたそう。「監督のHPを見て、 ”何か企画ありますか”とメールを送って、一度会おうという話になり、組むことになったんです」。音楽担当の原さんも、 きっかけは監督のHP。監督はある時点では、色々あって「幸福のスイッチ」の音楽を自ら手がけることにしていたそうなのです。 原さんはその情報を見て、”この監督は起用貧乏な人なのでは”と直感し、同じくメールで連絡を取って 担当することになったのです。劇場公開される映画の音楽を担当するのは、初めて。原さんも若く見え、 たぶん音楽だけではまだ食べていけないので、『青春18きっぷ』でやって来られたのでしょう。どこの映画祭も、 予算が潤沢にある訳ではありません。本映画祭の場合、招待されるのは1作品3人までなのです。原さんは、 当地での宿泊はともかく、交通費は負担してもらえないゲストだったため、自費参加となったのでしょう。 こういうゲストの方は、他の組にもたくさんいらっしゃいます。

 話を本筋に戻しましょう。この映画が誕生するきっかけはインターネットだったんですね。 これも時代というものでしょうか。勿論そういうきっかけだからといって抵抗感などは全くなく、 それどころか、ちょっといい話にも思えます。私も最初の頃に挙手、「岡山から来ました○○と申します」━━このシンポでは、 誰に言われた訳ではありませんが、発言者の多くがこう名乗るのです。名乗らなくても全然構いません。 「地域の住民とこんな密接につながっている所なんて、今の世の中で一体どこにあるんだ?! でも、 どこかには在ると信じさせてくれたのは演出の力でしょう。俳優は皆、好演でしたが、印象に残ったのは、 耳の遠いおばあさんを演じられた方(新屋英子)。確か『ジョゼと虎と魚たち』でジョゼのおばあさん役をやられて いたと思いますが(監督も嬉しそうに頷かれます)、ラストの笑顔が瞼に焼きつきました。脚本は10稿を重ね、 3年かけてようやく映画を完成させられたとか。監督は外見からは想像できないぐらい頑固な方なのでは。 新人監督はデビュー作は撮れても、2作目を撮る方が難しいと言われます。夕べのパーティーでお話しした とき監督は”今度は5年くらいかかるかもしれない”とおっしゃってました。そういう覚悟と頑固さがあれば、 きっと相手が音をあげるぐらい脚本の直しにも耐えられ、 2作目の完成に漕ぎ付けられるでしょう。また、ここへやって来て下さい」。

 客席からは、「悪いことはないけれど、平板な印象を受けてしまう」 「女性監督ならではの苦労話を聞かせてもらえますか」という発言も。監督は、 「素朴な映画があってもいいかな、と思って作りました。言われる通り、毒がないんですよね。生活者としての 視点はあるが、芸術家としての視線がまだ足りないと思います。後の質問の件ですが、この現場には女性が多かったんです。 撮りやすいようにプロデューサーが配慮してくれ、メインスタッフも撮影・美術を女性にしてくれたので、和やかな現場でした。 女性ならではの苦労話は会社員時代にも当然ありましたが、女性ということで低く見られても、逆に楽な所から始められるので、 気にしてませんでした」。伴野氏も今の発言に関連して、「怒鳴り声のほとんどない、面白いというか、珍しい現場でした。 そういう雰囲気が、作品のタッチにも出ているのでは」。なるほど。

 映画の印象的なエピソードの一つに登場するのが、餅つき機。監督が熱く語ります、 「あれって、つき上る最後の数分間は家族みんなで見入ってしまうんですよね。昔、 テレビの前に全員が集まっていたように。現代で家族を集合させられる電化製品って、 これぐらいしかないんじゃないでしょうか。このエピソードは、10年ぐらい前からいつか使ってやろうとずっと狙って たものなんです」。関西人の監督は気さくで、シンポでの受け答えでもざっくばらんな感じがとても好感を持てました。 だからこそ、肯定・否定取り混ぜて客席からの発言が途切れることがなかったのでしょう。 「幸福のスイッチ」と安田監督については、何だか半分身内みたいな意識を抱くようになってきており、 客席の反応が気になりましたが、好意的な意見が6割以上あった筈なので、ひと安心。傾向としては、 若い人の方が否定的な感想が多かったようです。映画の内容からして、仕方のない所でしょうか。 その一方で常連の中高年の方からは、「家業で商売をやっていますが、2度3度と泣けました。 商売人が観れば、涙が出るに違いありません」という熱い賛辞も。

 締めの挨拶で、プロデューサーは公開予定を発表。ロケ地の和歌山で10月7日に先行公開された後、 東京でも同月に『テアトル新宿』にて(その後、10月14日公開という事が判明)、大阪は後日『テアトル梅田』にて上映されます。 監督は、「真剣に観て、真剣に意見を出してもらえて感謝しています。 意見がないのが一番さみしいですから。次また、3年から5年かけて作りたいと思っています。長い目で見て下さい」。
 「幸福のスイッチ」は、劇的な展開がある訳ではないし、特撮などとも縁のない映画です。けれど、 夜に家々の電灯が点いていることの有り難さに気づかせてくれる映画...、人に優しくなれる映画です。 応援していきたい監督が、また1人増えました。

