TOMIさんの舞台挨拶レポート4「ZOO」

  6月25日(土)の夜『シネマ・クレール丸の内』にて、 「ZOO[ズー]」(原作:乙一)の中の一篇「カザリとヨーコ」を 監督された岡山市出身・金田龍氏の【初日舞台挨拶】と【囲む会】が 開催されました。レイトショーのため、残念ながら行けなかった方も 少なくないかもしれません。そんな方のため...、ま たお話の内容がとても興味深く、ぜひ書き記しておきたい充実ぶりだったため、 その模様を再現してみようと思います。 (説明の関係上、ある程度映画の内容に触れていますので、ご了承下さい)

 本作は20時45分の開映ながら、地元出身の監督ということもあるし、 遅い時間帯の上映がふさわしいような映画なので、客席は7〜8割方埋まる だろうと予測していました。私が到着したのは、前の用事に手間取ったため 20時30分少し前。何と、館外にまで人が溢れています。急いでチケットを 購入したものの、受付番号は百番超。3桁の番号になったのは初めてです。 うまい具合に私の好きな最後列が一つだけ空いており着席できましたが、 最終的に立ち見も出る大盛況!
 【舞台挨拶】は上映前に15分弱実施されました。上映後にも、 同じこの場所で【囲む会】が開催される事が発表されます。登場された監督は、 当館のすぐ近くのご出身なのだそう。現在もご実家があり、ご近所で商売もな さっておいでです。そんな前ふりのネタが異様に盛り上がったり、 また上映後には【囲む会】もあることから、映画に関する話は比較的短時間で終了したのですが、中心になったのは主役を務めた新人女優についてでした。監督の第1作は、深津絵里のデビュー作「満月のくちづけ」。「カザリ〜」のオーディションで、主役に抜擢することになる小林涼子という女の子を見た時、当時の深津絵里を連想したのだとか。後から実際にスクリーンで観た涼子ちゃんは、監督の言葉通り、撮影時14歳だったとはとても思えないような鮮烈な演技で抜群の存在感を示していました。逸材です。  退場時には、数名の観客から花束が贈呈されます。持ちきれず、 職員がお手伝いするほど。

 映画は、「カザリとヨーコ」が最初のエピソード。決してヨイショでなく、 5篇の中でこの作品が一番の出来でした。とにかく、全く性格の違う双子を 1人で演じ分けた涼子ちゃんが魅力的です。母親役の松田美由紀さんの虐待ぶりも、 ”凄い”のひと言。「カザリ〜」がつまらなかったら終映後の【囲む会】は パスしようと思っていたのですが、ここまで引きつけてくれると帰る訳にはいきません。

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「ZOO」舞台挨拶レポート(続1)

 短い休憩をはさんで、再び監督が登場され、【囲む会】が始まります。 映画が終了したのは、23時前。深夜ですから交通機関の関係等もあり帰られた人もいますが、 それでも半分弱の観客が最後まで監督のトークに耳を傾けたのでした。  監督は元々、原作の乙一氏のファンであり、5年前に別の小説に惚れ込み各社に 映画化の売込みに回った事があったのです。当時は乙一氏に何のネームパリューも なく実現に至らなかったものの、「ZOO」の原作が多方面で評判を呼び、 映画化に向け動き出した時プロデューサーの1人が5年前の売込みを覚えており、 声をかけてもらえたのだそう。
 原作のどの短篇を担当するかの割り振りは、まず5人の監督が自分の希望する 作品を挙げてみた所、1人もダブることなく見事に一発で決定! 金田監督は 原作が出版されてすぐ読んだ時には、この「カザリとヨーコ」の話は最も好きに なれなかった一篇なのだとか。母親からの子供に対する虐待が理解できなくて。 けれど、監督のオファーをもらって読み直してみると、これしかないと思うように なります。ここ1〜2年は特にニュース等で虐待の実態が明らかにされるケースが 多くなり、世間の状況も変わってきました。言葉は乱暴ですが、虐待が日常茶飯事に なってきたのです。不思議に思っている今の自分の皮膚感覚でやってみれば、 撮れる筈。取り組み甲斐のある題材だ---。

 撮影期間について。「カザリ〜」はたぶん5篇の中で一番長いエピソードですが、 それでも25分ほど。とはいえ、1人で双子を演じ同一画面に2人が映るシーンを 特撮処理を計算しながら幾つも撮っていく煩雑さも含まれますから、撮影は 大変だったでしょう。6日間で撮り終えたとは、ちょっと信じられません。 まして、演出通りに動いてくれない犬まで出演していたのですから。 もちろん入念な準備をしてクランクインに臨んだのでしょうが、 この手際の良さは約15年のキャリアを持つ金田監督ならではと言っていいのでは...。

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「ZOO」舞台挨拶レポート(続2)

 我が子を虐待する母親役という、 ある意味演じ甲斐はあっても出演をためらうような難役を引き受けてくれたのは、 松田美由紀さん。監督のたっての希望でした。監督はゲームソフトの映像演出もして おられるのですが、代表的なものに発売時テレビCMも数多く流された「鬼武者」 という話題作があります。故・松田優作さんを主役のキャラクターとしてCGで 甦らせたソフトです。実は監督は優作さんのファンであり、彼と結婚していた 美由紀さんのことはずっと注目していたのだそう。彼女は連続テレビドラマで 子だくさんの肝っ玉母さん風な役柄を当り役として持っています。その彼女になら、 真逆の鬼のような母親もきっと演じられるに違いない━━「映画と真摯に 向き合っている女優さんですから」。彼女しかいない、と話を持っていき、 出演を承諾してもらったのでした。
 ラストでは虐待を悔いるちょっと救われるようなシーンを考えたりもしますが、 美由紀さんが「最後まで鬼の母を演じたい」と言ってくれたこともあり、 そういう描き方を貫きます。「結果的には、やはり正解でした。短篇なので、 徹底してやらないと印象が曖昧になってしまいますから」。 松田さんを始めキャスティングは全員、監督の希望通りにいったとの事。

 役に入り込みすぎて、カットがかかった後も涼子ちゃんがしゃくり上げるように 泣き続けるという撮影がありました。美由紀さんはすかさず涼子ちゃんをそっと 抱きしめ、また周りのスタッフも次の準備にかかる手を止め、静かに2人を 見守ったのでした。美由紀さんはそんな優しく包み込むような視線に囲まれた 涼子ちゃんに声をかけます、「あなたが足を踏み入れたのは、こういう世界なのよ」。
 「こんな至福の瞬間を味わうと、映画の世界から抜けられなくなるんですよね」、 監督がしみじみおっしゃっていました。”映画の神様”が訪れた瞬間を持つ作品は、 観客にも分ります。

 映画が始まってすぐの頃は、双子のそれぞれがあまりにイメージが違うため、 涼子ちゃんが一人二役で演じているとはなかなか気づきません。 東京での公開時、観客からの感想で「双子なのに、あまり似ていなかった。 もっと似た双子をキャスティングした方が良かったのでは」という 声が出たのだそう。後で涼子ちゃんに伝えると、「満足です!」と大喜び。
 彼女は続々と出演作が決まっており、現在ではかなりの売れっ子に なっています。「この舞台挨拶にも連れてくる予定だったんですけど、 仕事が入っておりダメになっちゃいました」、残念そうに、けれど同じ ぐらい嬉しそうに話される監督でした。その仕事が何だったかは、数日後に 偶然分かりました。某テレビ局のモーニングショー『芸能コーナー』で 「子ぎつねヘレン」という来春全国公開される映画の北海道ロケの模様が 紹介されていたのですが、主人公の獣医(大沢たかお)の娘役として 涼子ちゃんがしっかりと映っていたのです。この作品は、ヒット作 「クイール」に続く動物を主役にした映画の第2弾。ヘレンちゃんの 可愛さも特筆ものですが、涼子ちゃんが今度はどんな演技を見せてくれるのか 楽しみでなりません。

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「ZOO」舞台挨拶レポート(続3)