湯布院映画祭レポート06(14)

 今映画祭も、いよいよクロージング作を残すのみとなりました━━「フラガール」。 この項を書き込もうとしている本日は、9月23日。狙った訳ではありませんが、ちょうど公開初日に当ります。 もう夕刻なので、3回ぐらいは上映が行なわれたことでしょう。早速、ご覧になった方もいらっしゃるのでは。 解禁になったと都合よく判断し、本作についてたっぶり語らせてもらおうと思います。とは言っても、具体的なストーリー等に ついては必要最低限に留めますから、映画を観る前の方も安心してお読み頂ける筈。それどころか、 本レポート記載の裏話や豆知識を事前に知ることにより、映画がより面白く観られるかも。そうなってく れるよう配慮しつつ、稿を進めることにします。

■27日(日)■ ≪特別試写「フラガール」・・・ 18:00より≫
 ”観たい!”映画のトップ3に入っている期待作です。ただ、クロージング作品に選ばれたと知った時まず感じたのは、 ”嬉しい!”というより”意外だな”という思い。春頃まではずっと本映画祭で上映してほしいと願っていましたが、 一般公開が夏場だと知ってからは”あ、これはないな”と上映予想の候補より外していたのです。ほぼ同時期か、 映画祭より早い公開なら、『湯布院』で試写作品に選定される事はありませんので。それが、封切日が秋に近い9 月下旬の23日となったため、映画祭を締めくくる役目を担うことになったようです。もう一つ正直に告白すると、 ”「フラガール」よりも、どうせなら来年にならなければ公開されないような作品の方が良かったかな” との思いが頭をよぎったのも事実。映画祭から1ヶ月後には映画館で見られるのですから。でも━━と、 そんな考えはすぐ打ち消されました。映画祭では上映後、スクリーンに思い切り拍手を送れます。本作はクロージングに ふさわしくクライマックスはきっと大盛り上がりになるであろうストーリーなので、鑑賞する環境としては『湯布院』が 最高の舞台なのではと思えるのです。

 脚本を書きメガホンを取ったのは、映画学校の卒業制作ながら余りの出来の良さに劇場公開までされた 「青〜chong〜」が2001年に特集の中の1本として上映され、まず作品のみが『湯布院』デビューした李相日 (リ・サンイル)監督。昨年、試写作品の「スクラップ・ヘブン」で監督自身も『湯布院』デビューを果たされ、 今年は2年連続での登場になります。実は「フラガール」は、李監督が脚本の初稿を書き上げ李プロデューサーに 渡したのが昨夏の『湯布院』だったという、1年前から縁のある作品なのです。

 開場は17時30分頃。私は、「幸福のスイッチ」の時より一つ前の席につきました。数分で満席に。昨夜の 「長い散歩」同様、通路に折り畳みイスが並べられるかと思っていたら、そこまでの混雑はありませんでした。 翌日は会社がありますし、俳優ゲストもいらっしゃらないからでしょう。舞台挨拶には、昨夜のパーティーと 同じく李&李コンビが登場。先に李鳳宇(リ・ボンウ)プロデューサーがマイクの前へ、「同じ李ですが、監督と は親戚でも何でもありません(笑)。血縁で選んだ訳ではなく、実力を見込んでメガホンを任せることにしました。 シネカノン(李氏が社長を務める制作・配給会社)の今年一番の自信作です!」。氏の表情からは、静かな自信が 窺えます。対照的にいつも自然体に見える監督は淡々と、「ほんとに、ほんとに、親戚じゃないんです(笑)。 去年初めて、『湯布院』の洗礼を受けました。熱烈に賞賛もされ、けなされもしたのが、ここ。ひと言━━楽しんで 観てもらえば、それでいいです」。
 喜怒哀楽の感情の内、最も難しいのは人を笑わせる事。それをデビュー作で軽々とやってのけた李監督が 最新作で挑むのは、”感動の涙”。笑いと涙とは、時に表裏一体のもの。「青〜chong〜」を撮った監督なら、 泣ける作品も見事に仕上げてくれるに違いありません。上映時間は、2時間ちょうど。場内が暗くなり、傑作誕生へ のカウントダウンが始まります━━。

 何度泣いたでしょう。一度泣いてからは、涙の乾く暇がありませんでした。最初の涙は、 木曜日にゲストで来て下さった岸部一徳さんがもたらしてくれます。フラガールたちを世話するハワイアンセンターの 部長役で出演されており、方言で怒鳴った後ふと我に帰り必死に謝る演技が、もう最高。笑いすぎて、涙が溢れてくるのです。 そこからは、何種類もの感動が波状攻撃のようにスクリーンから押し寄せてきて...。一度泣いて緩くなった涙腺は情けないほど 脆くなっており、この夜ばかりは我慢という言葉を忘れたかのよう。”ここで、こうくるか・・・!”、 脚本が上手すぎます。何度も唸りました。
 ダンスの凄さも特筆もの。東京からやって来た訳ありのダンス教師:平山まどか役を演じるのは、松雪泰子さん。 未経験だったとはとても思えない迫力のダンスで、炭坑の娘:紀美子役の蒼井優やしずちゃん(南海キャンディーズ)の 度肝を抜くと共に、観客の目をも見張らせます。そして、最大の見所は言うまでもなく、ラストのフラガールたちの群舞と、 リーダー役:蒼井優のダンスソロ。フラガールたちの魅力がスクリーンに爆発しているのです! 蒼井優はクラシックバレエの 経験者で、2004年の「花とアリス」(岩井俊二監督)でもモデルオーディションのシーンで見事な踊りを披露していましたが、 その時の比ではありません。ドラマ部分の撮影と並行しての特訓に耐え、観ていて思わず息を呑む”魂のフラ”を 舞ってくれるのです。しかも、笑顔を忘れずに...。
 先日放送されたテレビ番組「情熱大陸」で、蒼井優が取り上げられていました。「フラガール」がクランクインした 今年1月からずっと彼女を追ったもの。クライマックスのダンスシーン撮影の舞台裏もカメラは捉えます━━撮影終了後、 筋肉痛のため階段をガニ股のような格好でフラフラになりながら上がりきり、そこからエレベーターまでのあと3メートルが 遠いと漏らす笑顔の蒼井優を見て、涙が出そうになりました。やがて、東京で完成披露試写会が行なわれる日がやって来ます。 彼女が到着したのは、時間ぎりぎり。福岡に住む最愛の祖母が亡くなっていたのです。この日の試写会は、舞台でフラガールたちの 生ダンスが披露されるイベント付きのもの。喪服からハワイアンの衣裳に着替えた彼女は、微笑みながら舞台で踊り始めます。 福岡では出棺までいられなかったのだとか。役者が肉親の死に目に立ち会えないのは仕方のないこと。けれど、それを知った 一般の映画ファンにとっては話は別。映画の中にも同様のシーンがあり、実生活でのこういう状況を目にすると、ますます彼女を、 そしてこの映画を応援したくなります。

 松雪さんの気風のいい演技にも、惚れ惚れしてしまいます。炭坑の者たちが入っている男湯に怒鳴り込んでいくシーンなどは、 その”男前”の見事さにため息が出るほど。彼女は、各映画賞で幾つもの主演女優賞に輝くことでしょう。6回目の参加となる 本映画祭で観た全作品の中でのベストワン! 今年の日本映画の中でも、間違いなくマイ・ベストとなるでしょう。

 ところで「フラガール」が傑作なのを体の反応で予感したのは、木曜日に当地へ向かう電車の中でした。 映画祭パンフの本作を紹介するページの最後に書かれていた文を読んだとき、体に軽く電流が走ったのです━━【常磐ハワイ アンセンター(現、スパリゾートハワイアンズ)は、1966年の開業から今年で40年。今も元気だという。同じく40年前に 町おこしが始まった由布院。その町で、ひたすら手作りにこだわって続けてきた当映画祭のエンディングを飾るにふさわしい傑作の登場だ】 (パンフより転載)。こういう因縁話には敏感に反応してしまうのです。予感は半分的中し、半分外れました。ここまでの傑作 だとは予感できていなかったのです。
 作品的には何の不満もありませんが、どうしても残念に思ってしまうのが、女優ゲストがおいでになれなかった事。 特に蒼井優ちゃんは韓国の『釜山国際映画祭』で映画祭の熱気を体感し”映画祭ファン”になったようですから、 ぜひ『湯布院』の熱気と温かさも体験してもらいたかった! 2〜3年内にはゲスト参加が実現しますよう。

 「青〜chong〜」から見守り続けてきた李監督が、とうとう、これほど観客の心を揺さぶる作品を創り上げるとは...!  余計うれしさを感じます。クロージングとして、これ以上ふさわしい作品はありません。本映画祭で観られたのを心から 感謝したい傑作でした。

湯布院映画祭レポート06(15)

■27日(日)■ ≪シンポジウム(「フラガール」)≫
 シンポでは最前列でなくても前の方の席は確保したくて、初めてホールの前方右横の出入口を利用し、 素早く頬の涙を拭きながら早足で2階へと向かいます。狙い通り、最前列右寄りの席へ。シンポは意外にも、 椅子席に若干空きがあるぐらいの混み様でした。やはり、俳優ゲストがいないせいでしょうか。映画のみ観て帰路に ついた人も多かったのかもしれません。
 さあ、最後のシンポです。ゲストからの挨拶より先に客席からの感想を聞くことに。本作を観るまで、 過去6回参加における私の『湯布院』でのベストワンは2003年のクロージングで上映された「油断大敵」 (成島出監督)でした。あの時のシンポでは、私も含め10人前後もの手が一斉に挙がったもの。たぶん、 そうなるであろうと思っていたら...。なぜか誰からの挙手もありません。あれ?と思ったその空白の時間は1〜2秒 ぐらいのものだったでしょうが、それならと反射的に私の手が挙がったのでした。まさかトップバッターで発言することに なるなんて。「ラストで、出来るならスクリーンに飛び込み、フラガールたちが踊りを披露する常磐ハワイアンセンターの 客席に座っていたいと熱烈に思いました(撮影現場でエキストラとして客席に座っていた人たちが羨ましい!)。 今年で6回目の参加となる『湯布院映画祭』での全作品の中でのベストワンです。上映後スクリーンに拍手を送れるこの 映画祭で鑑賞できた事を、心から感謝したい映画でした。9月23日に公開されたなら、絶対もう一度映画館で観ますので。 素晴らしかったです!」。私の後は、次々に手が挙がり、最終的には時間切れで発言できない方もおられたようです。