 「カザリとヨーコ」に続く第2エピソードの「SEVEN ROOMS」を 撮ったのは、金田監督の助監督をしていた本作が初メガホンの安達監督。 金田監督は「カザリ〜」でも彼に助監督をしてもらうつもりで連絡を取ったら、 本作の監督の1人に決まっており、びっくりしたのだとか━━「嬉しかったけど、 彼に負ける訳にはいかないとプレッシャーも感じました」。 「SEVEN〜」では主役の1人である小学生ぐらいの男の子が涙を流す場面が ありますが、そのシーンがちゃんと撮れており、金田監督は「良かった」と 高い評価を。私も、この作品が「カザリ〜」に次ぐ面白さでした。

 「カザリ〜」の劇中で『星の王子さま』の原語の絵本が出てきます。 これは、監督と涼子ちゃんとで決めたもの。というか、もうこれしかないだろうという感じで 必然的に選ばれたものなのだそう。オーディションの時、涼子ちゃんが話したのが 本書についてで、彼女は中学1年生の時、原語のこの絵本を取り寄せ、独力で翻訳して 自分なりの『星の王子さま』を作ったのです。「この書はある意味、 孤独についてのお話であり、そういう点でも映画に登場させる小道具としてふさわしかった ですね」。

 監督と乙一氏とは舞台挨拶等で一緒になった際、今度は映画オリジナルのものを やりたいねと話したりした事も。5年前、氏の原作の映画化に走り回ったことが 「ZOO」に結びついたように、この新たな”企画の卵”も何年後かにはちゃんと 孵化しているかもしれません。
 テレビの方では、秋に放送予定のテレビ東京系(岡山では「テレビせとうち」)の 深夜の連続ドラマを何本か担当することになっていますが、 映画の次回作は未定。いつか撮りたいと考えている企画を語って下さいました。 それは━━、”岩井志麻子氏やあさのあつこ氏など岡山出身作家の原作を、 岡山を舞台にして映画化したい”というもの。大林宣彦監督が、故郷の尾道で 何本も名作を撮ったように。
 何年後かに、原作者と一緒の舞台挨拶をここ岡山の地でやって下さい!

 ヒゲをたくわえた四十代の監督は、とても魅力的な方でした。そして、 やはり話がお上手。現代の映画監督は売込みのテクニック(交渉術)を 必要とされていますから、自然とトークにも長けてくるのでしょう。0時近くまで、 観客との質疑応答も含めたっぷりと語って下さいました。終了後は、 ロビーが即席のサイン会場となり十数人の列が...。監督を囲む人数が少なければ、 「カザリとヨーコ」が一番良かったと”賑やかし”の意味も込めお伝えするつもりでしたが、 散会時も尚これだけの交流が続けられているなら私などの出る幕ではありません。充分に遅い時刻だったため、速やかに帰路につきました。  『シネマ・クレール』では1週間前の土曜日にも 「シベ超」(「シベリア超特急」)のオールナイト・イベントが開催されたばかり。 そしてこの夜も、日付が変わるまで。クレール・スタッフの皆さんにも、感謝を...。

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「ZOO」舞台挨拶レポート(おまけ)

 小林涼子ちゃん出演の「子ぎつねヘレン」の脚本を執筆されたのは、 今井雅子さんという方。実は偶然にも私は、彼女のちょっとした知り合いなのです。 きっかけは、2001年の11月頃『クレール』に置かれてあった『函館港イルミナシオン映画祭』の チラシ。同映画祭のHPを訪ねてみた所、掲示板に彼女の書込みがあり、 私がレスした事からネットを通じての交流が始まったという次第。 それから間なしにオープンした彼女の個人HP『いまいまさこカフェ』は、 ここ3年あまり私の行きつけの店となっています。
 今井さんは、つい最近映画化が発表された「天使の卵」 (原作は直木賞作家・村山由佳のデビュー作。冨樫森監督、小西真奈美・市原隼人主演で 来年公開予定)でも脚本を担当。今、のりにのっているシナリオライターです。HPの 『カフェ』では、気さくで話し好きな喫茶店のママ。 【bbs】は今この2本の映画の話題で盛り上がっていますから、 皆さんも気軽にコーヒーブレイクに立ち寄ってみて下さい。また、 「子ぎつねヘレン」のロケ訪問記が【diary】で読めます。(HPマークより)。