 客席からの意見には、「フラガールたちのサクセスストーリーばかりでなく、炭坑が徐々に閉鎖に追いやられていく 様もかなりリアルに描かれているんで、ちょっとびっくりしました」というものも。だからこそ、クライマックスが一層 盛り上ったのでしょう。が、その発言者はこうも続けます、「私は、炭坑がさびれていくのを同時代的に見てきましたから、 その悲劇が思い出され、ラストにもどうも乗れませんでした」。同調する方もおられ、それはそれで頷けるものでした。また、 「あそこをああすれば、もっと良くなったのでは」という、映画が素晴らしかったからこその贅沢な要求を口にする方や、 「前におられる2人の李さん━━李監督と李プロデューサーは、これから映画を通じて日韓の架け橋になっていかれるん じゃないでしょうか」という印象的な発言をされた方も。

 ゲストから製作や撮影の裏話などを聴かせてもらいます。李プロデューサーは、「完成までかなり時間がかかりました。 今夜のフィルムには入ってなかったのですが、一般公開版には最後に1枚テロップを出します。炭坑や、炭坑で働いていた 人々がどうなったかという━━。それ以上詳しくは言いません。劇場でもう一度観て下さい」(笑)。キャスティングについて、 「松雪さんは一見、神経質そうな感じが主人公のイメージに合っていました。実際の本人は、違いますが。それから、 喜怒哀楽を全身で表現して、様になる女優さんなので。しずちゃんは、脚本であの役が体のでかい女という設定になっていたので、 起用しました。見せ場の一つとして彼女が泣くシーンがありますが、あれはほんとに泣いてもらうしかなく、 前夜は何人かで呑みに連れて行って、”目薬は使わないからな”(笑)とプレッシャーをかけました。本番は、 彼女が泣くのを待って、予想より早く3回目ぐらいでOKになりました」。その場面で、 しずちゃんは見事に女優になりきっていました。

 本作は3女優の演技合戦でもあります。松雪泰子、蒼井優...、そして昨夏の本映画祭に「寝ずの番」のゲストとして 来場して下さった富司純子さん。紀美子(蒼井)の母親役として、映画をしっかりと支えています。見せ場もたっぷりで、 こんなに出番が多いとは思いませんでした。監督が、富司さんの演技に賭ける気迫について語ります、「(冗談ぽく) おっかないんですよね。カットの声をかけた瞬間、問い詰めるような強い視線で僕の方をきっ!と見やるんです。 全身でOKサインを出さないといけませんでした」。そのエピソードも頷ける、富司さんのさすがの名演です。
 蒼井優はかなり以前から注目してきた好きな女優ですが、なぜかスクリーンの彼女にがつんと魅了された事がないのです。 本作での彼女は、完全に化けました。正に、はまり役。クライマックスに突入する前、稽古場にやって来た仲たがい中の母親の 前で、あえてそちらを気にすることなく踊りに没入するシーンにも、背中がザワザワ震えました。これから長く続くであろう 彼女のキャリアの中でも、代表作としてずっと輝き続けるでしょう。ダンストレーニングについて記しておくと━━。 松雪泰子が演じた主人公のモデルになったカレイナニ早川先生が直接指導されたのだそう。クランクインの1ヶ月半ぐらい 前から始め、ドラマ部分を撮影しながら特訓も続きます。「正味2ヶ月くらいであそこまでいったんです。本人の意識レベルが 感心するぐらい高かった。”彼女は、いい女優になりますよ”」と李プロデューサー。この言葉は、昨夏の『湯布院』で私が 「パッチギ!」の沢尻エリカさんを話題にした時、氏の口から発せられたものと同じ。蒼井優は本作で既に、”いい女優”に なりました!

 「フラッシュダンス」を連想したという感想も。私も、そうでした。が、ダンスの凄さは、はっきり言って「フラガール」の 方が上。しかも、「フラッシュダンス」は吹き替えに頼っていますが、本作は全て俳優たち本人が踊っているのですから。 改めて言うまでもなく本作は実話を元にしており、映画を観て、今まで全く関心のなかった常磐ハワイアンセンター (現、スパリゾートハワイアンズ/福島県)に行ってみたくなりました。全国でも3本の指に入る温泉施設だそうですが、 公開後、集客アップは間違いないでしょう。

 「フラガール」で描かれた時代は、昭和40年代の初め。李プロデューサーが手がけた昨年のベストワン作品「パッチギ!」も その2〜3年後の物語でした。2年連続で、昭和40年代を舞台にした映画が各映画賞での作品賞に輝くかもしれません。 「パッチギ!2」の話も少しだけ出ました。1974年から75年にかけての物語になるのだとか。「フラガール」の共同脚本は、 その「パッチギ!」の羽原大介氏。「彼は泣き笑いのシナリオが上手いんですよね」、李プロデューサーが説明されます。  本映画祭に毎年のように参加されている映画評論家がいらっしゃいます。『キネマ旬報ベスト・テン』の選考委員も務め られているそのお2人の発言も紹介しておきましょう。渡辺武信氏は、とにかく脚本がよく出来ていた事を賞賛。 寺脇研氏は「映画の中でフラガールたちを見守る松雪さんみたいな感じで、これからの日本映画を支えていってくれるであろう 李監督が本作でどんな風に成長したのか、物語の展開に対する反応と同じくハラハラドキドキしながら観させてもらいました」。 何だか評論家らしからぬ・・・、いつもの寺脇氏らしからぬ発言ですが、評論家にもつい主観的な物言いをさせてしまう力が本作から 発散されているということでしょう。「泣かせる映画にしようと思って、シナリオを書いたのですか?」という質問に、 監督は「狙ったのではなく、登場人物の1人1人に見せ場を作っていったら、結果として”泣きの連鎖”に なったということです」。

 女優ゲストが無理なら、何とか岸部さんに残っていてもらいたかった! ちょっとした事件から、まどかは ハワイアンセンターのオープンを待たずに東京に帰ることになります。彼女を連れてきた岸部さんは、荷物をまとめるまどか にある言葉をかけるのです。確か、岸部さんのアドリブ。観客の気持ちを見事に代弁してくれていました。ここでも、 何度目かの涙が頬を伝ったものです。それらを含めた撮影エピソード等を、岸部さんの口から聴かせて頂きたかった!

 李プロデューサーが過去に本映画祭に持って来てくれた試写作品は、多くが公開がかなり先のものでした。 シンポでの参加者からの発言が、宣伝活動や次の映画製作に関する重要な参考意見になることも少なくなかったようです。 が、「フラガール」は僅か1ヶ月後には公開されます。しかも、全国で200スクリーン近くになる拡大公開。 宣伝活動も明確な方針に従って、ずっと以前から長期的に展開していることでしょう。このシンポで客席からの 否定的な意見を耳にした時も、李プロデューサーに動じた様子は全く窺えません。それは、聞く耳を持たぬという訳ではなく、 とにかく完成させた本作に対して絶対的な自信をもっているからであろうと私には見受けられました。 もうこの段階まで来た以上、作品のパワーを信じて突っ走るのみ!

 司会が「最後にどなたか...」と客席を見回しかけた時、男性以外の発言が全くなかった事に気づき、 私は「女性からの感想もお聴きしましょう」とリクエスト。応じて、最後にようやくお1人挙手して下さいましたが、 もっと多くの感想を拝聴したかったもの。  映画監督は話術の巧みな方がほとんどですが、李氏は監督には珍しく(?)能弁なタイプではありません。 修行が必要な部分かもしれません。いや、そんなものは自然に身につけていけば十分。監督へ要望したいのは、 体力・気力とも充実している今の内(今年32歳)に、どんどん作品を発表して頂きたいという事。昨年もゲストでおいで下さった時、 2本の企画が進行中だと発表されました。1本はこの「フラガール」だった事が後日判明。もう1本についても、 夜のパーティーで監督にお訊きした所、かなり具体化しているそうなのです。「フラガール」の公開が一段落したなら、 きっと新作の製作発表が行なわれることでしょう。来夏はその作品を持って、3年連続で『湯布院』へ来て下さい!

湯布院映画祭レポート06(16)


■27日(日)■ ≪ファイナルパーティー ・・・ 22:00より≫
 「フラガール」に天も泣かされたのか、外は小雨が降っています。初めて、折り畳み傘を広げました。 徒歩で7〜8分移動して着いた今夜のパーティー会場は、テーブルが並べられ飲食する屋内スペースと、 屋外の庭園とがつながっていますが、降雨のため全員が屋内に入り、例年以上の人口密度になっています。 昨夜ほどではないにせよ、参加者は200人を超えていたのでは。このファイナルパーティーでは毎年、地元のホテル・ 旅館に勤める若手料理人たちによる創作料理の品々が振る舞われることになっており、料理人の方たちも料理を並べておく 壁際のテーブルの奥にずらりと控えておられます。見た目もきれいな料理の数々を、今年も美味しく頂きました。

 目当ての料理を食し終えた頃、ゲストが次々ステージへ呼ばれます。「脱皮ワイフ」組からの挨拶は、 「初参加で、シンポに臨むに当って戦々恐々としていましたが、色んな意見をもらえて嬉しかった。また、来たいです」。 「幸福のスイッチ」組からはもちろん安田監督がマイクを手にされ、「好意的にしろ、否定的にしろ、たくさん感想を聴けて 良かったです」。「フラガール」組は、シンポが終ったばかりということもあり、あっさりと。昨夜の「長い散歩」組にも声が 掛けられます。奥田監督はもう帰られましたが、脚本にも加わった奥さんの安藤和津さんがいて下さっており、司会からの突然の 指名に慌てて壇上へ。「今夜は挨拶などないと思っていたんですが...。この映画祭は、本当に映画好きの人が集まっているんだ なと思います。シンポジウムやパーティーで聞かされる意見も、”そういう見方もあるんだ!?”と目を見開かされるものが多くて。 こんな映画祭、他にないです。『長い散歩』を気に入ってくれた方は10人ぐらいに広めて下さい。本当にお願いします。 この映画を育ててやって下さい!」。とても予期していなかったとは思えぬ、内助の功を滲ませた、 ぐっと胸にくる挨拶でした。

 安藤さんは、ゲスト挨拶が行なわれる前の歓談タイムには、ふと気づくと私のすぐ隣りで飲食なさっていたのです。 余りに近くだったので本当に彼女なのかどうか自信が持てず、1〜2歩離れて見て間違いないのを確認した後、声を かけさせてもらいました。「奥田監督の全作品をここで観ています。私は『少女』が大好きなんですが、『長い散歩』は それ以上に素晴らしかったです。年内公開ということで、今年は『るにん』も1月に初日を迎えましたから、2本も 公開されることになりますね。ファンとしては、作品がダブるとどちらを重点的に応援すればいいか悩むので、出来たら 1年1本にして頂きたいものです」。安藤さんは苦笑しておられました。最後にもうひと言、「4作目が9月にはもう クランクインするんですよね。また、いい作品を完成させ、来年ここへ持って来て下さい」。

 『岡山映画祭』のOさんと並んで飲食していたら、2人の男女がOさんへ挨拶にやって来られました。どうやら、 『あきた十文字映画祭』の実行委員の方のよう。同映画祭は最近、”行ってみたい映画祭”の上位にランクアップしてきており、 今冬の『函館映画祭』の次は『あきた十文字』へと考えているぐらいだったので、良い機会だと後で少しお話しして、 その時のため名刺を頂戴したのでした。ただ、秋田へは岡山からだと交通の便が悪いみたいだし、 開催が真冬の2月というのもネックに。今年の映画祭は大雪に見舞われ、大変だったそうですから。 それでも、毎年多彩なゲストがやって来てくれる、『湯布院』と似た雰囲気の映画祭のように思えるので、 何とか雪が少なく魅力的な作品&ゲストの多い年にタイミングよく初参加したいものです。

 安田監督の所へも、心からのニコニコ顔で寄って行くことが出来ました。シンポも概ね好評の内に終り、監督もいつも以上の にこやかさ。手を差し伸べて下さったので、しっかりと握手を交わしました。「シンポでも発言した通り、映画ほんとに 良かったです」。もしがっかりする内容だったら、このパーティーでも話し掛けにくいなと心配していた事を正直に告白。 シンポで感想や意見が途切れなかった事を喜び合い、私は恥ずかしくてシンポでは言わなかった事も白状したのでした━━ 「2度も泣いてしまいました」。監督が元いた会社の方々や、本上まなみさんのファンで「幸福のスイッチ」を 応援してくれている福岡在住の方も、予定通り来場され、しっかりと映画をご覧になったのだそう。県外からの参加者にとって、 午後1時半からの上映というのは最高の時間帯だったでしょう。
 伴野プロデューサーや原さんとも言葉を交わしました。伴野氏は「生まれ育った関西にこだわった映画作りをしていきたい」と 語られ、準備中の企画についても教えて下さいます━━岡山県と関わりの深い作家の小説の映画化 (具体的な内容は伏せさせてもらいます)。なるほど、この原作だったら題名からして関西人なら食いつかずには おられないでしょう。原さんは帰りも、私同様『青春18きっぷ』を使われるのだそう。共通のこの話題で盛り上ってしまいました。 勿論、映画音楽に関する話も。
 気づいたら、いつの間にか雨も上がっており、多くの人が庭園で歓談しています。 「フラガール」の李監督とも、今年ようやくお話することが出来ました。昨年は監督の体調が良くなかったみたいで、 パーティー半ばで宿へ引き上げられてしまったため、機会を逸してしまったのです。いま思えば、「フラガール」の脚本の 初稿を書き上げるため、あまり寝ておられなかったのでしょう。「昨年の映画祭で、2本の企画が進行中とおっしゃってましたが、 1本は『フラガール』として完成。もう1本もかなり具体化してるんでしょうか?」。これについては、「フラガール」の シンポの項でも記しましたが、「ええ、進んでます」との事。シンポでは話の流れで蒼井優ちゃんの方しか話題にされなかった ダンスレッスンに関して、松雪さんはどうだったのかお訊きしました。ダンス未経験の彼女は、クランクインの1ヶ月半ぐらい 前から始め、多い日は1日8時間ぐらい練習して、あそこまでになったのだとか。大抵の観客はスクリーンでの彼女の踊りを観て、 ”あ、経験者だったんだ”と思ってしまう筈。クライマックスのステージの見事さはもう触れませんが、 そのフラガールたちの中心になる紀美子(蒼井優)らを驚愕させ自分たちもあれに近づきたいという気にさせた松雪さんの ダンスが本物でなければ、この映画がここまでのレベルに到達することはなかったでしょう。

 再び司会がステージに、「映画祭は各地からおいで下さる参加者の皆さんによって支えられているので、 その中から何人かを紹介させてもらい、ひと言頂戴したいと思います」。只1人、第1回から全ての映画祭に皆勤して おられる長崎のEさん(よくお話させてもらってます)や、女性で長年京都から参加されているTさん、それから 『岡山映画祭』のOさんや『あきた十文字映画祭』実行委員の方などが壇上に招かれ、挨拶をされました。

 終盤近くには、「フラガール」にちなんだ訳ではないでしょうが、テーブルを移動させ、一般参加者・ゲストの方々・実行委員... 色んな人が一緒に輪になっての踊りも行なわれました。30〜40人ぐらいが参加されていたでしょうか。輪の中には、額に 汗を光らせた安藤さんのお姿も。私はこういうのは苦手なため、庭園の方から遠巻きに眺めるだけでした。 31回目となる今映画祭では、30回を超え新たなスタートをきったかのように、様々な面で新風を感じました。 【おしゃべりカフェ】に、日曜日の午前中に設けられた新人等の【発掘上映枠】、会場ロビーのタイムテーブルも 純和風に木札で表示する凝ったものに。また今夜のパーティーにおいても、一般参加者を壇上に招いたり、こんな ダンスタイムまで設けてしまうとは! 来年の映画祭では、どんなサプライズを仕掛けてくれるのでしょうか。と、 来年に目を向けるその前に━━、まずは今年の関係者各位のご尽力に、大きな感謝を。

 締めは、実行委員全員と、今夜の料理を作って下さり片付け等のためまだ残られている料理人の方たち、 それから映画祭の期間中、実行委員たちの食事の世話をしてくれたご婦人方がステージの前に集まり、 一言ずつ挨拶していきます。最後は実行委員長が「来年もかなりの確率で映画祭を開催できることでしょう」と 始め、色んな人への感謝を述べた後は、「あまり喋ると、泣きそうになるんで...(最近は毎年この台詞を口にしているのでは)。 また来年、お会いしましょう!」と結ばれました。
 まだまだ名残り惜しく、立ち去りがたいのですが、明朝は始発電車に乗らなければならないため、愚図愚図せず会場を後に することにします。「幸福のスイッチ」組の3人がいらっしゃったので、最後に”いつかまた、ここ『湯布院』か、どこか別の 映画祭か、それとも映画館での舞台挨拶かで会いましょう”と約してお別れしました。いい映画祭でした。

湯布院映画祭レポート06(17)

■28日(月)■ ≪祭りのあと≫
 ファイナルパーティーが終了したのは、0時頃。急ぎ足で宿へ帰り、風呂に入って、荷造りの仕上げにかかります。 その後、パーティーでの出来事を本レポート用のメモに書き留め、寝たのは1時半前。4時半には起床し、宿を出て、 星空の下を駅へ向かいます。途中、いつものコンビニで朝食を摂り、由布院駅が始発の5時47分の普通電車に乗車。 最初の乗り換えは、大分駅にて。そこから10分ちょっとで、木曜日の試写作品「悲しき天使」の舞台となった別府駅に 停車します。車窓から、街の海側・山側を見回したものでした。そうそう、その「悲しき天使」の前の日に行なわれた 前夜祭の野外上映会の模様が最近になって確認できましたので、一応記しておきます。やはり雨には見舞われず、 ここ数年にない多くの観客が、駅前ロータリーを埋めたのだそうです。未体験のその場に加われるのは、 いつになるでしょうか。

 さて、「長い散歩」の『モントリオール世界映画祭』でのグランプリ受賞について、ここで話題にしたいと思います。 他にも、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞(キリスト教団体による選出)に輝き、全部で3冠を獲得。同映画祭は、 会場に列席していないと受賞資格がないみたいで、奥田監督は、和津夫人・今作で助監督デビューした長女の桃子さんと 共に、経費節約のためエコノミー席で現地へ飛ばれたようです。こういう話を聞くと、ますます応援したい気に。主演の 緒形さんは仕事で別の海外へ行かれていたため、不参加。もし出席されていたら、有力な主演男優賞候補に挙げられて いたのでは。
 少女がいつもつけている、ダンボールで作った天使の羽根━━。キリスト教徒の多い外国では、このアイデアも評価 アップにつながる要因だったかもしれません。本作のシンポの項でも紹介したように監督は「ラストは、ほんとに悩みました。 でも、どう考えても、ああするしかなかったんです」と言っておられました。ああしたからこそ、受賞が磐石になったの ではないでしょうか。その長回しにしっかりと耐えた緒形さんには、映画祭に参加し主演男優賞を争って頂きた かったものです。『湯布院』で深く魅了された作品が、閉幕後間なしにこういう大きな賞を受賞するのは、 余計に嬉しいものですね。

奥田監督は10年間で5本撮ると宣言し、着々と有言実行しておられます。4作目も、もうクランクインしている頃。 受賞が励みとなり、また今まで以上にロケ等の協力も得やすい筈なので、きっと良い作品になってくれるでしょう。先日、 ロケ地となる山口県下関市で記者会見が行なわれましたが、題名は━━「風の外側」。女子高生と在日朝鮮人男性との 恋愛を描く”ちょっとねじれた青春映画”なのだとか。監督の次女・さくらさんも出演されるようです。監督は、 脚本も執筆。同種の映画として、同じく下関市を舞台にした佐々部清監督の佳作「チルソクの夏」が 思い浮かびますが、奥田監督の手にかかるとどんな青春映画になるのでしょう。公開は、来夏を予定。 若者向けのようですから、夏休み映画として公開される模様。ということは...、4作目にして初めて『湯布院』で上映されず、 という事になりそうです。シンポで監督や出演者に会うことも出来なくなるので残念ではありますが、 最適と思われる時期に映画が公開されヒットするのが一番大事。それに映画祭より早く新作を観られるのであれば、 夏に公開というのは、歓迎すべきでしょう。ただ...。

 「風の外側」が大々的に公開される作品だとは思えず、大都市では夏休みに公開されても、地方では上映が9月、 10月...、もっと遅くなる事が予想されます。やっぱり、『湯布院』での上映を希望したいもの。それに、実は 1作目の「少女」も『湯布院』で上映された後、『パリ映画祭』など海外の映画祭で受賞しているのです。今回の 『モントリオール』ほど大きな映画祭でなかったこともあり、当時はマスコミ取材が全くなかったそうですが。 「長い散歩」の受賞も、幾らかは『湯布院』で上映されたお陰かもしれません。ジンクスを活かすためにも、 4作目もまた『湯布院』で上映されますように!

 小倉駅で山陽本線に乗り換えます。昼食は途中の乗り継ぎ駅の食堂ででも撮るつもりでしたが、 小倉駅構内の売店で、いつか食べたいと思っていた折尾駅のとりめし弁当(確か735円)を見つけたので、 思わず購入。車中で済ますことにしました。岡山駅到着も30分ぐらい早くなりますし。
 先日、もう一つ朗報が発表されました。「フラガール」が、米アカデミー賞外国語映画賞へのノミネーションを 目指す日本代表作品に決定したのです! 日本映画製作者連盟から依頼を受けた専門家の選考によるもので、 対象となる作品は【昨年10月1日から1年間(今年9月30日まで)に初公開され、かつ7日間以上連続して 商業公開されたもの】。「フラガール」は9月23日に公開され、30日までの公開日数は8日ですから、 正に基準ぎりぎり。もし今年9月のカレンダーが25日が土曜日だったりすると日数不足で対象外に なっていたのですから、本作には描かれた物語と同じくある種のミラクルが備わっているのかもしれません。 ショービジネスの本場アメリカが、本作を...、本作のダンスをどう評価するのか楽しみでなりません。

 12時前に新山口駅で最後の乗り継ぎ。後は17時過ぎに岡山駅へ到着するまで、この快速に揺られるのみ。 車中から時おり見える瀬戸内の海もなかなか良いもので、たまにはこういう眺めを楽しみたくて、湯布院への 行き帰りに『青春18きっぷ』を使っている面もあります。
 本レポートは、県外の方も読んで下さっているようですから、この夏岡山県でロケされた「バッテリー」に ついて少し紹介させてもらいましょう。岸部一徳さんも出演されていることですし。県内ロケ作品だけあって、 本作の話題は地元テレビ局のローカル情報番組等で何度も取り上げられています。最近放送されたのは、 製作発表会見で流されたという予告編。これが、かなり惹き込まれる優れものの映像なのです。観ていて、 思わず目頭が熱くなってしまいました。主人公の少年の投球フォームも、文句なし。公開は来年3月の予定なので、 映画館でも12月くらいから流されるのではないでしょうか。どうぞ、お楽しみに。
 また「幸福のスイッチ」に関する仕入れたばかりの情報の中で、岡山でも11月頃にミニシアターで公開予定 なのが判明しました。温まる映画なので、秋から冬にかけての上映がちょうどふさわしいのでは。

電車は定刻に岡山駅のホームに滑り込みます。今年の『湯布院』行きも、無事終了━━。新作の試写作品の鑑賞のみを 目的として参加した2000年の最初の『湯布院』では、親しく言葉を交わすようになるほどの知合いも出来ず、 ゲストとお話しする事もありませんでした。2回目でシンポやパーティーの楽しみ方を会得し、以後はたとえ 上映作品が好みでなかった年でも映画祭全体としては十分楽しむことが出来るようになり、とにかく外れの年が ないので、8月には毎年のように湯布院に帰省し続けることに。参加が積み重なり6回目となった今夏は、ほんとに 色んな人と出会えました。『宮崎映画祭』のSさん、『あきた十文字映画祭』のTさん、地元ながら初対面だった 『岡山映画祭』のOさん。どなたも、それぞれの映画祭の会場でお会いしたい方ばかり。これからは映画祭を通じて 知己を増やすという楽しみも付加されていきそうです。また、ようやく作品とご本人の両方に会えた安田監督には、 私も知り合ったばかりの各映画祭の方々を紹介させてもらいました。彼女にとっても、初参加の本映画祭が、様々な 出会いの場として記憶に残ってくれれば幸いです。
 回を重ねる毎、本映画祭の楽しみ方はますます広がっていく気配。もう、この愉しみから足を洗うことは 不可能でしょう。次回は7回目。ラッキー7となる来年は、どんな楽しませ方で私を...、全国からの参加者を 迎えてくれるのでしょうか。
                                     (終)